17
友達と遊び、日が暮れ始めた頃。
家に帰ろうといつも通り近道をした。
細い路地を渡れば家まですぐだ。
あの日、その路地で座り込む二人と目が合った。
「大丈夫か?」
俺は思わず声をかけた。
あまりにもボロボロな服装で、そして傷だらけだった二人。
俺の問い掛けに応えることは無く、ただただ睨み付けてくる二人。
「ちょっと待ってな!」
俺は二人にそう言うとコンビニへと走った。
残り少ない小遣いを次の小遣い日までどうやって乗り切るか…?なんて考えていたはずなのに、気付けば全財産を使って二人分の飲食料を買っていた。
「これあげるよ。」
二人の前に袋を置くと、二人はチラリと袋を見てすぐにそっぽを向いた。
このまま放っておくのは良くないなと思っていたが、どれだけ話しかけても返事をしてくれない二人。
俺は一回距離を取った方が良いと判断し、二人に別れを告げ家に帰った。
それでもずっと気になっていた俺は、夜にこっそり家を抜け出し二人がいた場所へと向かう。
だがそこにはもう二人の姿は無く、家に帰ったのだろうと思い安心して、そして笑みがこぼれる。
「ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てろよな。」
それから暫く二人に会うことは無く、俺はいつも通りの生活をしていた。
それから数年経ち、俺が17歳になった年。
いつも通り友達と遊び帰ろうとした時、初めてヤンチャな集団に絡まれた。
どうやら金が必要らしい。
ニヤニヤとしながら数人で俺を囲み、人気の少ない場所へ連れて行こうとする。
それをやんわりと断りながら逃げようとしたが、腕を強く握られそのまま俺は虚しく男達に連れて行かれてしまった。
ああ、いっぱい痛い思いをするんだろうな…。
そう思っていた時、「なにしてんだ?」と声が聞こえると、男達は俺から声のする方へ意識が向く。
「うわ、弱い者イジメや!」
「ははっ、だっせェ。」
声がする方には二人の男が立っており、馬鹿にしたように笑いながら言葉を投げ付けた。
集団は完全に俺からその二人へ意識がいっており、お怒りのようだった。
「なんや?やるか?」
一人が挑発し、その隣でもう一人がニヤニヤと笑う。
集団は怒鳴り二人に向かい走り出す。
さすがにあの数は無理だろう。
俺は何故だか分からないが、気付けば二人の前に立っていた。
そして、二人に目掛けて振り下ろされた拳が見事に頬に直撃し、あまりの痛さにその場に座り込み溢れ出そうな涙を必死に堪えた。
「うわ、びっくりした。なんで出てくんねんこのアホ。」
「頭が悪いんだろうねェ。」
助けようとしただけなのにその二人から酷い言われようで、流石に涙を堪えるのも無理があった。
「でもまぁ」
「嫌いじゃないけど。」
その後の二人の暴れっぷりを見て、飛び出した事を後悔した。
殴られ損ってやつか…。
「お前あれやろ、俺らに飯とかくれた奴。顔変わらんからすぐ分かったわ。」
集団が倒れている隣で涙を堪える俺に手を差し出しながらそう言う男を見て思い出す。
「あの時の二人……?元気にしてたのか?」
俺が手を取り立ち上がると、二人はニィッと笑ってみせた。
それから何故か二人は頻繁に俺の前に姿を現し悪戯をする。
反応が面白い。理由はただそれだけのようだ。
俺は色々と気になっていたが、きっと触れられたくはないだろうと二人に深い事は聞かないようにしていた。
そして俺は高校を卒業して直ぐに大好きなバイクに携わる仕事を始めた。
19歳の時、最愛の人と出会った。
20歳の時、変わらず二人に悪戯をされて怒る日々を過ごした。
21歳の時、最愛の人と共に暮らすべく必死に貯めたお金で小さいながらも喫茶店を経営する事になった。
バイク屋を辞めた後、二人と会うことはほとんど無くなった。
喫茶店の場所は教えていたが、結局最後まで二人が顔を出すことは無かった。
そして22歳の時、俺は最愛の人を残してこの世を去った。
悔しかった。
辛かった。
会いたかった。
「何?バイク屋辞めたん?」
「うん。喫茶店を開いたんだ。二人も来てよ。」
「気が向いたらなァ。」
二人はそこまで興味を持っていないようだった。
「あ、そうだ。二人共もうすぐ成人式か。」
「あ?成人式ぃ?」
「別に行かんし興味も無い。」
「行かないのか?親も喜ぶだろうに…。」
俺の言葉は二人に聞き流され、彼女の顔を見せろ!と詰め寄られた。
俺は仕方無く二人に写真を見せたが、二人は見るだけ見て特に何も言うこと無く飯が食いたいと言い始める。
いつもこんななので慣れていたが、今思えばあの時、二人に彼女の顔を見せていて良かったのかもしれない。
彼女もなんとなく二人の存在を知っていた。
が、深く聞いてくることは無かった。
「涼一くんが大切にしている人ならきっと良い人達なんだろうね。」
そう言われたのが何故かすごく心に残っている。
幸せだった。
なんだかんだ言って二人の悪戯も無くなると寂しいものだった。
やり方は褒められたもんじゃないが、俺の大切な人を救ってくれて有難う。
覚えていてくれて有難う。
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「え!うそ、キョウさんが出店許可したの?!」
懍がキャッキャと騒いでいると、後ろからキョウに頭を小突かれる。
「他の奴にも出してんだろォよ。」
「そうだけど男の人ばっかりだったし!女の人でもだせるんだぁ。」
ブルータル地区西側の一つの建物。
決して綺麗とも広いとも言えないが、そこに立つ女性はどこか幸せそうな顔をしていた。
「で?この店では何出してくれんの?」
カウンター席に座ったレイが真奈に問いかける。
「特にこれといったものはまだ一つしか決まっていません……何がいいですか?」
「その一つってのは何?」
「ホットミルクです。」
「ホットミルクやって、キョウ。」
「なんで俺に話を振るんだよ。」
「俺らもよく飲んだやん、ホットミルク。」
「忘れた。」
二人のやり取りを見ていた懍がニヤリと笑う。
「二人もそういうの飲んだりするんですね!可愛い。」
「は?」
「あ?」
「ごめんなさい!嘘です!」
二人に睨まれた懍は顔を青ざめさせ素早く謝った。
「ホットミルク、よく飲んでいたんですか?」
真奈に聞かれてレイが頷くと、真奈はニコリと笑う。
他の仲間たちも集まり、みんなでこれが食べたい、あれが飲みたいとメニューを決め始める横で、レイとキョウはそれを眺めている。
「レイさん、キョウさん。」
ボーッとしていると真奈に呼びかけられる。
「良かったらどうぞ。」
そう言って二人の前に置かれたのはマグカップに入ったホットミルクだった。
「有難う。」
二人は手に取りゆっくりと口につけて一口飲む。
「美味いわ。これ看板メニューちゃう?」
レイがそう言うと真奈は笑った。
「……同じ味なんだなァ。」
キョウがポツリと呟くと、それを聞いていた懍が「誰が作っても味は同じなんじゃないですか?」と言い、キョウに頬を抓られた。




