08
「さて、そろそろ本題行こか。」
一頻り食べ終えたレイさんは満足気な顔をしながら私を見ます。
「パッと見た感じこんな所とは無縁そうやけど何しに来たん?」
「……なんでも屋さんがいると聞いて……。」
「あー、俺らや。」
「えっ」
「俺らっていうか内容次第ではキョウだけやけど。
俺はどっちかっていうと貸付けばっかやし。」
「そ、その……本当になんでもしてもらえるんですか?」
「うん。なんや脱走したペットでもさがして欲しいんか?」
レイさんは少し意地悪な笑顔を向けてきました。
「……ペットでは無いですけど……それに似た感じです…。」
「……まぁ一回話聞こか。なぁ?」
「あァ。話してみなァ。」
二人はグラス片手に私の方を見て、言葉を詰まらせながらの私の話を真剣に聞いてくれました。
「そりゃ……まぁそういう事も頼みたくなるわな。」
「って言っても犯人の特徴も何も無し……時間がかかりそうだなァ?」
「せやな。なんの情報も無かったら流石にすぐ見つけるってのは無理やろ。
それに向こう側の地区やろ。俺らもそう簡単に行かれへんしな。」
「……警察は何も掴んでいないのかい?」
「掴んでないか、掴んでても公表出来んって所か?」
「公表出来ないってどういう事ですか…?」
二人の会話を聞いていた私は思わず二人の会話を遮ってしまいました。
「あー、お偉いさん所のガキとかな。
ほら、政治家だの警察だのって権力持ってる奴らおるやろ?
そいつらの身内が問題おこしたら金で揉み消すなんて事よぉあんねん。」
「そんな!それじゃあ被害者は泣き寝入りしろって事ですか!」
「まァ落ち着きなって。」
立ち上がり声を荒らげてしまった私を宥める二人と、周りからの視線が痛く私は「すみません……。」と謝り座り直した。
「犯人を特定できたとして、あんたはどうすりゃァ満足するんだい?
まさか俺らに頼んでおいて犯人が知る事が出来ればそれでいい……なんて言わねェよなァ?」
「……分かりません。私は今自分が犯人をどうしたいのか……分からないんです。」
話す度に涙が溢れ言葉が詰まる私の次の言葉を二人は静かに待ってくれました。
「……だけど……一つだけ分かっているのは……私は……どうしてあの子が殺されなければならなかったのか、その理由が知りたい……。」
「なるほどね。まァそりゃァ親なら知っておきたいよな。」
「……調べよっか。」
「いいんですか?」
「いいも何も頼まれたら俺らはなんでもやんで。」
「金が払えるなら、の話だけどなァ。」
私はバッグの中から二つの預金通帳を取り出しキョウに渡しました。
「私が払えるのはこれだけです。……やはりこの程度じゃ無理でしょうか…?」
「おい、これって……。」
預金通帳を見たレイさんが不満げな表情をみせる。
「全額貰ってもいいのかい?」
「はい。構いません。」
「そうかい。じゃァ全額下ろして持って来な。」
「明日でも構いませんか?」
「あァ。こっちはいつでもいいよ。」
「有難うございます!!」
私は再び立ち上がり二人に頭を下げた。
「……はぁ。」
レイさんがため息をついた後、私に頭をあげるように言いました。
「とりあえず今日は部屋貸したるしそこで寝ぇや。」
「なにからなにまで有難うございます。」
「……いーえ。」
私は店先でキョウさんにお礼を言い、レイさんに連れられ先程の部屋へと戻ってきた。
なんでも屋の二人に変な気を遣わずに全てを打ち明けた事により、私の気持ちは少し晴れやかだった。
きっと、涼と深く関わりの無い人に話したかったのだろう。
親族や涼をよく知る人達に話す時は、相手も同じように涙を流し始めたりするので話しにくかった。
言葉を選び、言いたいことを我慢していた。
そうしていくうちに私は私の本音を隠すようになってしまった。
ずっと一人で抱え込んでいたこの気持ちを二人に聞いてもらえた事は、私にとってとても救われることだったのだ。
「さっき使ってたベッド使ってや。
俺は向かいの部屋におるし、この建物自体さっきの若造二人組とか俺の仲間しか入られへんから安心して……ってこんなやつに言われても安心しきらんか。」
レイさんは変わらずケラケラと笑う。
「いえ、優しい方だと分かっているので安心して眠れます。」
「……え?優しいって俺?」
「そうですけど?」
「はっはは、せやろー。俺優しいねん。」
「私何か変なこと言いましたか?」
「いや別に。ただ、客に優しいって言われることなんかまぁ無いからな。」
「そう……なんですね。」
「ま、そんな事よりゆっくり休みや。それに好きなだけおってええし。」
「好きなだけ?」
私が首を傾げるとレイさんはキョトンとした顔をしました。
「おぉ。女一人で家おんの平気って言うんやったら別に帰ったらええけど。
まぁ帰るんやったら車出させるし。」
「……家に涼を一人には出来ないので明日帰ります。
お気遣い有難うございます。」
「涼?あぁ、子供か。
……せやな、一人にしたったら可哀想やもんな。ほんなら帰る時声掛けてや。
これ俺の番号やしかけてくれたらすぐ用意するわ。
ほんでそこの充電器好きに使ってええから。」
私はレイさんに見せられた番号を打ち込み登録した。
「あの」
「ん?」
部屋を出ようとしていたレイさんが足を止め振り返る。
「何から何まで有難うございます。」
「はは、ええって。
それにその言葉は俺らがあんたの望みを叶えた時まで言わんでええ。」
レイさんは「ほな、おやすみ」と私に背を向け手をヒラヒラとさせ部屋から出ていった。
外からは騒いでいる声が聞こえる。
それすらも心地よい子守唄に聞こえるほど、私の心は私が思っていた以上に疲弊していた。




