お披露目パーティー
時間というものはすぐ過ぎる。
「天子様、大変打美しいです」
「白い衣装が本当に良くお似合いで」
周りにいる侍女たちは口々にわたしを褒め称える。
そんなこと本当に思っているのだか……
言っておくが、わたしの容姿は決して美しいと言われるものではない。醜くはないと思うが、10人に1人はいるような大変平凡な容姿である。
見る人によっては愛らしく、見る人によっては言葉を濁す、そんな容姿だ。
「ありがとうございます」
褒め称える人に口先だけの礼を述べるとわたしは立ち上がった。
本日は、天子様のお披露目パーティー当日だ。
「花音殿、本日の衣装大変良くお似合いでございます」
わたしの前に膝をついたレヴォラはそう言ってわたしの手に口付けた。その行動にもびっくりだがいつもと違って敬語なことにも驚く。
ついでに言えば、わたしの衣装に合わせたのか元からそういう衣装なのかは知らないが今日は白の軍服を着ていて、いつもと違う雰囲気のレヴォラにもびっくりする。
いつものレヴォラと言えば身分は高いくせに着ているのは下級の軍人と同じボロいマントと軍服だ。
「天子花音様」
すると続いてやってきたのこれまた白の衣装を身にまとったテルタッテ。
テルタッテはわたしの前まで来ると膝をつき、レヴォラと同じくわたしの手に口付けた。
「本日より花音様の専属護衛となりました、五大魔術師2階級のテルタッテ・ケサイムと申します。花音様付きとなれて大変光栄に思います」
そこまで聞いて、わたしはやっと昨日聞いたパーティーの決まりやら作法やらを思い出した。
こちらでは正式な場で上の立場の人間にこのような振る舞いは欠かせないらしい。
「顔を上げてください」
わたしは今だに自分の前に膝をつく二人に声をかけた。
顔を上げた二人と視線があいにっこりと微笑む。
「本日はよろしくお願いいたします」
今日は、それなりに大事な日になるだろう。
アデゥール国の人間だけではない、この世界の国々にいるたくさんのお偉いさんが来ている。
そしてその人たちも決してわたしがこの世界に来てしまった原因と無関係ではないのだ。
昨日さりげなくレヴォラに聞いてみたが天子の存在を求めていたのは何もこのアデゥール国だけではない。闇の被害にあっているのはこの世界すべてだ。
そしてこの世界でも一の大国となるアデゥール国が天子召還に抜擢されたというだけであって、天子を召還しろと言ったのはこの世界すべてであるといっても過言ではない。
中でも貴族や王族は天子召還に惜しみなく力を貸し、それを催促しただとか……
このパーティーにはわたしが憎むべきすべての対象が集まっている。
そう思うだけで、どす黒い感情がわたしの中をうごめいた。
「天子様、それではお時間になりましたら殿下がこちらにお見えになります。それまでおくつろぎくださいませ」
「えぇ、着替えを手伝ってくださってありがとうございました」
侍女たちは深々と頭を下げて部屋を出て行った。
残ったのはわたしと護衛のレヴォラ、テルタッテだけである。
「あの……二人とも楽にしてくれて構いませんよ。それに敬語も……」
「そういうわけにはいきません。花音殿が正式に天子としてお披露目されたら俺のような存在がタメ口というわけにはいきませんから」
「ふぅーん。まぁ僕は花音がいいって言うならいつも通りにするけどね。敬語面倒だし」
ここで二人の性格の違いが分かるというものだ。
「別に気にしないんですけどね」
「俺が気にします」
レヴォラがこれからずっと敬語だと思うと少し寂しかったが、これも仕方がないこと……と思うしかないのだろう。
「花音、今日は気をつけてね。他国の人間の中にはまだ花音が偽者だって思っている奴が五万といるからね。もちろん僕たちが守るけど……無茶な行動はしないように」
「分かってるよ。テルタッテは心配性だね」
わたしはまるでわたしを年下のように扱うテルタッテに笑みをこぼした。
「それから花音殿。本日国王陛下のご欠席が先ほどきまりました」
「国王……陛下?」
そんな存在がいたのか……というのが素直な感想である。
だってほとんどのことはあの王子がやっていたのだから当たり前であろう。
「国王陛下は引きこもり気味だからね。アゼリ王子が変わりに政務をやってるんだよ」
「テルっ」
「本当のことでしょ?」
引きこもり気味の国王陛下とは……なんとも情けない。
「陛下は長年の闇の問題に深く傷ついてしまったのです。しかし今回花音殿が召還されたと聞き大変喜んでおりました」
「そうですか……」
なるほどね……国王陛下も天子信者というわけか。
自分で解決出来ないからって引っ込んで、助かる手立てが出来た瞬間それにすがる。なんとも醜い大人だ。
ある意味あの王子以上に身勝手で傲慢。自分が一番可愛いタイプだろう。
まぁわたしも自分のことが何だかんだで一番可愛いから、何ともいえないが……
「でも今日は欠席なんでしょう?」
「陛下にも心の準備というものが必要なのです」
何とも情けない。
そう思った時、部屋をノックする音が聞こえた。
「はい……」
「王子殿下がお見えになりました」
返事をすると扉の向こうから侍女の声が聞こえてくる。
来たか……
「分かりました。すぐに参ります」
わたしは小さく笑みを浮かべたあと、後ろに控えている二人を振り返った。
「行きましょうか」
青い月が世界を照らす。
闇の時間の始まりだ……