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食屍鬼 -楽園-  作者: 藤岡
繋がり
7/26

05

三日後

「サキさんですか?」

「ええ、もしかして貴方がヒロシさん?」

「そうですそうです。

いやぁ写真で見るより美しい人だ。」

「美しいだなんてそんな……有難うございます。」

サキはニコリと微笑んだ。

二人は改めて軽い自己紹介をした後腕を組み高級レストランへと向かった。


「レイさん、前山と接触しました。」

「おおー、まぁ上手いこと連れてこいや。」

「了解です。」

物陰に隠れ二人を見つめながら颯は電話を切る。

颯の客の一人であるヒロシは返済免除という条件でパパ活をしている男に成り済まし、サキと名乗る女、前山咲笑と接触した。

服の内側に小型マイクを取り付け、全ての会話は颯に聞かれていた。

最初はぎこちなく少し距離があった二人だが、食事をしながらたわいない会話をしている間に少しずつ打ち解けていった。

「こんなに話が合う方は初めてです。」

サキがニコリと笑いそう言うと、ヒロシも優しく微笑み返した。

──────────────

「足りないよ。」

「すみません……今手持ちがこれしか無くて……。」

「借りるだけ借りて返す時はそんな適当な事しちゃうんだ?」

「ち、ちが!

本当に返そうと思って用意はしていたんです!」

「じゃあどうして足りないんだよ?用意していた金はどこにいった?」

「それが……。」

ある日の夜、返済の為にヒロシは西側出入口すぐ隣の倉庫内へと足を運んでいた。

「はぁ?オヤジ狩りにあったぁ?」

「はい……。」

「はっはは、笑わせるなよ。

嘘つくならもう少しマシな嘘ついてくれよ。」

「嘘じゃないんです!

本当に全額用意していて……なのにアイツらが……。」

ヒロシは服を捲りあげ、腹部に出来た痣を見せる。

「ふーん……相手の顔は見たのか?」

「複数いたので全員では無いですけど一人だけ……。」

「オヤジ狩りにあった場所はどこだよ?」

「ここから少し先にあるヴァイス地区です。」

「ヴァイスね……そこで何をしていたの?」

「仕事でその近くに行く用事があったので……。

そのまま家に帰ろうとしたらアイツらが……。」

「あんな所で大金を持ち歩いちゃいけないよ。」

「はい……。」

「ヴァイスか……なぁ、ちょっと仕事しないか?」

「えっ…?」

男は唾を飲み込む。

「あぁ、違う違う、そんな恐れるような仕事じゃない。

仕事というより頼み事と言った方が正しいかもしれないな。」

「頼み事……ですか?」

「そう。それにそれを成功させてくれたら返済はチャラでいいよ。」

「え!?そ、そんな上手い話が……」

これは何かの罠だと思った男の目からは自然と涙がこぼれ落ちた。

「あるんだよなぁ。

どうする?嫌なら断ってくれてもいい。

ただし、断るなら今すぐに返済してくれよな。」

ニコリと笑う颯を見てヒロシは顔を引き攣らせる。

断る、だなんて選択肢は最初から用意されていないのだから。


「と、まぁ難しい話じゃないだろ?」

「……この女性を颯さんの所に連れてこればいいんですね?」

「そうそう。

でもお前がパパじゃないってバレちゃいけない。それに、途中で逃げられてもいけない。」

颯から事前に話を聞いたヒロシはパパ役になりきり指令に従う事にした。

ニコニコと笑顔で話していた颯の目は笑ってはいなかった。

ここの人間は全員目の奥が深い闇のように真っ暗なのだ。


反するものは罰せよ。


まるでそう教えこまれ育てられてきたかのような暗い闇を抱えているように見える。

反すればその闇の中に引きずり込まれ、そして消されるのだろう。

──────────────

少し運が悪かった。

事故を起こし相手に金を払うと元々少なかった貯金は底を尽き、そしてあっという間にマイナスになった。

上司からは突き放され、同僚達からは冷ややかな目で見られた。

そして俺は職を失った。

大手企業に勤めていた俺は、少しばかり多い収入に甘え、貯蓄よりもギャンブルに注ぎ込んでいた。

勝てば良い。

独り身だったのが不幸中の幸いだろう。

それでもなんとか生きていける、そう思っていた矢先の出来事だった。

自分の不注意で起こした事故。

貯金では足りず両親に頼み込み足りない分を補ってもらった。

両親は相手に謝り俺に対しては呆れた顔をしていたが、生活費を渡してくれた。

俺はその生活費をギャンブルに使ってしまった。

勝って増やせば問題無い。

そう意気込んだ数時間後、絶望のどん底へと叩き落とされた。

一瞬にして失った金額を取り戻す為の金も無い。

両親にはもう頼めない。

金を借りに行くか…?

借金をするのは気乗りしないが今はそんな事を言ってられる場合では無い。

だが、借りると周りにバレるのだろうか?

両親にバレたら終わりだな…。

そんな事を考えている時、隣に座っていた男がスマートフォンを取り出し画面をタップして耳にあてた。

「すみません、これから五万円程お借りする事は出来ますか…?」

俺はその言葉を聞き男の方を見てしまった。

男はヘラヘラと笑いながら、はい。はい。と答えていた。

電話を済ませた男と目が合い、軽く会釈をされたので会釈し返すと、男はまた希望を目に真っ直ぐと前を向き直す。

それから数分経つと男の肩に手が置かれた。

「あ!わざわざこんな所まですみません。」

「ええよええよ、近くに来とったし。

で、五万やっけ?まーたこんなもんに使い込んで…。」

「へへ、でも今日は勝てそうなんですよ!」

「もうええって、聞き飽きたわ。

でもまぁちゃんと返してくれるん分かってるし好きに使ってや。」

男は封筒を受け取ると「有難うございます!」とにこやかに返す。

「ほなまた。頑張りやー。」

封筒を渡した男は手をヒラヒラとさせ出口へと向かう。

俺は、気付いたらその男を追っていた。

店から出るともうその男の姿は無かった。

「どこに行った…?」

きっとまともじゃない金貸しだ、という事は分かっていた。

だがきちんと返せば問題は無いだろう。

多少金利が高くとも、一回借りて返す時に全額渡せばそれ以上は何もしてこないだろう。

それにいざとなれば警察や弁護士が味方をしてくれる。

一回だけ、一回だけなら大丈夫だ。

自分がまともな判断が出来ないほど追い込まれているという事にも気付かないまま男を探し歩いていた時、少し先の路地に入って行くのが見えた。

「いた!」

男を見つけ小走りで路地に差し掛かると、此方を向きニィと妖しく笑う追っていた男と目が合った。

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