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掴めない真実


「申し訳なかった」


 フェジーが出て行き、わたしとレヴォラが二人きりなった部屋。これからどうしようかなどとわたしが考えはじめようとした瞬間レヴォラはそう言った。


 「え……何がですか?」


 つい聞いてしまう。

 わたしにはレヴォラに謝られる心当たりがなかったのだ。ついつい首をかしげてしまう。


 「天子だとは知らずに、お前を疑い剣を向けたことだ。本当に申し訳なく思っている」


 腰を折って本当に申し訳なさそうに誤るレヴォラにこっちが頭を下げたくなった。

 あの時のわたしが怪しい人物であったのは確かだし、レヴォラは自分の勤めを果たしただけで何も悪いことなどしていない。


 「頭を上げてください。勝手にウロウロしていたわたしも悪かったんですから」


 そう言えば、レヴォラはしぶしぶという感じで頭を上げた。

 なるほどこのレヴォラという男はかなり律儀な人間らしい。しかし律儀すぎるのも時にはどうかと思うのだが……


 「お前が関係者であることは分かった。だから散歩なり何なりするといい。だがくれぐれもあの屋敷の敷地内のみにしておいてくれ……危険だからな」


 その言葉にわたしはさっきの天子の話を思い出した。

 前回の天子は確かに酷いとは思う。子供を盾にするなんて絶対にありえない。だがしかし、それは他者から見ただけの意見だろう。

 

 前回の天子はこの世界に来て何を思っていたのだろうか?

 いきなり天子として期待されて、力がないと分かれば用なしだとでも言うように貶されて……


 わたしは……この世界へわたしを召還した奴らが憎くてしょうがない。


 召還している人間には分からないかも知れないが、あまりにも身勝手すぎるのだ。自分たちの世界が危険にさらされて、自分たちにはどうしようも出来ないから他の世界にいる人間に頼る。その人のそれまでの生活も何もかも全部お構いなしに……だ。


 そして召還したその瞬間世界を救え、お前になら出来るはずだ。だって“天子”なのだからと言われたって困るだろう。当然だ。


 その後、予想外にも世界を救えるはずだった天子が何も出来ないと分かれば自分たちの酷い行いなどそ知らぬ振りをして天子だけを責める。自分たちの召還が失敗だったなどということはしない。

 力を使えない天子が悪い……そんなの勝手すぎるだろう。


 本当に身勝手すぎて、ムカつく。

 

 「天子、天子……花音殿!」


 ハッとして辺りを見えれば、急に黙ってしまったわたしをレヴォラが呆れ気味に見ていた。


 「お前は少し考えすぎる癖があるようだな」

 「……そのとおりです。ごめんなさい」

 「いや、構わないが……」


 そういえば、今レヴォラは私の名を呼んだ気がする。“花音”という自分の名前の響きがものすごく懐かしく感じだ。誰かに自分の名を呼んでもらえることが幸せだとあらためて実感する。

 

 本当に……この世界に来てから自分の日常がどれほど幸せなものだったかということを思い知らされるばかりだ。


 「この後はどうする?散歩に行くのか?」

 「……いえ、いろいろ考えたいことが増えたので一度部屋に戻ります」

 

 まだ全然情報が足りないが、今回の天子の話は本当に有力なものだった。少し自分の頭を整理する必要があるだろう。多少余計なことを考えてしまうことは仕方がない。


 「そうか、なら部屋まで送ろう」

 「……ありがとうございます」


 本当にレヴォラはいい人間だと思う。今のところフェジーの次に信頼できる。

 とはいってもレヴォラもフェジーも出会ってホンの少しの人間だ。わたしが見たのは上辺のものでしかない。本当に心から良い人間であればいいのだが……


 わたしは小さく苦い笑みを浮かべた。



 フェジーの執務室をでると、わたしが住むあのボロ部屋がある屋敷に向かってゆっくりと歩き出す。歩調が遅いわたしになるべく合わせてくれるレヴォラはやはり優しい。


 そのときわたしの頭にフッとある疑問が浮かんだ。

 聞いてみようかどうか少し迷うが、わたしは思い切って口を開いてみる。


 「レヴォラさんは……前回の天子はどのような人だったのでしょうか?」


 王宮でお姫様のように扱われていたという話だが、子を盾にするほどに酷い人間だったのだろうか?

 わたしの疑問を聞いたレヴォラは少し考えるようなそぶりをした。


 「俺はそんなに関わった経験はなかったが……大人しい女性だったと聞いている」


 “大人しい”?

 そんな女性が子を盾に?

 少しおかしくないだろうか?


 「彼女が子供を盾にするはずなどないと……そう言っていた人間もいたな。そういえば」

 「っそれは誰ですか?」


 これは……かなり重要なことではないか?

 子を盾にするくらいだから自分勝手で高飛車なお嬢様タイプを思い浮かべていたのだが、本当の天子は大人しく人だった……


 「彼女の護衛の代表者であった、第1隊隊長だ。彼女がそんなことするなんてありえないと王にたて突いて今は解職されたが……」


 どこかで何かがずれている。

 急にいろんなものが崩れだした。

 わたしが持っているこの情報は本当に全て正しいのだろうか?



 「……その方に……お会いすることはできませんか?」




 少し分かりかけたと思っていたのに……それはまた遠のいていく……


 

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