もう一人の観測者
神谷悠斗は、朝の通学路を歩いていた。
昨日と同じ朝。
昨日と同じ町。
だが、悠斗の行動だけが違っている。
「今日は大学に行く意味ないな……」
講義の内容も、友達の会話も、全部昨日と同じになるはずだ。
それなら。
事故のことを調べた方がいい。
悠斗はスマホを取り出す。
検索する。
『昨日 交通事故』
ニュースは出てこない。
当たり前だ。
この日は毎日リセットされる。
つまり――
事故は存在しない。
「……じゃあ」
事故の前に何が起きているのか。
それを調べればいい。
悠斗はコンビニへ向かった。
事故が起きる場所だ。
朝のコンビニ。
店員は昨日と同じ人。
レジでおにぎりを買うサラリーマン。
コーヒーマシンの前に並ぶ大学生。
全部昨日と同じ光景だった。
悠斗は店内を見回す。
事故に繋がる何か。
ヒント。
違和感。
「……特にない」
完全に普通のコンビニだ。
悠斗は外へ出た。
事故が起きる道路を見る。
昼間の道路は穏やかだった。
車が普通に通っている。
事故の気配なんてない。
「……夜だけか」
悠斗は歩きながら考える。
事故が起きるのは21時12分。
黒い車。
猛スピード。
電柱。
昨日止めようとしても無理だった。
つまり。
原因はもっと前にある。
その時だった。
「あなたも気づいてるんですね」
突然、声がした。
悠斗は振り向く。
そこに立っていたのは――
一人の少女だった。
高校生くらい。
黒い髪。
静かな目。
制服姿。
見覚えはない。
だが。
少女は悠斗を見て微笑んだ。
「この町が、同じ一日を繰り返していること」
悠斗の背筋が凍る。
「……なんで」
言葉が出ない。
少女はコンビニの壁にもたれた。
そして言った。
「事故、止めようとしましたよね」
悠斗の心臓が跳ねる。
「……なんで知ってる」
少女は答えた。
「だって」
少し笑って。
言った。
「私も昨日、止めようとしましたから」
悠斗は言葉を失った。
この町のループに気づいているのは。
自分だけじゃない。
少女は続ける。
「ちなみに」
「これは3回目です」
悠斗は目を見開いた。
「……3回?」
「はい」
少女は指を三本立てた。
「私はもう、三日ここにいます」
悠斗は理解した。
つまり。
ループは。
人によって。
気づくタイミングが違う。
少女は空を見上げた。
青い空。
何も変わらない町。
そして言った。
「この町」
「かなりおかしいですよ」
悠斗は聞く。
「名前は?」
少女は少し考えて。
答えた。
「……佐倉」
「佐倉玲奈です」
そして悠斗を見る。
「あなたは?」
「神谷悠斗」
玲奈はうなずいた。
「じゃあ神谷さん」
少しだけ笑う。
「一緒に調べませんか」
「この町が壊れてる理由」
悠斗はまだ知らない。
この出会いが。
この町の秘密に近づく
最初の鍵になることを。




