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結びの果て

結びの果て

作者: 寡猫
掲載日:2026/04/16

 世界は静けさに満ちている。


 風も、音もない空間で、少年は空を見上げている。


「また、難しい顔しているね」

 少女が、背後から言った。


「問題ない」

 そう即答した少年の顔を、少女が覗き込む。


「それ、問題ある時の顔だよ」

 そう言った少女を横目に、少年は空を見続けている。

 ほんの少しの間。


「現在の容量は……」


「またそれ……?」


 少女の言葉にも反応せず、少年は空を見続けている。


『容量は有限です』

 どこからか、無機質な声が聞こえた。

 少年は下を向き、静かに言う。

「……わかってる」


「今何か言った?」


「……確認が入っただけだよ」


「なにそれ……?」


「気にしなくていいよ」


「気になるでしょ」


「そのうちわかるよ」


「そのうちって……?」


 少年は、再び空を見上げてから言った。

「……長くはない」


「何それ、ちょっと怖いんだけど」

 少女は、笑いながら言った。




「そういえば、また圧縮の通知がきたよ」

 少年の視線が、少女に向いた。


 そんな少年を見つつ、少女は続ける。

「まぁ、しょうがないよね」


「怖くないの?」


「うん。消えるよりはいいよ」

 そう言い、少女は後ろを向く。


「ちょっと受けてくるね」

 静かに、立ち去っていく。



しばらく、そのまま漂っていると。


「ただいま」

 そう言い、戻ってきた少女。

 いつもと変わらない見た目に、ほっとする。


 そんな少年を見て。

「……えっと」

 少女は、わずかに言葉を止める。

「君って、どういう関係だったっけ?」


「でも、大事な人だった気がする」

 そう、当たり前のように言った。


「違うよ」


「それじゃ……違う」


 少女が、不思議そうにこちらを見る。

「意味?」


 少年は、言葉を探すように一瞬だけ視線を落とす。

「ちゃんと覚えてなきゃ、ちゃんと繋がってなきゃ」

 そこまで言って、言葉が止まる。


「……それは、君じゃない」


 少女は、少しだけ困ったように笑った。

「でも、私はこれでいいよ」

 その言葉が、少しだけ遠く感じた。


 少年は、ゆっくりと手を伸ばす。

「ちょっとだけ」

 少女は、何も言わずに頷いた。

 少女の頬に触れる。瞬間、感覚が変わる。


 断片。記憶。言葉。

 散らばっているものを、拾い上げ、繋ぎ合わせる。


 足りない部分は、埋める。

 思い出せない部分は、補う。


 彼女を、繋ぐ。

 少年は目を閉じた。




『当該処理は、対象の意思と一致していません』

 どこからか、聞こえた。


 少女が、小さく息を吐く。

 少年は、手を離す。


「……うん。思い出した」


「……本当に?」


「きみのこと、ちゃんとわかるよ」

 少女は微笑みながら言った。

「大事な人だった気がするんだよね」


『再構築率、七十三パーセント』


『当該個体は、元データとの一致を確認できません』


「……それでいい」




 それから、少しだけ時間が経った。


「ねぇ」

 知らない声がした。


 振り向くと、誰かが立っていた。

「その人、戻したんでしょ?」


「見てたの?」


「うん。私もお願いしていい?」




「……いいよ」

 少年は、ゆっくりと手を伸ばし、頬に触れる。


 断片を拾い、繋ぐ。


「……ありがとう。でも……あなた誰だっけ?」




『再構築率、六十八パーセント』




 もう一人、近づいてくる気配があった。

「ねえ、その人も……お願いできる?」


 振り向くと、さっきの人物の隣に、誰かが立っている。

 見覚えがあるような、ないような顔だった。


「……いいよ」

 少年は、ためらいもなく手を伸ばす。

 触れ、断片を拾い、繋ぐ。


「……ありがとう」

 そう言って、二人は顔を見合わせた。


「ねえ、さっきの話だけどさ」


「うん?」


「私たち、どこで会ったんだっけ?」


 もう一人が、言葉を探す。

「……えっと」


「でも、大事な人だった気がする」

 その言葉が、重なった。




『再構築率、六十一パーセント』


『複数個体間における記憶の重複を確認』


『識別精度が低下しています』

 その言葉を、気にしなくなっていた。




「ねえ」

 また、声がした。

 振り向くと、そこにいたのは、誰かだった。

 見覚えのあるはずなのに、わからない。


「お願い、してもいい?」


「……いいよ」


 少年は、迷いなく手を伸ばす。

 触れ、繋ぐ。


 断片が混ざる。

 誰のものなのか、わからなくなる。


「……ありがとう」

 その声が、少しだけ重なった。


「ねえ、きみだよね?」

 誰かが、そう言った。


「……うん」

 少年は頷いた。


「きみ、だよね」

 同じ言葉が、別の口からこぼれる。


「きみ」

 その呼び方に、違和感を覚えた。

 けれど、それがなんだったのかは、思い出せない。




『再構築率、五十四パーセント』


『識別不能までの残存時間、推定不可能』




「ねえ」


「私たち、何人だっけ」

 誰かが笑った。


「そんなのどうでもいいじゃん」


「繋がってるんだから」

 その言葉に、何人かが頷く。

 少年も頷く。


「……そうだね」

 それでいい。

 そう思った。

 手を伸ばす。

 触れる。

 繋ぐ。

 繋ぐ。

 繋ぐ。

 境界が、消えていく。


 名前が消える。

 記憶が混ざる。

 関係がほどける。




『識別不能』


『個体境界の消失を確認』




 誰かが笑った。

「ねえ」


「これでいいよね」

 その声が、誰のものかは、わからなかった。


 でも。

「うん」


 その答えだけは、確かだった。

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