表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/68

記憶の欠片

 

 わたしはあまりの寒さに目を覚ました。

 ぼやけた視界と思考の中で起き上がろうとすると、身体が痛むことに気がつく。

 

 周りを見回してみると、コケの生えた石のレンガに、冷たく湿った空気。

 温かい自分の部屋のベットとは大違いだ。


 しばらく、ぼぉーとしながら考えていると、だんだん自分の状況を思い出してきた。

 

 あぁそうだ、

 確かわたしは、異世界に“天子”とやらとして召還されて、青い瞳のフェジーに会って、そのあと女性のようなセハンに会って、魔術で手錠を付けられて、王の間に行って、それから王子に会って、イラついて文句を言いはなって、最後にはこの湿っぽい部屋に連れてこられたのだった。


 なんだが、思考回路がまだ眠っているらしい。頭の動きがいまいちだ。


 わたしは小さくため息をつき、布団もどきから離れると相変わらず湿っぽい壁に寄りかかった。


 毛布もどきがあったからといっても、ほとんど硬い石の床で寝ていたのと同じため体中が痛い。


 本当に、女性をこんなところに入れる王子の気が知れない。

 ついでに言えばその命令を素直に受け止めたフェジー率いる衛兵たちも気に食わなかった。一人ぐらい女性の身体を気遣うことができる紳士的な男がいたっていいのではないだろうか?


 わたしは盛大なため息をつきうな垂れた。

 いったいいつまでこの地下に閉じ込められなくてはならないのだろう?


 いや、もしこの部屋から出してもっらたとしてもわたしは“天子”としての役割を押し付けられるだけで、元の世界には帰してもらえない気がする。

 というか絶対そうに決まっている。


 わたしは、天子なんてものになりたくはない。

 何の恩義もないようなこの国を助けたいとは思わない。 

 わたしが願うのは唯一つ……もとの世界に帰ることだ……


 家に帰れば、今までわたしを温かく見守ってくれた両親や、生意気だけどなんだかんだで優しい弟がわたしを待っていてくれている……

 

 どうしてだろう……?


 この世界に来てまだ1日と少ししかたっていないのに、ものすごく自分の部屋が恋しい。お母さんが作ってくれたお味噌汁が飲みたい。お母さんの味噌汁は絶品なのだ。


 そう考えた、その時だった。


 「……みそ…しる?」

 

 わたしはフッとあることを思い出したのである。

 

 それは、今まで全くと言って良いほど思い出せなかったここに来る直前の記憶だった。

 

 

 そう……わたしがここに来る前の日本。あの日の晩御飯は鮭と味噌汁だった。母の味噌汁は昔から大好きで、その日はもお替りしたのをしたのを覚えている。

 デザートのアイスを弟と取り合って、結局文句をいいながらも弟が譲ってくれた。

 

 そしてそのあと……わたしは自分の部屋に行ったのだ。


 自分の部屋でくつろいでいた時、いつもと変わらないその時間にアレは起こった。


 アレは落ちる感覚に近かったと思う。


 急にふらっと眩暈がして、次の瞬間にはまるで床が抜け落ちたかのようにわたしは落ちて行った。


 そう、落ちたのだ。

 あんな奇妙な体験をしてどうして忘れていたのだろう?

 

 まぁとにかく、あれが召還というものなのだろうか?

 

 「…………あれ?」


 いや待てよ、その前に何かあった気がする……


 わたしはまだ重要なことを忘れていないだろうか?


 あれは……そう、眩暈がする前だ。


 『……を……っ』


 何かが聞こえて……


 あれは誰かの声?

 わたしは何かを言われたのだろうか?


 いや、あの言葉も召還の一種だったと考えられる。そうすればあまり重要なことではないとも思うが……


 「あぁっ……もう!!」


 あの言葉、あの言葉が何故かすごく重要な気がするのだ。

 ただはっきりしないから気になるというだけかもしれないが、とにかく気になる。


 あと一歩というところで記憶の中の言葉が出てこなくなる。そこまで分かっている気がするのに、出てこない。

 

 わたしは苛立ちのままに頭を掻きむしった。


 あの声の主は、わたしになんと言ったのだろうか?


 自分の記憶力の悪さに苛立ちはじめたとき


 「娘……」


 聞き覚えのある声だった。

  

 ハッとして顔を上げると、青い瞳と目があう。

 そこには昨日知り合ったフェジーがいた。手に持ったランプの光が微かに彼の顔を照らしている。


 何しに来たのだろう?牢屋に入っているわたしを珍獣のように笑いに来たのだろうか?

 

 わたしはわけが分からず首を傾げると、フェジーは懐から何かを取り出し、牢屋を閉ざしている鍵をカチャカチャと弄った。

 わたしはますます分からなくなり、その手をぼぉっと見つめていると次の瞬間には鍵が外れてフェジーが牢の扉を開いてくれた。


 わたしが目を丸くしながら、フェジーの顔と開いた牢屋の扉を交互に見うめる。するとフェジーは昨日と同じく呆れ顔をした。


 「出ろ」


 一体どういう風の吹き回しだろうか?

 わたいは思わず不審な目をフェジーに向けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ