お披露目
「お嬢さん聞いてる?」
レヴォラと五大魔術師の話題で盛り上がっていたセハンが、フッと黙り込んでしまったわたしに気がついたように話しかけてきた。
わたしは咄嗟の作り笑いをセハンに向ける。
「えと、ごめんなさい。ぼぉっとしてました」
もう苦笑するしかない。
セハンはそんなわたしは一瞬無表情に見つめたがすぐにいつもの笑顔になった。
「そう……。あぁそれからもう一つお嬢さんに言わなきゃいけないことがあったんだ」
「まだ何か?」
セハンの言葉にレヴォラは不思議そうな顔をする。
「こっちのほうが大切な話なんだよね」
そういえばセハンは悪戯っぽい顔をした。
何?っと思いながらセハンを見つめると彼は笑みを深くする。
「実はね、お嬢さんを……すなわち天子様を歓迎するパーティーが行われることが決定したんだよ」
「…………はっ?」
パーティーって……。
さすがは異世界。さすがは王子様とでも言うべきなのだろうか?
わたそは言葉を失ったまま固まる。
「天子の存在が各国に明かされてからお披露目しろっていう声が国民や他国からもう大量に来ていてね。殿下も目を覚ましたことだし、そろそろ……ってことらしいよ」
なるほどね。
本物と分かったとたんコレか。
「そのような場は苦手か?」
浮かない顔をするわたしを見てレヴォラがそう尋ねてきた。
嫌いもなにもパーティーなんてもの行ったことすらない。そんなの金持ちのすることだろう。
コレも世界の違いなのか、こちらではパーティーは行ったことがあるというのは当然なのかもしれない。
「いいえ……」
ただ珍獣扱いされながら見られるのが嫌なだけ……
というのは口が裂けても言えない。
だか珍獣扱いされるのは確かだろう。
出来ることなら行きたくなどない。
「まぁ、各国の上級クラスの方が集まるし、国民の前にも姿を見せることになってるから大変だろうけど……仕方がないね。何て言ったって本物なんだから」
本物……ね。
ある意味本物と言えば本物だか、偽者と言えば偽者だ。
「開催日は今から1週間後。その頃には王子も回復されてると思うからね。大丈夫かな?」
言葉ではわたしに確認をとるように言ってるが、その目はわたしにいいえということを許していない。
わたしにパーティーに行かないという選択肢は最初から与えられていないようだ。
それならそうとはっきり言えばいいものを……
「わかりました」
ふんわりと微笑みながらそういえば、セハンはありがとうと言って微笑んだ。
「それじゃ、あまり無理はしないように。パーティー楽しみにしてるよ」
「はい」
「それからレヴォラ。この後パーティーの護衛の打ち合わせがあるらしからそっちに向かってくれる?」
「分かりました」
レヴォラの返事をきくとセハンはこちらをむき最後にニコリと微笑んだ。
「それじゃあ、次はパーティーのときに」
「楽しみにしてます」
「花音殿、俺もこれで」
「はい、レヴォラさんもお仕事がんばってください」
わたしは微笑みながら二人を見送った。
扉が閉まるとその笑みがフッと剥がれ落ちる。
楽しみにしてます?
自分が言った言葉に吐き気がしそうだ。
この国の貴族たちだけでもムカつくのにそれが他国まで加わり、さらには国民まで加わっりしたらわたしはどうなってしうまうか。
前回の天子の影響で、“天子”の印象は悪い。他国の人間にどのように扱われるか……。その状況を頭に思い浮かべて顔をゆがめたときだった。
「あらっ、逆にとればコレは良い機会じゃない」
不意に聞こえた声にわたしはビクリと肩を揺らす。
部屋を見わたせば黒い霧のようなものが宙を舞っていた。わたしはそれを見て目をスッと目を細める。
「人魚……」
呟けば、その霧はフワフワとしながらも人の形をとっていった。そしてものの数秒でそれは真っ黒な人魚に変わってしまう。
「ふふっ、こんばんはカノン。そろそろ人魚じゃなくてナナリって呼んでくれると嬉しいのだけど」
冗談交じりにそういう人魚、ナナリを見ながらわたしは窓の外に目を向けた。いつの間にか夜になっていたらしい。気がつかなかった。
「……ナナリ、良い機会ってどういうこと?」
「あらっ、嬉しいわね」
本当に嬉しそうに微笑むナナリを見ると何とも微妙な心境になる。
「ふふふっ。この国の人間が最初カノンを酷く扱ったでしょ?それが今はだいぶよくなったそれはどうして?」
「……わたしが天子であるという証拠を見せたからでしょ?王宮を闇に襲撃させて……まさかとは思うけど、またするつもり?」
パーティー中に闇を?確かに信じ込ませるためには有効だが、逆に疑うものが出てくるだろう。公の場に闇が都合よくでてくるなんて誰かが故意にしたとしか思えないのだから。
「カノンが考えてること分かるわよ。もちろん私だって分かってる。そんなリスクが高いことするわけがないわ。でもねカノン、パーティーに来るのは貴方が偽者だと疑った人間ばかりなの。かなり悪口を言われると思うわよ?」
「そうね……」
そのくらい予想は出来てる。それに耐えきる自信はもちろんあるし、言いかえす自信もある。
だがそれに言い返すだけで、彼らはわたしを天子だと信じるだろうか?
天子だと認めさせなければ、復讐なんて始められない。
信じられてこそ価値がある。信頼されればされるほど都合がいい。
「大丈夫。どこにだってね、良からぬことを考える人間はたぁーくさんいるものよ」
ナナリの不適な笑みにわたしはそっと微笑を返した。