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神塔

 わたしは前方を歩く衛兵レヴォラをについて行きながら、心の中で自分の大失敗を攻め立てていた。


 わたしを招待したのはフェジーだと言った瞬間のあのレヴォラの顔……

 驚きと困惑、そしてありえないという言葉が顔全面に書いてあるように思えた。


 「…………フェジーさん……とは、神官長の聖・フェジー様のことを言っているのか?」


 しばらく黙り込んでいたレヴォラが確かめるようにそう言ってきた。


 確かに上にたつ人間だろうとは思っていたが、フェジーが神官長とは驚きだ。


 というか神官長?

 あの男が神官長って……

 どう見たってあの男は軍隊に入っているようにしか見えないのだが……?


 あの筋肉にあの睨み。思い出すと今でも少し怖い。戦場に出ればどれだけ活躍することだろうか。

 神官というと神様に祈を捧げているイメージだが、フェジーは祈を捧げているというよりも、剣を振るっている姿が一番想像できる。


 はっきり言おう、似合わない。


 フェジーは仕事の選択を大いに間違ったような気がする……


 そんなことはどうでもいいとして

 フェジーがそんな大層な人だとは思っていなかった。これでは王子に呼ばれました、もしくは五大魔術師に呼ばれました、と言ったときに想像した反応そのままだ。


 まぁ言ってしまったものはしょうがないだろう。


 「そうです。そのフェジー様です」


 疑われないように強めに言ってみたが、やはりレヴォラは疑っているようだ。

 どうするかな考えてみるが、どうしようも出来ない。


 やはりこれは牢屋戻り決定だろうか?

 そうしたらまたフェジーが助けてくれるだろうか?いや、きっと2度目はないだろう。


 「……分かった。とにかくフェジー様のところに向かおう」


 わたしがこれからのことをどうするか考えていたところで意外にもレヴォラはそう言ってくれた。

 

 もしかしたらレヴォラは今まで出会った人間の中で一番良い人間かもしれない。

 わたしはヒラリと使い古したマントを翻しながら歩き出すレヴォラに好感をおぼえた。この世界にきて初めてのことだろう。


 わたしはそのことに感動して少し機嫌良くレヴォラの後をついて行ったが、歩きはじめて20分。

 わたしはさっきまで浮かれていた自分に馬鹿と言ってやりたくなった。


 周りを見わたすとその景色はさっきまで自分がいた廊下や部屋とは次元が違っている。

 フェジーに会いに行くということはかなり大変な作業らしい。

 わたしはやっとそのことに気がついた。

 

 迷わず家の外に出て行くレヴォラを見て思わず首をかしげたわたしを見かねてかレヴォラは“フェジー様は裏の神塔にいらっしゃるからそちらに向かっている”と説明をしてくれた。そこまではいいのだかが、その神塔とやらが無駄に豪華なのだ。


 門もわたしがいた家に比べたら無駄に豪華だし、中に入ればそこ中に神様か女神様と思われる絵が描かれている。

 銅像もかなり多い。


 ついキョロキョロしながら神塔内を見回すわたしをよそにレヴォラはずんずんと進んで行った。

 螺旋階段を登り、長い廊下を進み、そしてやっと一つの大きな扉の前で足を止める。


 「ここがフェジー様の執務室だが・・・・・・入るぞ?」


 いちおう確認を取ってくるレヴォラはやはり優しいのだろう。

 

 わたしは小さく頷いた。

 ここまできたらどうしようもない。腹を決めるしかないだろう。

 

 レヴォラはそんなわたしの様子を一瞥した後、部屋の扉をノックした。


 「……誰だ?」

 「王都騎士団2番隊隊長レヴォラ・シアードでございます。確認していただきたいことがございますので少々お時間よろしいでしょうか?」


 フェジーの声がして、その後レヴォラが答える。なぜかものすごく緊張してきた。

 わたしはドキドキとする胸に手をあて、心を落ち着かせる。


 「確認?いいだろう入れ」


 フェジーの許可が出たので、レヴォラは一瞬わたしを見ていいか?と聞くような素振りを見せてくれた。わたしはその行動に頷くとグッと手を握り締める。


 「失礼致します」


 そう言って礼をとりながら部屋に入るレヴォラ。わたしの姿はレヴォラの影に隠れてまだ見えていないだろう。


 「どうしたレヴォラ。外に何か異常でも?」


 そういえばレヴォラは外の警備から帰ってきたばかりだと言っていたな。


 「いえそうではなくて、少々会っていただきたい人物がいるのですが……」

 「会わせたい?誰だ」


 その言葉にレヴォラは少し体をずらしてフェジーにわたしが見えるようにした。


 「そなた……」

 

 フェジーはつい数時間前に会ったはずのわたしの姿に分けが分からない……というような、呆れたような顔をした。そして何か言おうとして、すぐ口を閉じる。何と言っていいのか分からないのであろう。


 「あぁ……その」

 

 わたしだって何を言っていいのか全く分からない。


 レヴォラはレヴォラでわたしとフェジーの何とも言えない空気にどうしたものかとわたしたちの顔を交互に見る。


 何だか面倒なことになってしまったな。

 こんなことになるのならやっぱり大人しく部屋で休んでいたほうが良かった。


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