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抗う

 

 闇の登場に会場が震える中、それをつれてきた当の本人は涼しい顔をしていた。


 「皆さんご安心ください。この闇はみなさんを襲いはしません」



 気味の悪い笑みを浮かべたサリュールに寒気がする。

 王子は怪訝そうな顔をしたまま口を開いた。



 「どういうことだサリュール」

 「この闇は私に忠誠を誓っております。私の命をちゃんと聞くのでご安心を」


 

 忠誠を誓っている闇。

 そんなのがいるなんて聞いてことはないが……実際にそうだとしたら……



 この男は一体何をするつもりでいるのだろう?



 「それで、お前はこのパーティーに闇などを持ち込み、何をするつもりだ」



 王子も同じことを思ったのかわたしの疑問をサリュールにぶつけた。

こんなときばかり気があっても……



 「ックク、簡単なことですよ。アゼリ王子」



 サリュールはそう言うと会場を見渡した。



 「ここにいる花音殿が本当に天子であるのか?この会場にいる皆様は同じことを思っているはずだ」



 演説でもするような口ぶりでサリュールは言う。

 チラリと闇の方に視線を向けるが、闇の声は聞こえない。


 もしかしたら、この闇があの男に忠誠を誓っているのは本当かもしれない。

 グッとした唇をかみ締める。

 よくない予感ばかりがわたしの中に増えていった。



 「だがその不安を私が解消しましょう!」



 両手を広げながら、そう言った彼はわたしに視線を戻した。無意識に体中に力が入る。




 「花音殿、貴方が本当に天子だというのなら……その力を今ここで見せていただきたい」



 会場がざわつく。

 どういう……こと。



 「花音殿は闇を操る言霊をお持ちだとか……。その力でこの闇を消し去って下さい」



 ニヤリと笑みを浮かべるサリュールをばれない様に睨みつけた。


 闇を消す……

 それはわたしが今までやってきたことだ。


 でもそれは……闇がわたしの共犯者であり、言うことを聞いてくれていたから出来たこと。

 ここにいる闇は……あの男の支配下にある。


 だとすれば……わたしの嘘っぱちの力は使えない……



 

 「今までの事件でも、暴れる闇をたった一言で消し去ったとか……その力をぜひこの場で……」



 わたしには、この闇を消し去ることなど出来ない……

 チラリと王子に視線を向ければ、険しい顔を返された。



 「天子」

 「…………はい」

 「お前だって、自分が天子と信じられてないことぐらい知っているだろう?」

 「……えぇ」


 知っている。

 確かにこの状況で闇を消し去ることが出来れば、良い機会だろう……



 「見せてやればいいだろう。天子の力とやらを……」


 やはり王子は気にわない……

 あの目はわたしを試している。王子だってまだわたしを本当に信じてはいないようだ。



 「……っ」



 何も言えない……。

 出来ることならやっている。


 こんなところで……こんないあっさりとわたしの復讐は終わってしまうのだろうか?



 「なんだ?出来ないのか!やはりっ」



 動かないわたしをみてサリュールは高々しく笑い声を上げた。



 「やはり今までの力は嘘だったのだな!闇を操って天子のフリをしていたのだろう!!!」



 会場に響き渡る声……



 嘘がばれてしまう。

 わたしはギュッと目を瞑り、降参しようかと思った……



 

 だが人間と言うのは追い詰められたときほど頭が働くものだ。



 今、この男が言った言葉……



 闇を操ると……そういった。



 そんなこと出来るのか?

 そんなこと簡単出来るならとっくに戦争は解決しているはずだろう。


 

 でもこの男は今それが出来ると言うように言った。

 もう一度闇に視線を向ける。この男はこの闇が自分に忠誠を誓っていると言っていたが……どうやったら闇が人間に自ら忠誠を誓うだろうか?



 だとすれば……この闇は操られている……?



 コレは賭けだ……

 わたしはギュッと手を握り締める。


 このまま黙っていてもわたしの嘘はバレてしまう。



 だとしたら……


 「失礼な方ですね……」


 わたしはニコリと笑みを浮かべながら、可笑しそうに口元に手をあてた。


 「何が可笑しい……?」



 男は怪訝そうな顔をする。

 わたしはその男をみて一層笑みを深めた。



 「余り馬鹿なことはしない方が身のためだと思いますよ?」

 「悪あがきをっ。そんなこと言って本当は出来ないのだろうっ」

 「わたしは貴方様のことを思って言っているというのに……」



 大げさに方をすくめた後、わたしはソッと優しくサリュール微笑みかけた。

 


 「もちろんその闇を消し去ることなど、わたしの力を使えば造作もないことです」


 

 ぐるりと会場を見渡せばその視線の全てがわたしに向かっていた。

 だがしかし、それを怖いとはもう思わない。



 「だけど、そんなことをすれば……」



 どうせバレてしまうのであるのなら、最後まで抗ってやろうではないか。




 「困るのは貴方ではないのですか?サリュール様」



 余裕の表情を崩したサリュールを見て、やはりまだ諦めるのは早すぎるとわたしは確信した。

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