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天子カノン

 赤と青の三日月が交差するこの空にもだいぶなれた。

 今は青の月が前に出ているから夜。


 最近知ったのだがこの世界には一年に一度明るいままの夜があるらしい。いわゆる地球でいう白夜のような光景に似ている。

 わたしが召還されたあの日はちょうど白夜。なんでもその日は魔力が高まるとかでわざとその日に召還したらしい。


 夜風にあたりながらぼんやりとその月を眺めていると、フッと自分の後ろに気配を感じた。

 振り返ればそこにはわたしが待っていた者たち……


 わたしはその者たちを見るとニコリと微笑んだ。


 「昨日はどうもありがとう」

 

 そういえば、低く唸るような声が返ってくる。視線の先にいる者たちは、昨日王宮を暴れまわった闇たちだ。

 真っ黒な体毛に覆われているその闇は犬よりも少し大きくて一見恐そうだが、近くで見てみれば目がクリクリとしていて案外可愛らしい顔をしている。

 もちろん、その威容に長く鋭い牙を見なければの話だが……


 (何も気にすることはございません。我らがカノン様に従うのは当然のこと)


 そう答えてくれたのはこの闇たちのなかでもひときわ大きな存在。王子をかみ殺そうとした闇だ。この子がこの闇たちのリーダーらしい。


 「そっか。……ねぇ……どうして教えてくれないの?わたしと……闇の関係……」


 ずっと疑問に思っていたことだ。


 人魚にこの国に復讐する力をくれたと頼んだとき彼女はこの犬型の闇をわたしに託してくれた。

 最初はその容姿の恐ろしさに自分が逆に食われるのでは?と思ったが、闇たちは恐いくらいわたしに従順だったのだ。


 わたしがポツリポツリとこの国に復讐してやりたいこと、そのためにこの国の人間にわたしが本当の天子であると思わせたいことを話すと彼らはだったら良い方法がありますと言い今回の王宮襲撃計画を立ててくれた。


 この国全体にわたしが天子であることを知らしめるには王子が殺されそうになったところを助けてやるのが一番手っ取り早いということであの演出となったのだ。


 闇とわたしの関係がバレるのでは?っと心配になりながらもこの計画をやってみたら、それは大成功に終わった。

 あの場にいた衛兵のほとんどがわたしを天子と信じ込みその話をたくさんの人間にしたため、わたしが本物の天子であるという話はほぼ確定事項となったようだ。

 

 ただ一つ気になるのは王子がわたしを天子と信じたかがよく分からないと言うこと。

 王子は一番深手を負っていてわたしが助けた後すぐ意識を失った。なんでもあと数秒わたしが助けるのが遅かったら死んでいてもおかしくなかったらしい。意識を保って戦っていたことがおかしいくらいの怪我だったそうだ。

 あのあとすぐに医務室に運ばれて、今も集中治療中とのことだ。


 何もそこまでやらなくても……と後で闇たちに言ったところ、まだ足りないくらいですとの答えが返ってきてわたしは苦笑することしか出来なかった。



 (……それは、ナナリ姫が自分で思い出さなくては意味がないことだとおっしゃっておりましたから)



 わたしの質問に闇は少し言いにくそうに答えた。


 ナナリ姫……いわゆるあの人魚が口止めしているということ……。だったら今度人魚に会った時にでも聞いてみるしかない。


 「分かった」

 (申し訳ない)


 しゅんとする闇がやっぱり可愛いと思った。


(我らは一刻も早くその記憶がお戻りになることを願っております。そうすれば皆喜ぶ。きっとあの方も……)

 「…………あの方?」


 あの方って誰?と聞こうと思ったとき、闇たちが一斉に後ろを振り替えり月を見上げた。

 つられるようにしてわたしも月を見上げると青い月が後ろに下がり赤い月が前に出てこようとしている。


 朝が来るのだ。


 (カノン様……)

 「うん。もう帰っていいよ」


 微笑みながら言う。

 この犬型をした闇は別に夜しか動けないと言うことではないが日の出ている時間はどうも魔力が弱まるらしい。そんなときに王宮の人間に会ってしまったら勝てるかどうか微妙なところなので日が出る時間はあまり外の出ないそうだ。


 (我らの力が必要なときはいつでも及びください。すぐに駆けつけましょう)


 最後にそう言い残すと闇たちは夜に溶けるように消えていった。


 「……ありがとう」


 わたしの小さな呟きは空に消えていく……。

 しばらくその場にたたずんでいると、ぼんやりと夜が明けていくのが分かった。


 「あっ」


 そのときやっと早く自分の部屋に戻らなくてはいけないと言うことに気がつく。朝になれば誰かしら部屋に来てもおかしくない。


 わたしは急いで自分にあてがわれた……いいや、世界を救う天子様にあてがわれた部屋へと向かった。


 部屋についた後、数時間して通常の起床時間になると部屋をノックする音が聞こえて誰かが入ってくる。

 それは王宮内で何度も見かけた侍女たちだ。彼女達はベットに腰掛けたままでいるわたしを見ると深々とお辞儀してニコリと微笑んだ。


 「おはようございます天子様。良い朝でございますね」


 わたしはそんな彼女達を見てふわりと作り笑いを浮かべる。


 「おはようございます」




 王宮襲撃から1週間後……


 今までアデェール国の王宮内および上級貴族にしか報告されていなかった天子の存在が、アデェール国全域及び他国の王族たちに正式に報告された。

 

 また偽者なのでは?と心配する声もあがったらしいが、その事を見越して、天子に魔術はなく代わりに闇を止めることが出来る不思議な言霊を操るということも一緒に報告されたと言う。


 実際にその光景を見た衛兵があまりにも熱く説明するものだから民衆のほとんどが信じ込み、世界は天子の出現に安堵した。なかには涙するものもいたと言う。


 かくして天子カノンの名は世界中に知れ渡った。


 


 「……馬鹿みたい」


 その報告を聞いてわたしは小さく呟く。


 まだ誰も知らない

 その天子がこの世界を壊そうとしているなんて……

これで一区切りとなります。

読んでくださりありがとうございました。



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