夢が夢でしかないように
初投稿です。
現在連載休止中となっています。
ファンタジーは嫌いじゃない。
こんなわたしだって金髪美形の王子様に憧れたり、魔法使いを夢見たり、たくさんの人から守られるお姫様になりたいと願ったり、そういう時期はたしかにあった。
だけどそれはまだ現実をよく知らない幼くて無垢な少女だった頃の話で、こんな年齢にでもなればそんなファンタジックなことが自分にふりかかればいいのに……なんてこと考えたりしない。
もしも……もしも本当にそんな非現実的なことが起きたとすれば、今すぐにでもどんな手段を使ってでも元の世界に帰りたいと願う。
それが普通ではないだろうか?
「世界を救え、天子」
その言葉は冷たく、どこまでも義務的にわたしに発せられた。
高い天井には無駄なくらい豪華なシャンデリア。白く美しい壁に大理石の床。入り口から最奥まで敷かれている金の刺繍の施された赤い絨毯はフカフカで見るからに高そうだ。
それはまさしくおとぎ話の世界そのもの。
目の前……というには遠すぎる位置には、金髪碧眼ではないものの銀髪の王子様が堂々とした様子で座っている。
王子とうだけあって周りにいる野次馬のような奴らとは雰囲気がまるで違った。
こんなに遠くからみていても美形なのだから、近くでみればどんなに美しいことだろう?
美しい王子様の顔を想像してわたしは小さく笑った。
それは自分でも分かるくらい暗い笑みだ。
「おいっ、聞いているのか?」
長い足をゆっくりと組み替えながら、なかなか返事をしないわたしに向かって痺れを切らしたのであろう。王子様は不機嫌そうな声でそう言った。
いったい何と言えばよいのだろう?
“はい分かりました”と素直に言えばよいのだろうか?
この何がなんだか分からない状況で?
わたしは自問自答を繰り返しながら、高笑いしそうになるのを必死に押さえた。
わたしは今の状況というものがまるっきり分かっていない。なんせわたしが目を覚ましたのはこの無駄に広い部屋に連れてこられる30分ほど前のことなのだから。
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1話は短めとなっています。
2話以降はもう少し長くなる予定。
読んでいただいてありがとうございました。