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「なんかヤバそうなやつだったよねぇ。」
「女捨てて逃げていくのかと思ったらすっげぇ怖い顔するから正直ちょっとビビっちゃったわ。」
酒を片手に笑いながら話す男女の元に戻った男は酒を手に取り一気に飲み干す。
「なにぃ?怖かったの?」
女が笑いながら話しかけると男は下を向く。
「あの人……見た事がある……。」
「え?知り合い?」
「違う……前にお前らと遊んだ後の帰りに近道しようとしたんだよ。
それが人通りの少ない場所なんだけど…そこで男の人が一人血を流しながら横たわっててさ……。」
「え、さっきの人?」
「……いや、違う。
で、助けないとと思って男の人に近寄ったら、逃げろって言われて。
それでも放っておけないと思って救急車を呼ぼうとしたんだけど、死にたくなかったら早く逃げろって怒鳴られてさ。」
「で、どうしたんだよ?」
男女は酒を飲むのをやめて真剣に男の話を聞く。
「救急車だけ呼んでその場から離れたすぐ後に三人組の男がやってきて、横たわってた人の腕を掴みあげて連れて行ったんだよ。
その時、俺はもう向こう側からは見えない場所に移動して様子を伺ってたんだけど、さっきの男が立ち止まって俺がいる方をジッと見てから姿を消して……すぐに物陰に隠れたから向こうは気付いていないと思ったんだけど…その時の目とさっきの目が同じでさ…やっぱり気付かれててただ見逃されただけだったのかな、って。」
「マジでヤバいヤツじゃん。」
「ヤクザ……とかなのか……?」
「……多分だけどそれよりもっとタチが悪い……そんな人に二回も見られたんだ。
もう今回ので顔を覚えられたかもしれない…。」
「ヤクザよりタチ悪いってなんだ?最近だと先輩とかにもいるけど最近暴れ回ってるって言えば半グレとか?でも警察が絡めばさすがに何も出来ないっしょ、大丈夫だよ。」
「いや、先輩達すら足元にも及ばない…。あの人は多分……ブルータルの人だよ…。」
「……ブルータル?」
男女は顔を見合せ笑う。
「ブルータルって都市伝説でしょ?笑わせないでよ。」
「そうそう、それにブルータルの人間だって言うならこんな所で顔出して歩いてるわけないだろ。
見つかったら即死刑でもおかしくない人間しか居ないって噂だし。」
「……そうなのかな…。」
「まぁまぁ、もう気にするのはやめて飲み直そうよ!追加でお酒買って誰かの家に移動しよ!」
「そうだなー。ほら、行こうぜ。」
「お、おう。」
男は颯達が乗った車が向かった方を見る。
「ブルータルがあるとされるのはこの先なんだよな…。」
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「おー、おかえり。」
颯と真奈がブルータル西側倉庫に入るとソファに座り笑顔で迎えるレイが居た。
「買ってきてくれた?」
「はい。このチョコレートでいいんですか?」
「そうそうこれ!これがいっちゃん美味いねん。」
レイは嬉しそうにチョコレートを食べ幸せそうな顔をする。
「まぁそこに座りや。」
レイはソワソワしている真奈に声を掛ける。
「は、はい。」
真奈は従いレイの向かいにあるソファに腰を下ろす。
「犯人はまだ寝てるから起きたら向こう行こか。」
レイは袋の中を漁りながら真奈に言う。
「寝ている…?」
「ん?ああ、寝かせた方が連れてきやすいからな。」
真奈はこれ以上は聞かない方が良いと判断し自分の飲み物を手に取る。
「あ、颯さん。お金払います。」
「何、颯に金借りたんか?」
「いや、飲み物を一緒に買って頂いたので……。」
「あー、俺の奢りやし払わんでええよ。」
「それじゃなんだか申し訳ないですし……。」
「ええって。お客さんなんやしここは甘えといてや。」
レイは真奈に財布をしまうように言い、袋の中から他のお菓子を取りだし嬉しそうな表情を見せた。
「レイさん。」
颯と真奈がブルータルに到着して一時間が経とうとした時、倉庫のドアが開きレイの仲間が声を掛ける。
「起きたか?」
「はい。キョウさんが来ていいと言っています。」
「おー、ほな行こか。」
レイは立ち上がると手を震わせる真奈の肩をポンポンと叩く。
「怖かったらまだここおってもええけど、どうする?」
「……行きます。」
「無理すんなよ。」
「大丈夫です。」
真奈はレイが差し出す手につかまり立ち上がり、ブルータル東側へと移動する。
「こっち側なんですね?」
真奈は初めて歩く道をキョロキョロと見回しながらレイについて行く。
「おー、大体血ぃみるような事する時はキョウの方でやんねん。」
「血を見る?」
「分かりやすく言えば拷問とか。西側でやる時もあるけど東の方が多いな。
キョウの方が手広くなんでも屋やってるからな。」
「そう……なんですね…。」
「はっは、そんな怖がらんでも犯人にしか手ぇ出さへんって。大丈夫。」
「……。」
真奈はこれから自分が見る光景を想像出来ないまま、不安を胸に東側倉庫へと足を踏み入れた。
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「お前ら誰だよ!!」
目隠しをされ椅子に縛り付けられた男が叫んでいる。
「ここにおって。」
真奈はレイに犯人達から見えないよう山積みのダンボールの隣に置かれた椅子に座るように言われる。
レイは縛り付けられた男の方へ向かって行き、男の前で天井を見上げながら煙草の煙を吐き出しているキョウに声を掛ける。
真奈の隣には颯が立っており、倉庫出入口には三人の男が、縛り付けられた男の後ろにも三人の男が立ち、キョウとレイの少し後ろに赤城が立っていた。
「おい!聞いてんのか!!」
「まぁまぁそう怒鳴らなくてもいいだろォ。」
「誰なんだよ!俺にこんな事していいと思ってるのかよ!!」
「思ってるからやってんだろォ?」
「は?なんなんだよお前!さっさと目隠しとこの縛ってるものどうにかしろよボケ!」
「うるさい口だねェ。少し静かに出来ないかい?」
「うるせぇよ!さっさと帰らせろ!!」
「……話し終わったら考えてやるよ。」
「は?話すことなんかねぇよ!それにお前は誰だって言っ…」
男は話してる途中で目隠しを取られ、突然訪れた明るさに目を瞑る。
少しして男が目を開くと、自分の事を見ているキョウとレイと目が合う。
「……誰だ?」
「質問してええのは俺らだけ。お前は正直に答えてくれたらそれでええねん。」
「は?なんなんだよ本当に。俺がお前らに何かしたかよ?」
「お前人の話聞いてたか?質問してええのは俺らだけやって言ってるやろ。理解出来ひんのか?」
レイは少し苛立っているようだった。
「……この男を知っているか?」
キョウが男に一枚の写真を見せる。
「……あー、コイツね。
知ってるけど……もしかしてコイツのせいで俺がこんな目に遭ってんのかよ?」
「はっは、そうかい。……赤城。連れて来い。」
「はい。」
キョウの後ろに立っていた赤城は返事をすると倉庫から出て行った。
「颯さん。」
「はい。」
「あの人が犯人じゃないんですか?」
「あー……もう少し見ていてください。」
真奈は不思議そうにしながら黙ってキョウ達の方へ視線を戻した。




