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そんな二人を見て転がる男は小さな声で言う。
「何がそんなに面白いんだ?」と。
その言葉を聞いたキョウは笑いを残しながら男の前にしゃがみ込んだ。
「出所したら、なんて気楽に考えてるアイツの頭の悪さが可笑しくってよォ。なァ?」
「ふっふふ、アホやろアイツ。」
男が不思議そうな顔をすると、二人はニコリと微笑み「じゃァ始めようか。」と声を掛ける。
レイが残っている仲間に声を掛け、男が縛り付けられている椅子が起こされると、太く頑丈な縄が解かれる。
「え?」
突然拘束を解かれた男が困惑していると、キョウが再び微笑みかけた。
「死ぬ気で逃げなァ。」
「何…?」
困惑している男を横目にキョウは先程まで男を縛っていた縄を手に取る。
「因果応報って知ってるかァ?」
すぐ隣から聞こえたその言葉の意味を理解した男は慌てて立ち上がりそのまま転倒した。
男から見たキョウとレイは悪を凝縮したような姿であり、自分に対して向けられる微笑みはまるで、絶対的な勝利を確信しているように見えた。
「う、うわぁ!助けて!助けてくれ!!」
男は立ち上がると扉へと向かい走り出す。
すぐそこにあるはずの出口が永遠に続くのではないか?と思える程遠く感じた。
二人の仲間がニヤニヤとしながら出口を塞ぐ。
それでも男は懸命に走った。
キョウに言われた通り、死ぬ気で走り逃げたのだ。
だが、死神はすぐ隣で笑っている。
男が腕を伸ばすと同時に目の前を何かが横切り、そして悪魔の笑い声と共に息苦しくなる。
「それがお前の本気かァ?」
倒れ込んだ自分の上から重みと共に聞こえる声。
自分の首に手を当てると、そこには自分を苦しめる縄があり、必死に解こうとするものの一切緩まる事は無かった。
苦しくて、苦しくて、声も出せずにもがき続ける。
「なァ、知っているかい?」
その言葉が聞こえると同時にふっと首を絞めていた力が弱まり、雑に上を向かされた。
「絞殺するにも種類があってねェ。
苦しい思いをせずに逝ける方法と、漫画とかでよくある……あァ、今のお前みたいなもがき苦しみながら逝く方法。」
男が言葉を発しようとした時、それは一方的に拒絶された。
「こうするとさァ、苦しいんだよなァ?」
男が自由に呼吸が出来る時間は唐突に終わりを迎える。
「お前が人に頼んでやらせた事はこういう事なんだよ。
それもまだ小さいガキ相手に。」
「ご……ん……さい……」
男は許される事も、解放されることもないと理解した上で最後に振り絞って謝罪をした。
「それは向こうでお前が憎んだあの子に言うんだなァ。
……あァ、お前はあの子達の所には行けねェか。」
男の視界がぼんやりとし始め、苦しさから逃れようと足掻く力も失う。
男が最期に見た光景は、楽しそうに笑う悪魔二人の顔だった。
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「あの人はどない?」
西側へと戻ったレイは颯に聞く。
「部屋で眠ってもらっています。」
「ほぉん?寝れたんか。ならええけど。」
「相当疲れたんでしょうね。そりゃ無理もないですけど。」
「……いくら犯人が捕まろうがなんだろうが一生癒えん傷負ったんや。
ほんま……なんとも言えんな。俺らが言うのもなんやけど。」
「ですね。どっちかと言えば俺らは普段加害者側ですからね。」
「恨まれ屋さんって名乗ろうかな。」
「嫌ですよそんな肩書き。」
「冗談やんけ。まぁアホほど恨まれてるやろうけど。」
レイと颯が話していると、外からひょこっと懍が顔を出した。
「お疲れ様レイさん。」
懍は部屋に入りレイの隣に立ち頭を下げる。
「おー、お疲れさん。」
レイは懍にも座るように声を掛けた。
「いやー、レイさんも颯さんもいないからこっちはこっちで大変だったんだからね。何かご馳走してよ。」
「あー、せやな。助かったわ。何でも食わしたるわ。」
「本当?やった、じゃあ何にしようかな?」
懍がニコニコしながら食べるものを考えている姿を見て、レイと颯はニコリと笑う。
「あ、そうだレイさん。」
「ん?決まったか?」
「それはまだだけど、ひとつ聞いてもいい?」
「なんや?」
「あの女の人……真奈さんだっけ?あの人は家にかえすの?」
「まぁ帰るやろ。なんで?」
「いやぁ、大丈夫かな?って。一人ぼっちは寂しいよ。」
「あー、でもそんなん言ってたら他の奴らどないすんねん。
他にも一人のやつなんか山ほどおるやろ。」
「うーん。でもなんだか可哀想だよね。犯人以外誰も悪くないじゃん。」
「せやけど。
だからといってここにおれって言う訳にもいかんやろ。
向こう側の奴は向こう側で生活すんのがええねん。」
「そりゃこんな所に居てくれとは言わないけどさぁ、帰った後死んじゃったりしないかな?って思っちゃった。」
「……後追いね。
それはそれで自分で決めたんやったらええんちゃうか。」
「えー、レイさん冷たい!!」
「あーもううるさい。ほら、いつもの店行くで。キョウもおるはずやし俺も腹減ったわ。」
レイが立ち上がり部屋を出ると、颯と懍もその後を追う。
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翌日
目を覚ました真奈は赤城から「犯人は自首をした。自分達が警察署に入って行くのを確認した。」と告げられる。
真奈は「有難うございました。」と頭を下げた。
それから暫くすると、真奈がいる部屋に眠たげな表情をしたレイが現れ、それから少ししてキョウが顔を出した。
「あの、お二人にはなんといってお礼をすれば良いか……。」
「ええよそんなん。
俺らは頼まれたことしただけやし前払いしてもらってるからな。」
「あァ。礼なんていらねェよ。」
真奈は二人に頭を下げた。
「お二人に会えなければ、私は今もきっと一人で出口の無い闇の中をさ迷うことになっていたと思います。
救い出してくれて本当に、本当に有難うございました。」
レイとキョウは少し困ったような顔をした。
深々と頭を下げた真奈は顔を上げ、鞄を手に取る。
「では私はこれで……本当に有難うございました。」
そう言って部屋から出ようとした真奈の肩を掴んだのはレイだった。
「家に帰るんか?」
レイの言葉を聞いた真奈が「はい」と答えるまでに少しの間ができる。
「……後悔は無いんか?」
「……はい。」
レイは手を離すと「ほんならええけど。」と背を向けた。
「失礼します。」と真奈が部屋から出て行くと、レイはその場に座り込む。
「ほんまにこれでええんか?キョウ。」
「……さァね。」




