天子
「護衛?」
わたしは意味が分からず小さく呟いた。
それに今フェジーは気になることを呟いた。
“今回の天子は……”と言ったのだ。
それは、“前の天子”がいたことを指す言葉に他ならない。
また分からないことが疑問が増えてしまった。どうして一つも解決していないのに次から次へと疑問が増えていってしまうのだろう。
心で盛大に舌打ちをしながらわたしはフェジーの言葉の続きを待った。
「あぁそうだ。そなたには言ってなかったが天子は今この世界で余り慕われていないのだ。そのため天子という理由だけで害を与えられる可能性もある。だから護衛が必要なんだ」
また引っかかりをおぼえた。
天子が慕われていない?
この人たちの話では天子は“この世界を救う存在”ではなかったのか?その天子を崇め慕うことは会ってもその逆は普通考えられないだろう。
おかしい。おかしい。おかしするぎる。
わたしはフェジーを小さく睨みあげた。
「なぜ……?」
増え続ける疑問にさすがのわたしも耐え切れなくなっている。さすがにそろそろちゃんとした説明がほしかったところだ。
今このときが丁度いいだろう。
「ん?」
「なぜ天子は嫌われているのですか?」
わたしは護衛の説明そっちのけで質問タイムを始めることにした。
「わたしがこの世界に来てから疑問に思っていたことがいくつもあります。そのうちの一つが天子に対する扱いです。ずっと分からなかった。王子は天子が来たというのに上から目線。衛兵はどこかよそよそしく、部屋はあんなにボロボロで……。仮にも天子と呼ばれる存在のわたしがなぜここまで酷い扱いをされなくてはいけないのか……どうみたって変でしょう?」
言えばジェシーは苦い顔をした。
これは……やはり何かある。わたしは確信した。
「答えてください。わたしに知る権利がある。そうでしょう?だってわたしは天子なんですから」
ふんわりと微笑みながら言ってやった。
フェジーはしばらく黙り込んでいたが、やがて小さく口を開いた。
「天子の召還は……実はそなたが初めてではない」
わたしはハッと息を呑んで目を見開いた。
さっきの予想が綺麗に当たってしまった。今回の天子がわたしなら前の天子がいるはずだとは思っていたが本当にいるとは……。
しかしそうなるとその“前の天子”はどうしたのだろう?なぜ天子がいるはずなのにわたしを召還する必要があった?
駄目だ。さっきよりも疑問が増えてしまった。
「前回の召還は今から1年ほど前に行われた。そのときは五大魔術師ではなく我が国トップの魔術師一人が召還を行い見事成功した。わたしたちは神に感謝したものだ。これで“闇”から世界が救われると誰もが思った」
フェジーはどこか遠い目をしながらそういった。
「だが自体はそう上手くは進まなかったのだ。彼女はそなたと同じように特に特別な力など持っていなかった。“闇”に会えば力が目覚めるのかと思い戦場につれて行ったら泣き叫び暴れ、あやうく闇に食われるところだった」
と言うことは前の天子もわたしと同じ日本人だったという可能性が高い。
「天子が来たときは皆崇め、祭りを行った。王族も彼女に期待していたから王宮に彼女を住ませていた。王宮には貴族たちから絶えず贈り物が届いたものだ」
「でも、天子は使い物にならなかった。だからみんな手を返したように酷い扱いをした?」
今のわたしのように……と心の中で付け加える。
フェジーはチラリとわたしを見たがすくに視線をそらしてしまった。
「いや……そのときはまだ皆力が目覚めていないだけだと思って天子に優しかった。もちろんあの天子は偽者だと言うような人間も現れたがそういう人間は王子は押さえ込んでいた」
その言葉に一番びっくりした。
あの王子が?と思わずにいられない。
それにしもて、そこまで優しかったこの国の人間がなぜこんな酷い扱いをするようになったのかが分からない。
わたしは話の続きを促すようにフェジーを見た。
「……決定的になったのは彼女がここに来て半年したときのことだった。さすがに国民たちは待つことに疲れてきたのだ。天子がきてすぐに終わると思った闇との戦い一向に終わらず、天子は何も出来ないままなのに王宮でお姫様のように扱われている。不満に思う人間は日に日に増えていった」
それはそうだろうと思う。
わたしがここの国民だとしても不満を持っていたと思う。
「天子は週に一回国民と触れ合うという時間を作っていた。その日も丁度国民と天子が話をしていて……そこに、闇が現れたのだ」
フェジーの声色が低くなる。
「闇が街に来ると言うことはその頃には珍しいことではなくなっていたのだ。天子には何人かの護衛がついていたが、その日は王都内でほかの事件が起きていたため護衛の人数がが少なく、天子を守りきれなかった。闇が目の前に迫ってきていて天子も焦っていたのだろう」
わたしがゴクリとつばを飲み込んだ。
「天子は、近くにいた子供の手を引っ張り、自分の盾にしたのだ」