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小さな魔術師

 世界が凍りついたように見えた。

 

 この世界に来て何度目かの死の恐怖を感じる中、わたしは一つ不自然なものを見つける。


 視界に写るレヴォラの顔。

 その顔はこの場に似つかわしくない、呆れたような……でもどこか安堵したような顔であった。


 「テル」


 レヴォラはその顔のままそう呟くと、ふぅと大きくため息をつき、構えていた剣をおろす。


 そんなレヴォラをみて周りの衛兵もこちらをマジマジと見たかと思うと、どこか拍子抜けしたような顔をしてダラリと腕を下げた。


 「テルタッテ様……」


 この場にいる中で今の状況を理解できていないのはどうやらわたしだけのようだ。

 

 その時フッと、自分の首にあてられていた冷たい感触が離れていく。

 つられるようにして振り返れば、そこにわたしよりも少しだけ小さい少年がニコニコと微笑みながら立っていた。


 灰色のローブをすっぽりと被っていてその髪色はは見えないが、こちらを興味深げに見つめる赤と紫のオッドアイが印象的だった。

 それに一瞬見ただけで分かるほどの美少年だ。


 あまりに無邪気なその姿に、一瞬何かの間違いかと思ったがその手には先ほどまでわたしの首にあてられていたのであろうナイフがしっかりと握られている。


 っと言うことは、さっきまでわたしたちを攻撃してきたのはこの少年ということでまず間違いないだろう。


 「花音殿……お怪我はありませんか?」


 呆然としながら少年を見つめていたわたしにレヴォラが呆れた声が聞こえてきた。


 「怪我はないですけど……えっと……この子は?」


 先ほどの感じからするとこの少年とレヴォラは知り合いであるようだ。周りの衛兵もみな知っているようだし……


 「あぁ……この子は」

 「はじめまして、天子様。僕はテルタッテ。よろしくね」


 レヴォラは紹介するよりも先に少年がにこやかにそう言ってきた。あまりに無邪気なその笑みを見ていると頭が混乱してくる。

 なんなんだこの子。


 「お前天子を攻撃なんてしてどうなるか分かってるのかっ」

 「別に当ててないから大丈夫でしょ?当てるつもりもなかったし」

 「テルっ!」


 少々イラついた様子のレヴォラにわたしはびっくりとするが、そんなレヴォラを軽くあしらう少年……テルタッテといっただろうか?彼にもびっくりする。


 そんなことを思ってると、テルタッテの視線がこちらを向いた。びっくりしながらもその瞳を見返すと彼はニンマリと笑みを見せる。


 「天子様って本当に魔術が使えないんだね。僕、てっきり天子様が嘘ついてるのかと思ったよ」


 わたしが嘘を……?


 だから、攻撃なんてしてきたのであろうか?

 命の危険が迫ればわたしがボロをだして魔術を使うと思って?


 「でも天子様から魔術の気配なんて全然しないかったし、異世界には魔術がないって本当なんだね」

 「テルっ。お前失礼だろっ」

 「えぇー。僕は純粋に不思議だなぁって思っただけなのに……。だってさ!魔術を使わずに闇を倒したり、従わせたり出来るんでしょ?どういう原理なのかレヴォラだって気にならない?」



 そう言うテルタッテの言葉にレヴォラは返す言葉もないように黙り込んでしまった。

 わたしの力の原理……たしかに疑問に思って当然だろう。


 真実なんて、あまりにも単純すぎて説明するのすら難しいけどね。



 「とにかくお前、壊した馬車を何とかしろ。花音殿は疲れているんだ」

 「あぁ……そうだよね。ごめんね天子様。ついつい夢中になっちゃって」

 

 悪気はないんだっと言うような顔でそういうテルタッテ。そしてそのままニコリと微笑むと、シュッと腕を軽く振った。

 

 すると、地面に散らばっていた馬車の破片と思われるものがふわりと宙に浮き、カタカタと揺れ動く。その光景をテルタッテは無表情に見つめると、パチンッと指をならした。



 瞬間、破片は光を纏いながら壊れた部分に集まっていく。

 その数秒後には馬車元通りになっていた。


 「すごい……」


 今まで爆発するような攻撃的な魔術しか見てこなかったので、こんな魔術もあるんだと思わず関心してしまった。


 「はいっ元通り。これでいいでしょ?」


 そんなすごい魔術を使った当の本人は何てことない顔をしている。

 


 それにしても、こんなすごい魔術をこのくらいの年の少年が簡単に扱えるものなのだろうか?さっきの攻撃的な魔術も大人の魔術師が使っている魔術の威力と大差ない……いやっそれ以上のものに見えた。




 この少年は一体……



 「花音殿、詳しい話は馬車の中で。屋敷に向かいながらにしよう」


 そうやって気を使ってくれるのはさすがレヴォラという感じだ。


 「それって僕もってこと?」

 「当たり前だ」


 そう言って、レヴォラはテルタッテを馬車に引き込んだ。



 「さて、聞きたいことがあれば何でも聞いてくれて構わない」


 馬車が動き始めるとレヴォラはそう言って、こちらに視線を向けた。

 何でも……ね。


 なら遠慮なく……。


 「どうして、わたしを攻撃してきたの?」

 「……えっ?」


 テルタッテに視線を向けながら言えば、彼はわたしの質問に驚いたように目を見開いた。


 「さっき言ったでしょ?天子様が実は魔術使えるんじゃないかなぁーっと思って、それを試しに……」

 「それだけ?」


 それだけだとはどうしても思えない。

 問い詰めるように言えば、テルタッテはパチパチと瞬きを繰り返したかと思うと、次の瞬間可笑しそうに笑い出した。


 「ハハハッ、噂は本当だね。クククッ……うん、天子様にだったら仕えてもいいかな」

 「……仕える?」



 何を言って……


 わたしが首をかしげた瞬間、テルタッテの赤と紫の瞳がわたしと射抜くように見つめた。


 思わずゴクリとつばを飲み込む。




 「改めまして、天子花音様。僕はテルタッテ・ケサイム。今回天子様の護衛として任命されました。どうぞよろしくお願い致します」



 “実はねその魔術師ってのは、五大魔術師から選ばれたそうだよ”


 そんな言葉がわたしの頭を駆け巡る。

 

 美しいオッドアイの瞳をわたしは呆然としながら見た。



 じゃあこの子が……わたしをこの世界に連れてきた、五大魔術師の一人……?



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