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贈り物


「お初にお目にかかる私は隣国シェルリアのシルク・アゼンドと申します」


 同じような言葉を一体何度聞いたことだろう。

 顔に笑みを貼り付けながらもかなりの疲労がわたしを襲ってきていた。


 パーティーが始まってからというもの、国のお偉いさんが次から次へと挨拶してくる。

 


 「はじめまして、お会いできて光栄ですアゼンド様。花音と申します」



 その言葉にいちいち同じような言葉を返すのにも飽きてきた。


 

 なんとか全員分覚えようと必死にはなるが、これだけの人数。

 わたしにだって無理というものはある。


 豪華な食事も、飲み物も一つだって手を付けられない。



 「花音殿、お休みされなくて大丈夫ですか?」


 

 さすがのレヴォラもわたしの体調を心配して何度か声をかけてきたがわたしはそれをすべて断っていた。

 

 敵を知るに一番大切なこと……

 それは情報収集だろう


 天子のお披露目会というだけあって、普段はあまり公の場に出てこないような人も出てきている聞いている。この機会を逃すのはあまりにも惜しい。



 少々疲れはするが、このくらいまだ大丈夫だ。


 

 「えぇ、平気です」


 わたしはレヴォラにそう告げると次の方を笑顔で迎えた。




 


 

 「はじめまして、私コバル・サリュールと申します」



 この会場に来ている人間のほとんどがわたしが天子であるということに半信半疑である。

 だいたいのことは目見れば分かる。


 しかしこの男は……



 「はじめまして。お会いできて光栄ですサリュール様。花音と申します」



 言いながらもわたしはどこか緊張していた。

 この人は、わたしのことを信じてなんていない。

 ニヤリと浮かべている笑みが妙に露骨で、嫌だ。



 「失礼ですがサリュール様」


 

 そんな時後ろから声がした。

 振り返ればレヴォラが少し険しい目つきで目の前のサリュールを見ている。



 「護衛が何の用だ?わたしは天子殿とお話しているのだ。貴重な時間を」

 「ではそちらの大きな荷物の正体を言ってくださると嬉しいのですが」



 そう言ってレヴォラは視線を彼の後ろに移した。つられるようにわたしも視線をそちらに移す。


 彼の後ろには従者であろう人物が5人ほどいて、何か大きなものを守るように囲っていた。

 わたしもそれを見て眉をひそめる。


 

 「あぁ、コレか?これは天子殿へのプレゼントだ」

 「……天子様への贈り物はすべて受付にて回収したはずですが?」



 話を聞きながらそんなことがあったのかとわたしはびっくりする。

 だから、この場でわたしに何かを渡してくる人がいなかったと言うことか……



 「そんなこと言って、天子殿には渡さぬつもりであろう?そなたら国の考えは分かっている」

 「そんなことはありません。こちらで回収いたしますのでソレを……」



 レヴォラはそういうと、控えていた何人かの衛兵にそれを持ってこさせようとしたが



 「触るでない!!!!」



 サリュールのあまりにも大きな叫びに会場が静まり返った。

 視線がすべてこちらに集まる。



 衛兵もびっくりして動きを止めてしまった。


 

 「何事だ」



 あまり良からぬ状況を判断してか王子もマントを翻してこちらに向かってきた。

 遠目からでよく分からないがフェジーやセハンの姿もうかがえる。


 

 「ククッ丁度いい……」



 そんな周りをみて、サリュールはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

 悪寒が走り、嫌な予感がわたしの中を埋め尽くしている。



 「あちらのお方が天子へのプレゼントとしてあちらのを……。渡せといっても渡してくださらぬのです」

 「そうか」


 レヴォラの報告を受けた王子はクルリとこちらを向くと、サリュールに視線を向けた。



 「サリュール殿。そちらは天子へのプレゼントなんだろう?」

 「そうですが?」

 「ならせめてその中身だけでも教えてもたおう。こちらとて大切な天子に何かあっては困るから贈り物は回収し、点検をしてあと渡そうと考えていたのだ」

 「ほぉ、そうでございましたか」

 「……あぁ本来なら今すぐにでも渡していただけるとありがたいのだが」



 そういうと王子は目を細めた。



 「いいえ、このプレゼントは回収されては困るのです」

 「なぜだ?」

 「それは……このプレゼントはここで渡すからこそ意味があるからですよ……」

 


 嫌な笑みを浮かべるサリュールに周りの衛兵がその剣に手をかけた。

 会場中がヒンヤリとした空気に見舞われる。



 「それは一体何のだ?」



 王子が言うとサリュールはそのプレゼントと呼ばれるものに近づき、周りの従者を下がらせた。

 それはそれは楽しそうな笑みを浮かべると、彼はわたしに視線を向ける。




 「これはですね……」



 サリュールの手がプレゼントにかかる。



 「お前が天子ではないと証明するためのものだよっ!花音殿!!!!!」



 あらわになった、プレゼントにわたしは見開いた。



 「きゃっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 「闇だっ!」

 「なぜこんあところに闇がっ」



 異常ないほどのざわめきに包まれた会場。



 わたしはただただそれを見つめていた……

 

 黒い毛を身にまとった獣。

 それは間違いなく闇……


 でも何かがおかしい。

 だって……わたしはこんなとろこに闇がいるなんて話は聞いていない。


 ナナリは今回何も仕掛けないと言っていた。



 だとすればこの闇は……







 “どこにだってね、良からぬことを考える人間はたぁーくさんいるものよ”


 ナナリ言った言葉が頭を掠めた。

あけましておめでとうございます。


本年もどうぞ結木とその小説たちをよろしくお願いします。

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