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真相、そして

 貴族たちはコソコソと小さく話している気なのだろうが、その声はばっちりと物影に隠れるわたしにも聞こえてきた。


 「あの町への訪問……本当の目的をご存知かね?」


 そう言ったのは腹のでた貴族。


 本当の……目的?

 そんなものがあったと知らなかった。わたしは自然と眉を寄せる。


 もう片方の無駄に宝石をつけた貴族はその言葉にいいや知らないと答えた。その様子を太った貴族は満足そうに見ると、さも自慢げに話し出す。


 「あの闇との対面……実は天子を殺すことが目的だったらしい」


 ニタニタとした気品のない笑みを浮かべてそう言う様子を眺めながらわたしは時間が止まったような感覚に陥った。


 天子……というのはもちろんわたしのことで……それを殺すためってことは……


 あの王子はわたしを殺そうとしていた?


 頭をよぎるあの美しい顔を思い切り踏み潰したくなった。

 泣きたくなんてないのに目頭が熱くなって、どうしていいのか分からなくなる。


 「殺すって……そんな面倒なことをしなくても元の世界に返せばいいのじゃ……」

 「全く……貴殿は何もお知りでないようだ。召還の魔術でこちらに異世界の人間を呼ぶことは出来ても返す方法はまだ見つかっていないのだよ」


 返す方法がない?

 そんなこと知らない。聞いてもない。だって一言も言ってなかった。

 

 わたしは目の前が真っ暗になった。

 悪いことというのはどうしてこうも立て続けに続くのだろう。


 「前回と同じく力のない天子と分かり必要ないと分かったが元の世界に返すことも出来ない。だからといってココにいつまでも置いておくわけにもいかないだろうに。とっすれば殺してしまうのが一番手っ取り早い方法だと王子は考えたそうだ」

 「なるほどのぉ」


 そういうことか……

 全部と言うわけではないが多少の疑問は解決した。力がないとあれほど言ったのに元の世界に帰してくれなかった理由。

 

 帰えしてくれないかったのではなくて、帰せなかったということだ。


 「なんでも闇が出てきたどさくさにまぎれて魔術で殺してしまう予定だったそうだ。あの町にでる闇はかなりの力をもっていると有名だったからな。初めての闇との対面で命を落としても可笑しくはないだろう?確か前回の天子も殺されかけた」

 「そういえばそんな記憶もあるの」

 「まぁ、しかし計画は特例で彼女の護衛についていた人間が阻止しため失敗に終わったがな……まぁそれが吉とでてあの娘が本物の天子であることが判明したのだ」


 レヴォラが……助けてくれた?

 あのとき……魔術の光のようなものが見えたときレヴォラが逃げろと言ったのは闇から守るためではなくて、王の衛兵がわたしを殺そうとしていたから?


 その事実に冷め切っていた心が少しだけ温まった。


 だがそれも一瞬のこと。

 すぐにそれまでの事実がわたしの心を凍らせていく。

 あの王子、町にでる闇は弱いと言っていたのにそれも嘘だったと言うことか……

 

 「何はともあれ、殺してしまわなくて良かった。これで世界は救われるのだ!」

 「ちゃんと天子と取り入っておかなくてはの」

 「そうだなそうだな。とりあえず送り物でも用意するかっ」


 そこまで聞いてわたしは物陰からこっそり抜け出すとその場を去った。

 これ以上は聞いている必要ないと思ったからだ。


 この国の考え……王子の考えはよく分かった。


 フッと窓に映った自分の顔を見て笑いそうになる。

 何て顔をしているのだろう?


 「なさけないなぁ……」


 なんだか自分が馬鹿らしい。

 この国のことも王子のことも元から大嫌いであったけど、それでも心のどこかではいつか元の世界へ帰してくれると思っていた。

 自分が天子でないと分かればきっと帰してくれると……


 だけど……


 その時、窓の映った自分の顔がグニャリと歪み黒髪に黒い瞳を持った女性の顔が現れる。


 「人魚……」


 つぶやくように言えば人魚はクスクスと笑みをこぼした。


 『いい顔してるわぁ……まさに天子にふさわしい』

 

 うっとりとした表情をわたしに向ける人魚をみて何故か心が落ち着いた。


 『ふふふ……もう答えは出たのでしょう?』


 ふわりと人魚の手が伸びてきて、わたしの頬に触れた。

 と思ったがその感触はない。ふわりとその幻のような手がわたしの頬をすり抜けていく。


 「そうね……」


 わたしはすり抜けた手を視線で追いながらそういった。


 良かったのかもしれない。

 真実を知ったことでわたしの心の中にあった最後の壁は壊された。


 わたしはこの世界にいい様に利用されていて……もう元の世界に帰ることはできない。


 『さぁ、カノン……』


 目の前で妖美にどこまで美しく微笑む彼女を見てわたしは一度だけ目をとじた。

 浮かんでくるのは大好きな家族の顔……


 よくないことだということは分かっている

 だけど……ごめんね 

 

 家族の残像を追い払うとわたしは目を開き人魚に視線を合わせた。

 

 そしてゆっくりと口を開く……




 その日の深夜のこと。


 「闇だ!!!!王宮に闇がでたっ」


 走り回る衛兵たちと飛び交う声。侍女の叫びに、魔術の光。

 逃げ惑う者。立ち向かう者。食いちぎられる者。


 「おいっあっちは!!誰かその闇を止めろ!!その方向は……殿下の寝室だ!!!!」


 夜に溶け込むようにして存在する闇が、尋常ではない速度で王子様の寝室に向かっていく。



 誰もが混乱し、絶望と、痛みと、嘆きを感じる中……

 

 わたしはふんわりと微笑んだ。

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