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食屍鬼 -楽園-  作者: 藤岡
無償の愛
19/28

06

それからの記憶はあまり無く、気付けば家にいて、私の手には涼が作ったてるてる坊主が握られていました。

常連のお客様達、涼のお友達、学校や通っていた保育園の先生方、沢山の人が涼にお別れの挨拶をしてくれました。

たくさんの人の涙を、私はただただボーッと見ていました。

私は、一人で立ち上がる事も出来ず、誰かに言われるまで何も口にすることも無く、声を発する事もありませんでした。

沢山の花に囲まれた涼は、安らかな表情だったと思います。

火葬の時、涼は本当に居なくなったんだと実感し、息苦しくなり、そのまま気を失ってしまいました。

暫くは私の母親がそばに居てくれました。

涼一くんのご両親も今まで以上に頻繁に訪ねてきてくれました。

涼一くんには申し訳ないけれど、店はお休みしたままでした。

たまに常連のお客様が家に食べ物を持ってきてくれました。

私はそれを「有難うございます。」と受け取り、手を付けることはありませんでした。

お客様から頂いた物は全て、涼にあげました。


眠る前に飲んでいたホットミルク。

毎晩作って、毎朝冷えたミルクを静かに見つめます。


私の手を握る小さな手。

今はその温もりを感じることが出来ません。


「行ってらっしゃい。」「おかえりなさい。」

もう言う事が出来ません。


もう「ママ」と呼んでもらえません。


もうあの笑顔を見る事も、抱きしめることも出来ません。


たった七年間の思い出しかありません。

もっと沢山の思い出を作りたかったです。

どんな別れもすぐには受け入れる事は出来なかったでしょう。

それなのに、人に奪われたという理不尽な別れはそう簡単には乗り越えられる気がしません。

誰がどんな理由で涼の命を奪ったのか、犯人は今どこで何を思い過ごしているのか。

それすらも知ることが出来ないまま、時間だけが過ぎていきます。

時間が経てば経つほど悲しみや寂しさと同じ程の怒りが込み上げてきます。

私はこの怒りをどうすれば良いのでしょうか?

──────────────

涼が私の元からいなくなり三ヶ月が経った頃。

私は店を再開し、母親にも帰ってもらいました。

私が休んでいる間、代わりに母親が店に出てくれていました。

これからも手伝いに来る、と言ってくれましたが、それを断り私は一人で店に立ちました。

窓際にはてるてる坊主が吊るされたままです。

毎日来てくれるお客様達も、最初は気を遣って口数が少なかったけれど、最近では前のように沢山お話してくれるようになりました。

私は今、三ヶ月前と同じ生活をしています。

でも、それは8時から18時までのお話。


涼の死はテレビやネットで騒がれました。

死因は窒息死。

まさか、自分が息子の為にと思って持たせた鍵の紐を、息子の命を落とす為の凶器として使われるだなんて思いませんでした。

マスコミの人達が私達の大切な喫茶店の写真を撮っていました。

家の前にはカメラを持った人達が沢山いました。

ネットで「母親が怪しい」と言われ騒がれていた事は最近知りました。

犯人はまだ見つかっていません。

誰なのかも判明していません。

警察は捜査中としか言ってくれません。

涼の命を奪った犯人が、今も変わらない生活をしていると思うと、心底腹立たしく、殺意が芽生えます。


閉店後の暗い部屋の中で涼に関する情報は無いか?とネットを見ていると、Linkというアプリがオススメとして出てきました。

前から名前は知っていましたが、使おうとは思いませんでした。

ですが、今回はなんとなくLinkをインストールしてみたのです。

どんな情報でもいい、どんな些細なことでもいい、誰かが涼の命を奪った犯人を知っていないか?

私はLinkを開き情報収集しようと試みたのです。

そこで私の目に止まったのは、ある地区の話題でした。

私が暮らすこの地区からは離れた場所にある、国民ならば誰でも知っているブルータル地区です。

国から見放され、警察も介入出来ない無法地帯。と言われているのは誰でも知っていますが、それが真実なのかどうかは分からないのです。

都市伝説という人も少なくはなく、本気で信じている人がバカにされたりもします。

そんな都市伝説だと言われるブルータル地区に、私は行く事に決めました。


「ブルータルにはなんでも屋がいて、向こうが提示した額を払えば殺しでもなんでもしてくれるらしいよ。」


「そんなの嘘でしょ。流石にそんな事しているって分かっていて警察が介入しないのは意味が分からないよ。」


「あくまで噂、だけどね。」


そんなやり取りを見た私は、涼一くんと涼の写真に手を合わせ「ごめんなさい」と一言謝り、涼一くんが涼の為に、と貯めていた預金通帳と、自分が涼の為にと作った預金通帳をバッグに入れ、それと一緒に涼が作ってくれたてるてる坊主もバッグの中に入れました。


「行ってきます。」

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