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【幕章】動き出す世界・上

 ピチャリと水しぶきが舞い、黒い霧が辺りを浮遊する。


 その霧は少しずつ人の形をとっていき……数秒すればそれは黒髪に黒い瞳をもった人魚の姿へと変わっていた。


 「あら……おかえりなさい」


 人魚ことナナリは自分の目の前にいる犬型をした闇をみるとクスクスと笑い声を上げながらそう言った。


 「お勤めご苦労様。大成功だったそうじゃない……ふふふっカノンも喜んでいたでしょう?」


 ナナリのその言葉を聞いて犬型をした闇のリーダーは少しだけ顔を歪ませる。


 (ナナリ姫……お聞きしたいことがございます)


 闇は少し言いにくそうにそう言った。

 するとナナリはちょこんと首をかしげてなぁに?と問いかける。


 (なぜ……カノン様に本当のことを教えなのでしょうか?)

 「……その質問には前にも答えた気がするわ。自分で記憶を取り戻したほうがいいと思ったからよ。私がもしカノンに本当のことを言ったとして……カノンはソレを信じられるかしら?」


 そう言われてしまえば答えは否としかいいようがない……。だからといっていつ思い出すかも分からないカノンの記憶を待っているのは何とも効率的ではない気がする。


 それに……


 (カノン様には一刻も早く記憶を取り戻してもらうべきであると……ナナリ姫も分かっておるでしょう?我らとてカノン様が自力で思い出してくれればそれが一番とは思います……だからといって自力で思い出すのを何年も待っているほど時間はないでしょうにっ)



 その言葉を聞いて、ナナリは不適に微笑んだ。


 「ねぇ……それはあの方のことを思って言っているのかしら?」

 

 いつの間に移動したのか、ナナリは闇の目の前まで来ていてその首すじをそっと撫でながら聞いてきた。なぜか悪寒を感じ闇はブルリと震える。


 (そうです)


 そういった瞬間、首筋にナナリの爪がグイッと食い込む。その可憐な容姿からは想像できないほどの力が込められる。それは彼女が闇であり……また上級の位を持っていることを示していた。


 闇は声になら声をあげて、グルグルと呻くがナナリは手の力を緩めようとはしない。それどころかその力はどんどん強まっていく。


 「ふふふっ」


 ナナリの笑い声が響きわたり、闇の意識が途切れそうになったとき……フッとその力が緩まった。

 奇妙な声を上げ、息を整えながら闇は一体何が起こったのかと辺りを見わたす。そしてナナリの顔をみて驚愕した。


 その真っ白な肌に一筋の血が滲んでいる。

 

 ナナリはその傷を指先でそっと触ると不快そうに眉間にしわを寄せてその視線を後方にやった。 

 その視線の先にいるのは……犬型をした闇……首を締め付けられていた彼の仲間だった。ほとんどの仲間はナナリに恐怖して動けなかったが、その闇だけは彼を救うために動いたのだ。


 しかし、ナナリに傷をつけるのは自殺行為と言ってもおかしくない。

 ナナリに傷をつけた闇は来るであろう死への衝撃に目を閉じた……



 しかしその衝撃はいつまでたっても来ない。恐る恐る目を開けてみればナナリはクスクスと笑みをこぼしながらこちらを見ていた。


 「本当だったら殺してあげたいところだけど……今回は私も悪ふざけが過ぎたし……ふふふっそれに貴方は今回カノンのためによく働いてくれたから、それに免じて許してあげるわ。ちょっとイライラしてたのよ、ごめんなさいね」


 言いながらナナリは自分の顔に出来た傷をソロリとなで上げる。すると水の膜がその傷を包み込み次の瞬間にはその傷は消えうせていた。


 「それから……カノンの記憶のことだけれど……」


 ナナリは自分の髪をいじりながら少しだけ困惑気味の表情を浮かべる。


 「これはあくまで私の憶測……だけど確証がないわけではない。というよりもそのほうがしっくりとくると言うべきからしら?」


 闇たちはそっと聞き入るように耳を傾けていた。


 「カノンの記憶を消したのは……あの愚王たちではなくて、もしかしたらあの方かもしれないわ」


 ピチャリと水しぶきが舞う。




 同時刻、王宮


 「レヴォラ・シアード、そなたを天子カノン殿の正式な護衛として任命する」

 「はっ」


 いつもの軽装とは違う、重そうな正装を身にまといながらレヴォラは深々と頭を下げた。

 カノンが天子であると判明し、正式な護衛が必要となった時一番最初に候補にあがったのはやはりレヴォラだった。


 あの時……王子が計画した偽天子暗殺計画をレヴォラが止めていなければ世界は救世主を殺してしまったことになっていたのだ。

 天子を救ったレヴォラにこそ護衛はふさわしいと誰もが口々に言い、レヴォラ自身彼女の護衛になろうと心に決めていたため、レヴォラが護衛となることはすんなりと決定した。


 「レヴォラよ」


 簡単な儀式を終えたあと、レヴォラの元にはフェジーが訪れた。フェジーの姿を見たレヴォラは深々と礼をとる。


 「今回はあの娘の護衛を引き受けてくれたこと感謝する。そなたならきっと上手くやっていけるだろう」

 「恐縮でございます」


 頭を下げたままそういうレヴォラにフェジーは苦い笑みをこぼすだけだ。


 「ところで……一つお聞きしたいことがあるのですが」


 顔を上げたレヴォラはフッと思い出したかのようにフェジーにそう問うた。


 「なんだ?」

 「はい。私以外にももう一人花音殿……天子の第一護衛として魔術師がつくと聞きました。一体誰がつくかフェジー様はお知りでしょうか?」


 前回の天子のときは武術を担当する一人だけが専属の第一護衛としてついていたが、今回は本物ということもあり人の攻撃から守るために騎士のレヴォラを、闇の攻撃から守るために魔術師を一人専属でつけるという話だった。


 しかしこの場にはその魔術師らしき人物はいない。


 「あぁ……その魔術師は」

 「っ失礼致しますっ!!!!」


 フェジーが答えようとしたとき、部屋の扉が大きくな音をたてて開いた。中に入ってきたのはどうやら王子付きの衛兵のようだ。

 息を切らしているところをみると走ってきたのだろう。


 「なんだ?」


 フェジーが冷静に対処すると、衛兵は少し息を整えてから姿勢を正した。



 「お伝えします。先ほど、意識を失っていた殿下が目をお覚ましになりましたっ」



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