貴方を信じましょう
さすがに衝撃を受けた。
いくら自分の身が危ないからって子供を盾にするなんてどういう神経しているのだろう。
「子供は闇に食われ……死んでしまった。天子は生き残ったがな。そのことをきっかけに民衆の怒りは爆発したのだ。天子を罵り、あんなやつは偽者だと騒ぎ立てた。王宮の人間ももう庇いきれなかった。というより子供を犠牲にするような人間を天子とは思えなくなったのだな」
確かに言い分は正しいのだろう。
「それで、その天子は今どうしているのですか?」
「……さぁ?だれも知らない」
わたしは眉を寄せた。分からないとはどういうことだろう。
「いつのことだったか。急にどこかに消えてしまったのだ。王がこれ以上詮索するなと言ったので誰も詳しいことは聞けなかったのだ。今もどこかで生きているのか……あるいは……」
わたしは言葉を失った。
急に消えただって?そんなことありえるわけないだろう。
王が検索するな、といったということは王が何かを知っている可能性が高い。
「天子がいないくなっても民衆は荒れていたが、また半年もすれば落ち着きを取り戻していった。しかし天子はいなくなったが闇と戦いは一向に良くならない。人々は苦しみ、嘆き、王に懇願した。“今度こそ本当の天子を召還してほしい”と」
「そうしてわたしが召還された……ということですね」
フェジーは頷いた。
「一人の魔術師が召還を行ったから失敗したのだと貴族の誰かが言ったので今回は五大魔術師総出で召還を行った。今度こそ成功する。闇との戦いが終わる。そう思って召還を行ったが……」
「二人目に召還されたわたしも、何の力もなかった」
だんだん話が分かってきたように思える。
この国の人間のわたしの扱い。それはわたしを天子と思っていないから起こる扱い方だったのだ。わたしはあの王の間で術が使えない人間だと公言してしまった。それはすなわち自分が術師でないと言っているようなものだ。
天子でない自分を特別に扱う必要はないと言うことだろう。
しかしわたしが天子ではないと分かっているのなら何故さっさと元の世界に返してくれないのだろうか?何の力もないくて、この世界を救うことができない自分はもう用なしだろうに。
あの王子が言っていたようにこれから力が目覚めることを本当に期待しているのだろうか?
いや、そんなはずはないだろう。だって前回の天子は半年待っても力が目覚めなかった。きっとわたしも力が目覚めることはないと思っているはずだ。
ならなぜ?
また疑問が増えてしまった。
それにもう一つ気になることがある。
「わたしはこれからどうなるのでしょうか?」
聞けばフェジーは分からないというように首を振った。
天子でもないわたしを王子はこの世界にとどめてどうするつもりだろう?
分からない、分からない、分からない
しょうがない
この話は保留にして次の質問をするか・・・・・・
そう考えたその時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「……誰だ?」
「フェジー様この後、貴族の方との対談の予定がありますのでそろそろ……」
扉の向こうからくもぐった声が響いてくる。
わたしは小さく舌打ちをした。
何てタイミングの悪い。まだまだ聞きたいことは山ほどあるというのに……。
「……あぁ分かった。娘、悪いが予定があるので」
「分かっています。後日また聞かせてもらえると嬉しいですが……」
そう言えばフェジーは頷いてくれた。
まだまだ足りないと思うが、とりあいず貴重な情報が聞けたことには感謝しよう。前の天子のことが聞けたのは本当にありがたい。
この男はそこまで悪い人間ではないのかもしれないと思う。
フェジーはソファから立ち上がるとわたしの後ろに目を向けた。
「レヴォラ、護衛の話は考えておいてくれ」
「はい、了解いたしました」
急に後ろから声が聞こえて少々びっくりする。
そういえば何もしゃべらなかったので忘れていたがレヴォラもいたのだった。
「それでは、失礼する」
そう言って、部屋を出て行こうとするフェジーを見てわたしの口は勝手に動いてしまった。
「待ってください」
立ち上がりながらそういうとフェジーは不思議そうな顔で振り返る。
何をしているのだろうわたしは……
そう思いながらも、自分の言いたいことは分かっていた。なぜ言おうと思ったのかは分からない。でもこれはわたしなりの感謝の気持ちで、多少は信頼しているという意思表示だった。
「改めまして、長沢花音といいます。ナガサワが性でカノンが名前です。今回は貴重な話を聞かせてもらってありがとうございました」
そう言って頭を下げて、ゆっくりとあげる。
視界に入ったフェジーは驚いた顔をしていた。これほどまでにガンとして名前を言わなかったわたしが名乗ったことに驚いたのだろう。
しかししばらくすると元の表情に戻って彼も礼をとった。
「王都神殿神官長の聖・フワン・フェジー・リードだ。こちらこそ、そなたには迷惑をかけて悪いと思っている」
わたしはフェジーも名乗ってきたことにびっくりして目を見開いた。
「フェジー様お時間が……」
「分かっている。それでは失礼する。話はまた後日」
そう言ってフェジーはこの部屋から立ち去っていった。