終わらない7月14日
神谷悠斗は、目覚ましの音で目を覚ました。
スマホのアラームが鳴り続けている。
時刻は午前7時。
大学がある日は、だいたいこの時間に起きる。
「……眠い」
ぼんやりしたままアラームを止める。
ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。
朝の光が部屋に入る。
見慣れた住宅街。
特に変わったところはない。
普通の朝だった。
テレビをつける。
ニュース番組のキャスターが、いつもの調子で天気予報を伝えている。
「今日も暑くなりそうです。7月14日、火曜日の関東地方は――」
悠斗は特に気にすることもなく洗面所へ向かった。
顔を洗う。
歯を磨く。
冷蔵庫から牛乳を出して飲む。
いつもと同じ朝。
大学に向かう途中のコンビニでコーヒーを買い、駅へ向かう。
講義を受け、友達と適当に会話をし、夕方には大学を出た。
ここまで、何も変わらない一日だった。
だが。
夜。
事件は起きた。
午後9時12分。
悠斗は家へ帰る途中、いつものコンビニの前を通りかかった。
その瞬間。
「キャアアアア!」
悲鳴が響いた。
振り向く。
黒い車が猛スピードで突っ込んできていた。
「危ない!」
誰かが叫ぶ。
ブレーキ音。
タイヤがアスファルトを削る音。
次の瞬間。
ドンッ!!
車が電柱に激突した。
衝撃音が夜の住宅街に響く。
ガラスが割れる音。
煙。
悠斗は呆然と立ち尽くしていた。
目の前の出来事が理解できない。
周りの人たちがざわめき始める。
「救急車呼べ!」
「大丈夫か!?」
運転席には男がいた。
ハンドルに突っ伏している。
額から血が流れていた。
スマホを取り出そうとして、悠斗は気づく。
自分の手が震えている。
やがてサイレンが近づいてきた。
救急車。
警察。
騒ぎはどんどん大きくなっていく。
悠斗はただ、その光景を見ているしかなかった。
そして。
その夜、家に帰り、ベッドに倒れ込むように眠った。
長い一日だった。
事故の光景が頭から離れない。
だが。
人は眠れば、また次の日が来る。
普通なら。
そうなるはずだった。
翌朝。
目覚ましが鳴った。
午前7時。
悠斗はアラームを止める。
「……?」
妙な違和感があった。
なんだろう。
デジャヴのような感覚。
カーテンを開ける。
テレビをつける。
ニュースキャスターが言った。
「今日も暑くなりそうです。7月14日、火曜日――」
悠斗の動きが止まった。
「……は?」
スマホを見る。
日付。
2026年7月14日。
「昨日も……」
同じ日付だった。
慌てて立ち上がる。
テレビをもう一度見る。
やっぱり同じニュース。
同じ天気予報。
同じ内容。
「いやいやいや……」
急いで家を出る。
通学路。
コンビニ。
駅。
全部同じだ。
昨日と、まったく同じ。
そして。
夜。
午後9時12分。
コンビニの前。
「キャアアアア!」
悲鳴。
黒い車。
急ブレーキ。
電柱。
ドンッ!!
悠斗の背中に冷たい汗が流れた。
完全に同じ事故。
一秒のズレもない。
同じ光景。
同じ人。
同じ悲鳴。
悠斗は震えながら呟いた。
「……嘘だろ」
周りの人間は誰も気づいていない。
昨日と同じ出来事が起きているのに。
誰も。
何も。
違和感を持っていない。
悠斗だけが覚えている。
昨日を。
そして理解した。
この町は。
この世界は。
同じ一日を繰り返している。
そして悠斗はまだ知らない。
このループが。
あと99回続くことを。




