01
『おはよう。』
『今日も朝から仕事だ……。』
『今日は上司の機嫌が良い。』
『休憩時間も仕事をしていたい。』
『この会社に僕の居場所は無い。』
『業務連絡以外の会話なんてずっとしていない。』
『もう辞めたい。』
『楽しい事がない。』
『早く帰りたい。』
会社のトイレの個室の中でスマートフォンを取り出し、Linkに気持ちを吐き出しているこの男の名前は、原田 智之。
「Sさんは優しいなぁ……。」
原田はLink内友達のSを気に入っていた。
原田とSの出会いは、原田の投稿にSがスタンプを押した事がキッカケである。
Linkでは人の投稿に対して、笑顔、泣き顔、怒り顔の三つのスタンプで反応する事が出来る。
大体の人は既読感覚で一番手前にある笑顔のスタンプを押して行く。
が、Sはその投稿に合った顔のスタンプを押してくれるのだ。
小さな事かもしれないが、原田にとってそれはとても嬉しい事なのである。
原田はLink内では友達を沢山作ろうと思って始めたので、自分からSへ友達申請を送った。
Sはすぐに承認してくれた。
原田は、友達になったのだから全ての投稿に反応しよう。そう決めたが、Sはあまり投稿をしなかった。
原田は、どうしてあまり投稿をしないのか?とSに聞いた事がある。
Sは、人の投稿にスタンプやコメントをする方が好きだ。と返事をくれた。
人には人の楽しみ方がある。
そう考えた原田は、自分の投稿に反応をくれた時に自分から話しかけよう。と思いその日は眠りについた。
あの日から二ヶ月が経とうとしている。
Sは時間差はあれどほぼ全ての投稿にスタンプを残してくれ、時にはコメントもしてくれた。
原田のLink内友達はS以外にも50人程いたが、残りは皆揃って笑顔のスタンプだけだった。
原田はSだけがちゃんと自分を見てくれていると嬉しく思い、ありのままの自分をさらけ出していた。
最初の頃は、ネガティブな内容ばかりで申し訳ないと思い一度Sに謝ったことがある。
するとSはいつもより早く返事をくれた。
『自分の気持ちを吐き出して気が楽になるなら、素直に全部吐き出していいと思います。
僕はどんな貴方も受け入れますよ。』
原田は嬉しかった。
初めて人から受け入れて貰えた。
そう思ったのだ。
──────────────
「ねえ、またLinkで探しているの?」
一人の男がソファに寝転びニタニタと笑いながらLinkの画面を見ている。
「そうだよ。手っ取り早いんだよ。」
「今のターゲットは何人位いるの?」
「ざっと30人程度だな。
その中でも落ちやすい奴を厳選中。」
「イシシッ 本当颯さんって楽しそうな顔して悪い事するよねえ。」
「悪い事って……懍も人の事言えないだろ。」
「俺は全然だよ。今日もレイさんに叱られたし。」
「何したんだよ?」
「レイさんの客の一人が逃げ出しちゃって、すぐに追いかけたんだけどすっごい足が速くて捕まえられなかった。」
「うわ、最悪じゃん。で、どうなったの。」
「客が走って向かった先に居た仲間が捕まえてくれた。
あの人達が居なかったら今頃俺はここにいなかったかもしれないよ。」
「はは、確かに。
そもそもどうしてその客は逃げ出したんだ?」
「金が払えないってさ。
レイさんが仕事を紹介してあげるって言い出したら走り出しちゃった。」
「あー……よくあるやつね。
じゃあ今日はご機嫌ナナメなわけだ?」
「そう。
すごい怒りながらチョコレートを食べていたよ。」
「あらら、また買ってきて補充しとかないとな。」
颯はスマートフォンをポケットに入れ立ち上がると、懍を連れて部屋を出る。
「さて、俺も叱られる前にこっちの仕事も終わらせますか。」
ここはブルータル地区。
この国で一番荒れているとされ、警察すら近寄らない地区である。
国から見放された場所。
と、国民から呼ばれ恐れられている。
この国には警察の他に自衛隊とはまた別の特殊組織が存在するが、その特殊組織ですら国から関わる事を禁じられている。
この地区は西と東の二つに分かれており、それぞれに絶対的存在の男がいる。
颯と懍は西にある建物から顔を出す。
「懍ちゃんまたレイさん怒らしたやろ?ちゃんとしてや~!」
建物から外に出ると、西の仲間の一人が懍に声をかけた。
それに続いて他の仲間達もケタケタと笑う。
「はい……すみません。」
懍が申し訳なさそうに頭を下げると、仲間達は「気にせんでええ。次頑張りや!」と慰めてくれた。
颯と懍は軽く頭を下げ、仕事場へと向かった。
「約束の時間は20時だったよな?」
「うん。ちゃんと来るかな。」
「来てくれないと困るんだよな。外に出るの面倒くさいし。それに今日はウチのボスの機嫌が悪い。
なぁ、懍ちゃん?」
颯が笑って言うと懍がムッとした顔をする。
「そう怒るなよ。事実だろ?
……ま、レイさんの事だから気が済むまでチョコレートを食べてふかふかの布団で眠れば明日の朝には機嫌も良くなってるだろうし気にしなくていいと思うけどな。」
「本当……付いていくのがキョウさんじゃなくて良かった……。」
「ははっ、キョウさんはキョウさんで甘いと思うけど。
身内には優しいって聞くし。
…そういえば明日だっけ?輝血に会うの。」
「うん!明日一ヶ月ぶりにかーくんと会えるんだよ!だから俺も明日の朝には立ち直ってないと。」
懍は輝血という名を聞くと一気に表情が明るくなった。
「本当に大好きだな、輝血の事。」
「当たり前でしょ!家族だもん」
「……一応俺も家族なんだけど?なんだか差が無いか?」
「家族の中でもかーくんが一番なんだよ。」
「順位付けするの俺は反対だなあ、懍ちゃん?」
「もうやめてよその呼び方!馬鹿にされてる感じしかしない!」
「ははっ、可愛がってんだよ。俺も皆も。それに、レイさんも。」
「……恥ずかしいからやめてよ。」
懍がフイと横を向くと、颯は懍の肩に手を回して笑う。
「チャチャッと終わらせて早めに寝ますか!」
懍は颯の言葉を無視して黙って約束の場へと歩みを進めた。




