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見つからない答え

 「セハン」


 なんともいえない緊張感が漂う一歩手前でセハンを呼ぶ声が聞こえた。

 聞いたことのある声。あの男……フェジーの声だ。


 「なんでしょうか?」


 セハンはわたしから視線をはずして、後ろにいるフェジーを見た。

 

 「その娘、どうだった?」


 質問はセハンにしているはずなのに、その青い瞳はわたしを射抜くように見つめてくる。忘れかけていたあの恐怖心と緊張感が一気によみがえり、身体が強張るのがわかった。


 「ええ、とりあいず見てみたところによると外傷もなく、怪しいものも持っていないようです。」


 セハンは落ち着いた声で答えていた。フェジーが怖くないのだろうか?

 いや、それよりも気になることがあった。


 セハンは今なんと言った?

 “見てみたところ”と言わなかったか?

 

 セハンはわたしと会話している中でわたしに一度も触れていない。

 なら一体、何をどうやって見たというのだろうか?

 

 分からない、分からない、分からない。


 情報が足りない過ぎる。もっと情報がほしい。


 「そうか」 



 分からない状況に苛立つわたしをよそに、フェジーはセハンの言葉を聞くと、まだ膝ついていた衛兵に一言何かを言ってわたしの方へ近寄ってきた。

 その瞬間恐怖が身体を駆け巡る。いったい何をされるのだろうか。

 これ以上無理というほど手を握り締めて、せめてもの抵抗としてフェジーを睨みつけた。

 しかしわたしの睨みなどフェジーには全く無意味なようで彼は涼しい顔をしてわたしの真横までやってくる。

  

 「悪くは思うな」


 わたしに一瞬だけ視線を合わせたかと思うとフェジーはそう言ってわたしに手を伸ばしてきた。

 おもわず目をつむり、よく分からない衝撃に耐える。


 そして、それは一瞬のことだった。


 フェジーがわたしの腕を掴み、数秒するとその手は離れていった。

 そしてその瞬間、わたしは自分の手首に違和感を感じたのだ。


 瞑っていた目をそぉと開けてみると、フェジーはすでにわたしに背を向けていて、扉の近くにいる衛兵の人に何かを話しかけている。


 セハンはまだわたしの近くにいて、少し申し訳なさそうな顔をしていた。


 手首に感じる違和感。まさかとは思う。

 しかし自分の手を動かそうとしてみても何かに邪魔されて動かすことは出来ない。想像できるものは一つしかなかった。

 

 わたしはゆっくりと自分の首を反転させて、恐る恐る手首を見てみた。

 するとそこには鈍く光をはなつ鉄製のもの。


 これは……どこからどうみても“手錠”だろう。


 はずれないかと、手を動かしてみるもののカチャカチャという音がするだけどその手錠はとれそうにない。


 しかし、一体どうやってつけたのだ?

 確かにフェジーはわたしに触れたがそれはホンの数秒のことだし、触られたのあくまでも“腕”であり手首を触られた感触など一度もしなかった。

 それなのに手錠はしかっりとわたしの手首についている。


 また分からないことが出てきてしまった。

 この感じからすると、もしかしたらこの世界には“魔法”と呼ばれるものがあるのかもしれない。そうでなくてはこの分からないことたちを説明できない。


 「ごめんねお嬢さん」

 

 手首にきらめく手錠を見つめたまま思考をめぐらしていると、セハンの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

 さっきの恐怖を感じた彼とは別人のような態度に少し驚きながらも今はそれよりも大事なことがあると思い無視することに決めた。

 とりあえず、わたしはどうして手錠をされなくてはならないかと目で訴えてみる。すると以外にもそれは彼に伝わったらしく彼は説明してくれた。


 「実はね、これから殿下にお嬢さんを会わせることになっているんだよ。危険なものは持っていないようだけど、何があるか分からないからね。その手錠は念のためだよ。僕らは殿下を守ることが使命だからね」


 優しく丁寧な説明になるほどと思うのと同時になぜ殿下に会う必要があるのか、と考える。

 しかも殿下……すなわち王子様だろうが、そんな人がここにいるということはここは城と呼ばれる場所なのだろうか?

 なぜわたしがそんなところいるのだろう?

 そうだ、そもそもわたしが何故こんな異世界に来てしまったのかもまだ分かっていない。

 あぁもう、頭がパンクしそうだ。考えるべきことが多すぎて考えられなくなってきている。

 っとその時扉の開く音がした。


 「失礼いたします。殿下の準備が整いましたので、娘を王の間に」


 扉から入ってきた衛兵はしっかり90度に腰を折った後そう言った。


 「了解した。セハン、娘を連れて行け」

 「わかりました」


 フェジーは衛兵の言葉に頷くとセハンに目をむけてそう言い、自分は一足先にそこから出て歩き出した。 

 

 「さて行こうか、お嬢さん」


 セハンは手錠のせいで平衡感覚がいまいちのわたしの肩を支えてくれる。

 わたしはゆっくりと、王の間と呼ばれるその場所へ歩き出した。

 

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