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部屋

 “もしかしたらわたしを逃がしてくるのかも”

 

 そんなことを予想したわたしが馬鹿だった。

 一日あの牢屋にいたせいで思考回路が少し壊れかけていたのだろう。


 「王子がさすがにこのようなところに閉じ込めるのは女性に対して申し訳ないことだったと反省している。とりあえず客室に移動させろとの命令が出たので迎えに来た」


 そういうことか……


 にしてもあの王子。自分の失態に気付くのが少し遅すぎはしないか?

 普通小1時間もすればこんな冷たくて硬くてコケまで生えてる牢屋に女性を入れることが間違いだって気付くだろう。


 わたしはついつい眉をしかめてしまった。


 「言いたいことは分からなくもないが、殿下はまだ幼い。自分の怒りのままに行動してしまうことも多いのだ」


 まるで、だから許してやってほしいとでも言うような口調に嫌気がさす。この男少し……いやかなり王子に甘すぎはしないか?


 しかも王子が幼いって言ったけれど、わたしが見た感じの王子様は17、8くらいに見えた。日本の基準で考えるなら確かにまだ子供ではあるものの、もうすぐ大人という丁度境目あたりの時期である。

 怒りに任せて、女を一晩牢屋に閉じ込めるのはいただけない。

 

 一般庶民で、頼りない両親やなかなか行動しようとしない弟の変わりにゴキ退治をやっていていたようなわたしだからまだよかったものの、これがどこかのお嬢様だったら壁を歩くゴキそっくりの物体を見つけた時点で泣き喚くだろう。

 いや、もしかしたらこの湿った石レンガに座るという時点でアウトかもしれない。


 とにかく、王子はもう少し大人になるべきだ。

 

 「娘……眉間のしわをどうにかしろ」


 そう言ったフェジーの眉間にもしっかりとしわが出来ていたのは黙っておくことにした。




 牢屋をでると、長い螺旋階段を登りやっと豪華な装飾がされた廊下へと出ることが出来た。

 

 いちおう言っておくが、わたしの年齢は決して若くなどない。運動をすることなんて滅多にないのだ。

 わたしは螺旋階段のあまりのキツさに、廊下に出る頃には額に汗を掻きながらゼイゼイと息を切らしていた。


 一方わたしのかなり前方を歩いていたフェジーは息の一つも切らしていない。まぁその肉体からしてかなり鍛えているような感じがするから当たり前だろう。


 わたしは涼しい顔をするフェジーを恨めしく思いながら、そんなわたしの思いなど知りもしないでサッサと歩き出す彼の後を追いかけた。


 こっちは疲れているのだから、小走りするのは止めてほしい……



 しばらく長い廊下を歩いているとフェジーはある扉の前で足を止めた。


 「ここが客室だ」


 そういって扉を開くとわたしを中に促す。どうやら昨日わたしが目覚めた部屋とは違う部屋のようだ。

 わたしはおそるおそる中を覗き込むと、言葉を失った。


 「どうかしたか?」


 なかなか部屋に入ろうとしないわたしを不振に思ってかフェジーが声をかけてくる。


 どうしたもこうしたもないだろう。


 「……あの王子には女性の扱いというものを教えたらいかがですか?」


 呆れて声も出ない……じゃなくて呆れて声も出てしまった。

 フェジーはわたしの言葉の内容よりもわたしがしゃべったことに驚いているように見える。昨日一回しゃべったのにどうもわたしがしゃべることに慣れていないようだ。


 わたしは目を見開いたまま固まっているフェジーをほったらかしたまま一歩その部屋に踏み入れてみた。


 普通、こういう話では豪華な部屋があてがわれるものではないのだろうか?豪華でなくともせめてまともな部屋であろう。

 しかしこの部屋はどう見てもまともじゃなかった。


 床に錯乱した本と紙くずの山。ベッドはあるにはあるが埃をかぶっているし、壁は黄ばんでいた。端のほうに置かれている木の机は少し腐りかけているように思える。一人がけのソファは一見平気そうに見えたがよくよく見れば虫に食われたいた。

 

 なんなんだこのボロ部屋は……


 フェジーは客室に案内するといっていたが、これが客室?

 

 わたしはどういうことだ!っという意味をこめてフェジーを睨みつける。

 フェジーはため息を一つつくと重たそうな口を開いた。


 「この家はかなり古くてな。いちおう王家の持ち物らしいが、ほとんど使われていないのだ。使用人もおいてないので部屋は汚れまくっている。なんとか綺麗な部屋は他の人間が使っているから、残っている部屋で一番綺麗な部屋がこれだ。文句を言うな」


 いや文句がありまくる。

 どうしてこうも女性を気遣える人間がいないのだろうか

 女性のために自分の綺麗な部屋をゆずろうとする心の優しい人間はいないのか……全く。


 「あっ…………わたしが最初に目覚めた部屋は?」


 あの部屋はなかなかに綺麗だった。開いているならぜひともあちらにうつりたいと思ったが……


 「あの部屋は、王族が使っている客室だ。あのときは召還のために特別に使わせてもらっていたがもうつかえん。使いたいのなら王にでも申してみろ」


 はい……

 そういわれて“それでもいいわ”なんて言えるほどの度胸はなかった。

 

 しょうがない、まずは掃除からはじめましょうか……

 

 それにしても

 仮にも“天子”なのにこの扱い……どうなのだろうか?


 

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