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ブルータルから自宅に帰ったその日の夜にレイから、犯人が分かった。と電話がかかってきて真奈はあまりにも早すぎる犯人発覚に混乱していた。
「本当ですか!?」
「おー、ほんま。」
「どうしてこんなに早く……もしかして知っていたんじゃ?」
「ちゃうちゃう、キョウの客にそっち方面の警察がおってな。
そいつがペラペラ話してくれてん。」
「警察が?……という事は、やっぱり隠蔽していたって事ですか?!」
「……まぁ、せやな。」
「その相手って誰なんですか?」
「……うーん。今ウチの者がソイツ連れてこっちに向かってるはずやしこっち来るか?」
「本当にその人が犯人ならば聞きたいことがあるので行きたいです。」
「ん、分かった。俺の所の者そっちに迎えに行かせるわ。」
真奈が感謝を述べるとレイは「じゃあ今から行かせるからついたら電話する。」と電話を切った。
レイとの電話が切れた後、真奈は暫く放心状態だった。
こんなに早いと誰が思っただろうか。
それに、やはり警察は隠していた。
警察が隠すとなれば相手は大体どんな人なのか想像がつく。
だが、真奈にとって相手が誰だろうとどうでも良かった。
世間から嫌われ恐れられているブルータルの人間に、真奈は心から感謝をする。
貴方達が私を救ってくれる。
貴方達が涼を救ってくれる。
レイから電話がかかってきてから数時間後、再び着信音が鳴る。
相手はレイだった。
「もしもし」
「もしもーし。今着いたって言ってるから下の車に乗って。」
「分かりました。」
真奈は上着を羽織り鞄を手に持つ。
靴を履いて鞄の中からてるてる坊主を取り出し優しく抱きしめる。
「必ず謝ってもらおうね、涼。」
鞄の中に優しくしまい扉を開けると、玄関先に一台のワゴン車が停まっており、一人の男が出てくると真奈に向けて頭を下げた。
「レイさんに言われて迎えに来ました。」
男はそう言うと後部座席のドアを開ける。
「わざわざすみません。有難うございます。」
真奈は男に軽く頭を下げ車に乗り込む。
男は真奈が座ったのを確認するとドアを閉め運転席へと移動した。
「気分が悪くなったりしたらすぐに言ってください。」
男はそう言うと車を発進させた。
真奈は空を眺め思う。
雨が降りそうな嫌な空だ、と。
男は黙ったまま運転をしている。
真奈も特に話すことは無く、静かに外を眺めていた。
遅い時間だからなのか、車だからなのか、電車よりもずっと速く景色が変わる。
ヴァイス地区に到着した時、男のスマートフォンが鳴り響く。
男はスマートフォンを手に取り耳に当てる。
「はい、もうすぐです。……はい、大丈夫そうです。
……あー、分かりました。……はい……はい。お疲れ様です。」
男は話終えると助手席にスマートフォンを置く。
「えっと、真奈さん?でしたよね?」
「は、はい!」
話しかけられると思っていなかった真奈はビクッと体を跳ねさせた。
「レイさんがコンビニで飲み物と食べ物を買ってから来いって言っているのでコンビニに寄ってもいいですか?」
「全然大丈夫です!」
真奈が返事をすると男は近くのコンビニの駐車場で停車する。
「車内に残して行くと後から怒られるので付いてきてもらっていいですか?」
男は財布を手に取ると振り向き真奈に微笑みかける。
「はい、大丈夫です。ついて行きます。」
真奈の返事を聞き男は車から降りると後部座席のドアを開ける。
「足元 気をつけてくださいね。」
真奈が車から降りたのを確認し男はドアを閉めて鍵をする。
男がコンビニに向かい歩き出すと、真奈は男の後を追って一緒にコンビニへと入っていった。
男は入店してすぐにカゴを持つと色んな種類の飲み物とお菓子や菓子パン等をカゴに入れていく。
「真奈さんも好きな物カゴに入れてください。」
何も手をつけずただ黙って着いてくる真奈に話しかける男。
「あ、じゃあ私は自分の物は別にお会計をするので……。」
「一緒に買った方が一回で済むのでカゴに入れてください。」
「じゃあ後からお支払いしますね。」
真奈がペットボトル飲料を一つ選び手に取ると、男はそれを渡すように言う。
「すみません……。」
「どうして謝るんですか?遠慮しないでくださいよ。」
男は真奈が選んだ飲み物をカゴに入れニコリと笑いかける。
「……真奈さんってもしかして俺の事覚えてないですか?」
「え?」
男は他の商品を次々とカゴに入れながら話しかける。
「真奈さんがレイさんに誘拐されて運ばれた部屋に俺もいたんですけど。すぐに追い出されましたけどね。」
「……あ、可愛らしい顔をした子と一緒にいた…?」
「可愛らしい?あぁ、懍ですね。
俺は颯って言います。颯って呼んでください。」
「颯……さん。」
「はは、じゃあそれで。……さて、会計を済ませて帰りますか。」
カゴから溢れ出しそうなほどの品数を見て真奈は目を丸くする。
「買いすぎって思うでしょ?これでも直ぐに無くなるんですよね。」
真奈がブルータル地区で見かけた人の数を思い出し納得していると「殆どレイさんと懍が飲み食いするんですよ。」と言われ真奈は再び目を丸くした。
買い物を済ませた二人が車に戻る途中、コンビニ前で座り込み酒を飲んでいた複数の男女に声をかけられた。
「デート帰りですかー?」
「今から二人で何をするんですかー?」
キャッキャと笑いながら大きな声で話し掛けてくる男女を颯は見ることも無く真奈の腕を掴みスタスタと車に向かって歩いていく。
颯の態度が気に入らなかったのか一人の男が真奈の鞄を掴んだ。
「キャッ」
突然後ろから鞄を捕まれた真奈が驚き声を上げると、その声を聞いた颯は振り返り鞄を掴んだ男を睨み付ける。
「……なんだよその目!」
颯と目が合った男は怒鳴るが颯は表情一つ変えない。
「ねぇなんかヤバそうだよ。放っとこうよー。」
「おい、こっち戻って来いって。」
男と一緒にいた男女が声を掛け、男が鞄から手を離し戻ろうとした時、男の肩がズシリと重くなる。
「人の客に手を出しておいて何も言わずに去る気か?」
驚き固まっていた真奈を自分の方へ寄せた颯は男を掴む手に力を込める。
「何か言うことないの?」
「……すみませんでした。」
「急いでいるから今日は良いけど、次は無いぞ。」
「はい……すみません。」
颯は男から手を離すと真奈の手を引き車へと向かう。
「すみません、俺がついていながら怖い思いをさせてしまって。」
颯は車の鍵を取り出し後部座席のドアを開き、真奈が申し訳なさそうな顔をしながら乗り込むと、颯はドアを閉め運転席へ向かい車に乗り込む。
「ま、さっきのやつらの事は忘れてさっさと帰りましょう。」
颯は助手席に袋を置くとエンジンをかけ車を発進させた。
動き出す車の中から真奈はチラリと先程の男女の方へ目をやると、鞄を掴んできた男が何か恐れたような目をしながら車を見ていた。




