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皮肉な謝罪

 今回の対面は今までとはだいぶ扱いが違った。

 これが天子の扱いなのかと思いながらも、わたしはため息をつく。


 今いるのは王の間ではない。

 なんでも王の私用に使う応接間らしく、そのわりには無駄に広い部屋だった。部屋の中には対面式のソファが置かれていて、その一つには王子、もう一つにはわたしが座っている。


 手錠はもちろん付けられていないし、あの野次馬こと馬鹿貴族も一人だっていなかった。

 この部屋にいるのはわたしと王子、その近衛らしい人物が3人。それからわたしの護衛としてレヴォラ。そしてたぶん神官の代表としているのだろうフェジーがいた。


 部屋に入ってきた侍女がお茶を入れる様子を視界の端に入れながらも、わたしは始めてこんなにも真近に見る王子をついつい眺める。


 女性らしいセハン顔負けのサラサラした銀髪は肩くらいまで伸ばされている。王の間ではよく見ることの出来なかった瞳は青色だ。しかし同じ青色の瞳をもつフェジーとよりもずっと薄い色をしている。

 

 遠目から見てもかなり美形だとは思ったが、ここまでの美形とは……


 さぞや女性から人気があるのだろう。

 入れられた紅茶を節目がちに飲む姿など絵になると思う。もしわたしがこの王子の性格をしらなければ頬を赤く染めていたかもしれない。


 とはいってもこの男はわたしにとって今一番憎たらしい相手であることには変わりない。


 王子が静かに紅茶を置くと、こちらに瞳を向けた。わたしは知らず知らず身体に力が入るの感じながら負けずと王子を見返してやる。 

 さぁ、今回は何を言ってくる?


 「……まず最初に、これまでの非礼をわびよう」


 ……はっ?


 「お前は知らないだろうが、実はお前の前にもう一人天子が存在した」


 うやうやしく説明を始める王子を見ながらわたしはただ呆然としてしまう。


 「それはそれは悪行のすごい天子だった。国を助けるどころか子供を殺すような残忍さだ。その天子は今は消え……新たな天子であるお前を召還したが、皆すぐにお前を信じることも出来なかったんだろう」

 

 なんでいきなりそんな話に……と思いながらもふっと考える。


 これがもしも、フェジーから前回の天子の話を聞いていないときに聞いた話だったら、もしくはレヴォラから天子の人柄を聞く前だったら……わたしはこの話を信じ込んでいたのだろうか?


 「しかし今回のさわぎでお前は衛兵と国民を助けてくれた。そのことにはとても感謝している。皆もお前が本物の天子であることを認めた。これからはあのような酷い扱いをすることもないだろうな」


 王子はその綺麗な顔に美しい笑みを浮かべてそういった。

 でもそれは、作り笑いに他ならない……あくまで事務的に必要だからいったようものだ。

 口調も王の間で会った時よりも何倍も丁寧なものになっているがその真理はどうであるか……


 「……そう」


 何と言っていいのか分からない。

 わたしが天子と分かっただけでこの扱いの変わりよう。

 馬鹿らしいと思う気持ちが心を掠める。


 わたしは天子なんかじゃないのに……


 「さて……」


 そこでフッと王子の口調が変わった。あの王の間で会ったときの口調に戻ったようだ。これで王子としてのはなしは終わりと言うことかもしれない。


 「今すぐにでもこれからのお前の身のおき方について説明したいが……さすがに帰還したばかりのお前を長い時間引き止めていると周りがうるさいからな。詳しいことは明日だ。俺にも仕事がある。新しい部屋は王宮内に用意した。コイツが案内するからついて行け」


 そう言って王子は後ろに控えている近衛の一人をあごでさした。その人物に視線を向けると軽く一礼してくる。


 「まさか本物だとは思ってなかったが……せいぜい頑張ってくれよ、天子様」

 

 部屋を出ようとした瞬間。そう言われてイラっときたが一瞬睨みつけるだけで無視してやった。


 やはりあの王子とは気があいそうにない。




 新しい部屋は本当に綺麗だった。

 あのボロ部屋なんかとは比べられない。だけどどうしてだろうか?

 あのボロ部屋のほうがマシだったと思ってしまう。


 わたしはソファに寄りかかりながら小さなため息をついた。

 レヴォラもいろいろと報告などがあるらしくそこかへ行ってしまったし、フェジーはせっかく会えたのに一言もしゃべれぬまま、仕事があるからと行ってしまった。

 本物の天子が現れて王宮も忙しそうだ。


 「喉……渇いたな……」


 そういえばこちらに帰ってきてからまだ何も口に出来てない。

 王子と会うことになんだかんだで緊張していたのか喉はカラカラだった。


 部屋の中に視線を彷徨わせて見ると水差しのようなものがあるが、それを口にするのはどうも気が引けた。何か入っていたら?とおもってしまう心がある。

 ここは敵の巣のような場所なのだから……


 わたしはソファから立ち上がるとそっとドアを開けてみた。

 外には誰もいないようだ。


 わたしは廊下にでて、水がもらえそうな場所を探すため歩き出した。

 前にもこんなようなことがあったなと思い出してながら小さく笑みをこぼす。廊下を一人でうろついていたときにレヴォラにあって剣を突きつけられたのだ。懐かしい……。

 今は本物の天子としてこの王宮には顔が知れ渡っているだろうからそんなことはないだろう。


 しばらく歩くが水が飲めそうな場所はない。というかだいぶ迷子になってしまったような気もする。仕方がないと思い、誰かに道を聞こうかなと考え始めたとき……


 「王子も随分と悪いお方だ……」


 そういう声が聞こえた。

 視線の先にはきらびやかな服を着た貴族が二人……


 何の話……?


 わたしは思わず身を隠すと、その会話に耳を傾けた。 

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