保健委員長ってことは…わかる、よね?
「でもなんでクラスの奴ら俺が生徒会に入るって聞いてあんなに騒いで…」
「そりゃあ、今の生徒会であいてるポジションっていったら保健委員長だけだし」
「あー…!言い忘れてたけど保健委員長って経験済みの人しかなれないから!それ保健委員長の絶対条件!」
ってことはまさか、もしかして…
「今日、俺が全校集会で秀ちゃんを生徒会に任命した時点で………」
「秀平はそういう経験があるって全校生徒にバレたってこと!」
…さ、最悪だ。
頭を抱えるポーズをきめてみても誰もフォローなんてしてくれない。
「保健委員長引き受けたの?」
どこか棒読みなその問いかけは自分に向けられたものだろうと声の方を見ずに返答を返す。
「ああ、」
「じゃあ、これ着て」
差し出された物がなんなのか確認するために天十郎の方を向く。
「…は?…、?は…」
「白衣」
「なんで?」
「保健委員長なんでしょ?」
保健委員長は白衣を着用しなければならんのか……?
「て、天十郎はなんでナース服着てるの?」
「さっきも言ったけど」
「ここが保健室だからだよね!…だからそう意味じゃなくてなんで?」
天十郎と見つめ合う気まずい沈黙。
見つめ合うというか一方的に睨みつけられているというか
ナース服の天使にこんな目されるなんて…ってなんだこの展開。
「あー!それね!俺が着せたのー!だって可愛いから天十郎!」
なんてめちゃめちゃな!
それに可愛いなんて言ったら天十郎怒るんじゃ…
と、恐る恐る天十郎の方をみたら
「……///////」
顔を真っ赤にした可愛い子がモジモジしていた。
あ、天十郎…可愛いって言われて嬉しいんだ。
いや待てよ、もしかして生徒会長のこと…好…
「…好きなんだよ、わかりやすいよねー天十郎!」
感づいた俺に新が耳打ちして教えてくれた。
もしかして全校集会サボったことない理由ってこれか…と妙に納得した。
「でね!俺、秀ちゃんにも白衣似合うと思うんだ!せっかく保健委員長になったわけだし、ね!着ようよ白衣!いや、着なさい白衣を!」
「やっぱ嫌です!って…そんなコスプレみたいなことするの……」
「ふふふふふ…甘いな秀ちゃん…保健室で保健委員長が白衣を着るのはコスプレなんかじゃないよ…あるべき姿だよ!」
「ちょ、ちょっと…うあ!」
「生徒が制服を着るのと同じように…秀ちゃんが白衣を着るのは自然なことなんだよ!…新!天十郎!秀ちゃんを押さえてて!」
「ひ…うああああああ」
無表情のまま会長の命令だからと俺を押さえつける天十郎に、大笑いしながら抵抗できないように俺の腕を掴んで離さない新。
そしてにこにこしながら白衣を着せようとする会長。なんだこれ、なんだこのプレイ!
その時、廊下から物凄い勢いでこっちの方向に向かってくる足音が聞こえて
けど俺はそれどころじゃなかったから、特に気にとめる気もなかったのだけど、
そしたらその足音は保健室の前で止まって勢いよくドアを開けた。
ガラッ!!!!
「お前ら!うるさいぞ!いい加減にしろ…まったく保健室をなんだと思って…!」
声を張り上げて入ってきたのは…あからさまに真面目な雰囲気のメガネをかけた生徒。
しかしこの状況…どうする、どうする、どうする、…
三対一で羽交い絞めにされている状況、
ここで…この絶妙な間の感覚で俺が一言でも助けを求めれば、俺は被害者になれるのだろうか!
「あ…あの…どなたか存じませんがっっっ…ちょっとた、助けていただけませんか!!」
ドアを開けたままその人は固まって、こっちを凝視していた。
あの…俺の助けを求める言葉は届いたのかな…いやこれは聞こえてないな、多分。
顔を真っ赤にして目を逸らす。一瞬間をあけてメガネを直して…
「は、…破廉恥な!!!!////」
そう一言。その言葉に…<●><●>俺の顔がこんな感じになったのを見て会長がその人に話しかけた。
「あ!時高ー見て見て!彼が噂の転校生だよ!」
「お前が!」
舐めるように見られて、どうしたらいいかわからなかったので苦笑いを返す。
「今ね!秀ちゃんの歓迎会してたんだけど時高も混ざる?」
「だいたい保健室って響きだけでも破廉恥なのに、そういうコスプレはやめろっていつも言ってるだろ!」
天十郎のナースと会長が握っている白衣を見てため息をついた。
噂の転校生と聞いて時高と呼ばれたその人が再びこっちを向く。そして目が合う。そして逸らされる。
「紹介するねこのメガネの人は雅弥時高風紀委員長さんだよ!」
紹介されたんで俺もすかさず自己紹介をしようとする。が、遮られて…
「お、俺は…」
「ところで君はいつまでそう…しているつもりなんだ、…」
目でやめなさい!と訴えかけられた新と天十郎が俺を掴んでいた手を離す。
やっと開放された…!
「俺は佐倉秀平です!よろしくお願いします!」
自己紹介して頭を下げる。
「あ、ああ俺は雅弥時高だよろしく」
「雅弥先輩…なんか名前みたいな名字ですね」
俺がそう言ったらメガネ越しに眉間がぴくっと動いた。
「まあ、よく言われる」
本当に言われ慣れたようにそう返すと、またメガネをかけあげた。どうやら癖らしい。
無事自己紹介を終えた途端にこっちを見ながら会長が一言。
「保健委員長ってことは…わかるよ…ね?」
その言葉に雅弥先輩のメガネの奥が光ったような気がした。
風紀委員…しかも風紀委員長ともなれば、きっと真面目な人に違いない。
そう思っていたこの時までは。
保健委員長ってことは…=童貞じゃない、経験済みってことになってしまうらしいこの学園では。
その事の重大さに俺はまだ気づけないでいた。