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想像する未来


 (知ってる?知ってる?)

 

 そこには真っ黒な毛をもったウサギによく似る獣たちが集まっていた。そのうちの1匹がぴょんと前に出て面白可笑しそうに周りの仲間に問う。


 (何が?何を?)


 わけのわからない仲間はそう言って小さく首をかしげた。するとその獣は悪戯な笑みを浮かべる。言いたくて仕方がないという感じだ。

 

 (なんとねっ!天子が現れたんだって)


 声高々にそう言った獣に、周りの獣は微妙な視線を送った。何かに戸惑うかのように……

 

 (天子……天子って僕たちを殺すっていうあの天子?)

 (そうそうその天子だよ)

 

 一匹がそう問えば、獣は肯定するためにひとつ頷く。

 するとそれと同時に、周りで聞いていた獣たちの空気がフッと変わった。


 (天子?天子だって?)

 (じゃあ殺さなくちゃ、あの方に危害を加える前にその天子を殺さなきゃ)

 (殺さなくては殺されてしまう)

 (人間の天子。殺せ殺せ)

 (殺せ殺せ殺せ殺せ殺せっ!)


 ウサギによく似たその可愛らしい風貌から予想できない鋭い牙をむき出しにして、毛に隠れていたのであろう長く切れ味のよさそうな爪をとぎ始める。

 木々がサワサワとゆれ、どこからともなく彼らとは違う黒い獣たちがその場に集まってきた。


 (あの方を殺そうとする天子だって?)

 (なら人間の愚王共々殺してやろう)

 (さぁ牙を向けろ)

 (すべては我らがあの方のために……)

 (あぁ!ちょちょ、待って待って!)


 すっかりその気になっている周りの獣たちをみて、原因となる話をした獣は焦ってそれをとめた。そうしてなんとか静かになった獣たちをみて安堵する。


 (あのね、殺さなくたって大丈夫だよ)

 (どうして?どうして?)

 (殺さなければあの方が……我らが……)

 (落ち着いてよ。ここからが重要なんだ)


 それを聞いて獣たちはまた騒ぎだした。そして先を促すように獣をみる。


 (実はねこれはナナリ姫からの伝言なんだ。すべての僕ら闇に伝えるようにってね)


 獣はニィと口をあげた。笑うウサギとはなんとも奇妙である。


 (その天子っていうのはね……)


 どこかどこか遠い森。

 世界の誰もが気付かないうちに崩壊への下準備がはじまりつつある……




 ――――アデゥール国――---


 「王子様が?」


 わたしは部屋にやってきたレヴォラの話を聞いて少しだけ目を見開いた。

 

 あの王宮襲撃事件から10日がたとうとしている。

 わたしという存在……天子の存在が明かされたのがほんの3日前のこと。


 そして今さっきあの王子が目覚めたという報告を聞かされた。


 何度か数秒ほど目を覚ますことはあったが、今回はまともに会話が出来るほどだという。


 王子の目覚めに城はかなり騒いでいる様子だ。

 しかしながら闇に怪我を負わされて10日も起きないなんて、闇がどれだけ恐ろしい存在かということを改めて思い知らされた。


 そしてソレを操ったのが自分だと思うと……いまいち実感がわかない。


 「と言う訳だ、王子の容態が落ち着いたら……」

 「はい、分かりました」


 レヴォラの報告を聞く限りでは王子はわたしに会いたいと言っているそうだ。


 また嫌味を言われるか……もしくは計画が上手くいき……王子がわたしを天子だと信じ込んだか。

 会いたくはないという気持ちはあるが会わないわけにいかない。


 王子の信頼を勝ち取ることは重要だろうから……


 「それから……」


 少し言いずらそうな声をするレヴォラを見てわたしは首を傾げた。

 こんなレヴォラの顔を見たのは初めてだ。


 「俺が……お前の専属の護衛になることが正式に決まった」

 「……え」


 レヴォラが?

 それはそれは……


 「嬉しいです」


 思わず笑みがこぼれてしまう。

 レヴォラはそんなわたしを見て少し目を見開いた。 

 そういえばこっちに来てからこんなに自然に笑みがこぼれたのは初めてかもしれない。

 

 だがしかし嬉ことには変わらない。


 「もし全く知らない人が護衛とかになったらどうしようかと思いました。レヴォラさんなら信頼できますし……本当に良かったです」

 「……そういうことか」


 ぼそりと呟かれた言葉をわたしは聞き取ることが出来ず首をかしげた。


 「あぁ……だが……専属の護衛は俺だけではないようだ」

 

 わたしはその言葉にもう一度首をかしげる。


 「護衛には2種類いる。交代制でお前を護衛するただの護衛と、俺みたいにほぼ1日中護衛する専属の護衛だ。前回の天子の専属は一人だったが……今回は2人になった。武術を専門とする俺ともう一人……魔術を専門とする魔術師がお前の専属護衛となる」

 「魔術師?」

 

 魔術師と言われて思い出すのはわたしを殺そうとした……あの光。

 それからわたしを召還したのも魔術師と言う存在だ。


 わたしの中で魔術師というものはあまり良い印象がない。


 「その魔術師というのはどういう人なんですか?」


 とは言っても全てが全て悪い人と決め付けるのはよくない。出来るのならば険悪な関係であるよりも友好的になるべきだ。

 たとえ全て壊してしまうことになろうとも……


 「それが、俺も誰かよく分からないのだ」


 分からない?わたしは首をかしげてレヴォラを見た。


 「それで誰であるか聞こうとしてフェジー様に聞きかけたところで殿下の目覚めが報告されて、結局分からずじまいということだ」


 なるほど……


 「魔術師……ね」


 わたしは空を見上げて、これから先の未来を想像した。

 果たしてそれは、美しいのか、汚いのか。

 

 わたしにだって分かりはしない。

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