01
「あんた病気なんじゃないの?」
「お前頭おかしいよ。」
蔑む瞳。軽蔑の瞳。全身から溢れ出る嫌悪感。拒絶。
冷えきった声色に乗せられ僕の鼓膜に突き刺さる棘はいとも簡単に僕の心まで到達し突き刺した。
それがどこか不快で、気持ち良くて、壊したくて。
誰も僕を理解出来ない。
僕だって僕を理解出来ていない。
この先もきっと、変わることは無いだろう。
そう思っていたある日、僕は初めて理解者に出会ったんだ。
──────────────
18年前の夏 不要な命がこの世に誕生した。
産声すらあげずにそのまま永遠の眠りについた方が僕の為でもあるし、他人の為にもなっただろう。
だけど僕は元気よく泣いたんだ。
この先に待ち受ける地獄のような日々を知りもしない赤子。
その地獄を生み出すのが自分自身だとも知らない赤子。
悪魔の子と呼ばれるだなんて、誰が思ったのだろう。
僕には兄がいたらしい。
だけどその兄は、母の腹の中で眠ってしまったという。
兄が産まれていれば、僕は存在しなかったかもしれない。
それとも僕は、兄の生まれ変わりなのだろうか。
声を聞くこともなく別れを告げた兄に対する両親の想いは、重苦しくて僕には受け止めがたいものであった。
僕には所々の記憶が存在しない。
物心がついた時から現時点に至るまでの記憶が、虫に食い散らかされたように穴を開けている。
「こんなことがあったでしょう。」なんて思い出話をされたところで、僕の記憶には存在しない。
だからそれが事実なのか偽りなのかすら分からない。
そのくせ変な所は鮮やかに記憶として残っていて、それが僕を苦しめる。
痛い 苦しい 辛い 怖い
そんな記憶は消えること無く僕を苦しめ続ける。
そして、それはいつしか憎しみに変わっていった。
幼なじみの男の子。僕より一つ年上だ。
家に遊びに来て僕の宿題を取り上げると、得意気な顔をして問題を解き始めた。
スラスラとペンを動かし空白を埋める姿を見た僕は、「すごぉい!」なんて、目を輝かせていたんだけど、それをみた母親の表情は瞬く間に豹変した。
「宿題は自分でしなさい!」「どうして人にやってもらうの!?」
僕は、取り上げられたんだと伝えたかったんだけど、言葉が出るより先に頬に強い痛みが走ったんだ。
鬼のような血相で、僕が悪いと決め付けた母親は僕の言葉を聞こうともしない。
幼なじみも手を止め気まずそうな顔をしている。
「泣いてないで謝りなさい。」と言われた僕は、どうして僕が謝らなきゃいけないんだ?という感情が渦巻き中々言葉に出来ないでいた。
そんな僕に苛立ちを募らせる母親と、自分の母親の元へと逃げ去る幼なじみ。
この疑問を口に出してもいいのか?と考えている間にも、僕の後頭部には痛みが与えられる。
痛みから逃れるためには謝らなければならない。
だけど、謝る意味が理解できない。
まだ幼かった僕は、痛みから逃れる選択をした。
それが全ての始まりだったのかもしれない。
母親の思い通りに動く事が、母親の機嫌を取ることが、僕にとって最善だとまだ未熟な脳に染み込ませてしまった。
僕が母親からの暴力を受ける所を見ても助けようとしない幼なじみの母親。
母親同士も幼なじみだ。同じ思考をしている。
そう、幼なじみも同じように自分の母親から暴力を受けているのだ。
僕の気持ちが分かるはず。
同じ辛さを分かち合えるはず。
そう思っていたんだけど、それも僕からの一方通行な思いであり、幼なじみは自分のストレスを僕に向け発散する事しか考えていなかった。
親から与えられた痛みを僕に与えることにより、自分の心を保とうとしていたんだ。
そんな事にはまだ気付けていない僕は、逃げ場も無く発散することも出来ず、真っ白な心は荒み汚れていった。
そういった事は今も鮮明に思い出せる。
成長した今、僕の中で無理矢理に目を瞑り続け寝たふりをしていた憎悪や憎しみが目を覚ましてしまった。
僕はきっと、母親を殺してしまうだろう。
僕にとって最善の道はそれしかないのだから。
親殺しは悪だと言うのならば、子の心を壊し続けた親はなんなのだ?
教えてくれよ。僕は知りたいんだ。
親と良好な関係を築き上げ、平和に暮らしてきた奴らの考えを。
親と不仲と言いつつも、甘えているだけの勘違い野郎たちの考えを。
自分がこの世で一番不幸だと話すお前たちの考えを。
お前たちが見る僕の姿を、教えてほしい。




