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食屍鬼 -楽園-  作者: 藤岡
無償の愛
17/26

04

18時5分

家の鍵を開けると真っ暗だった。

「涼?寝ているの?」

私はスイッチを押し電気をつける。

シンと静まり返る家に不気味さを感じ、ゾワッと鳥肌が立った。

「涼?」

名前を呼んでも返事がない。

「涼…?」

私はキッチン、リビング、涼の部屋、寝室、風呂場、トイレを見たが、どこにも涼がいないのだ。

靴が無い。リュックも無い。レインコートも無い。

水筒も、帽子も無い。

「え、嘘。どこにいるの?涼?」

心臓がドクンと大きく跳ねる。

外がピカッと光り大きな音が耳に響く。


ポトッ


物音がした方を見ると、そこには涼が家用にと作ったてるてる坊主が落ちていた。

「このウインクしているてるてる坊主はママだよ。」

「えー?ママウインクなんてしないよ。」

「してみてよ!」

「え?で、できてる?」

「あはは、ママ両目瞑ってるよー!」

あの日のあの時の涼の声と顔を思い出し、私はてるてる坊主を握りしめて外に出た。


「涼!涼!!」

土砂降りの中傘もささずに名前を叫び走る私を見る人達は、誰も私に「どうしました?」なんて言葉はかけない。

私は必死に走り、涼が行きそうな場所を探した。

何度も転びそうになった。

視界が歪むのは涙のせいなのか雨のせいなのか分からなかった。

あの時お客様の言葉に甘えて確認に行けば、なんて後悔をした。

学校に確認の電話を入れればよかった、と後悔をした。

やはり鍵を渡すべきではなかった、と後悔をした。

雨音に掻き消されぬよう、大きな大きな声で名前を叫んだ。

「真奈ちゃん?」

「涼!?」

「え?……傘もささずに……涼くんに何かあったの?」

私に声を掛けてくれたのは、買い物に来ていたであろう林さんだった。

私は林さんに涼がいない事を告げると、林さんは驚いた顔をして、とにかく一度家に帰ろうと言ってくれた。

もしかしたら涼が帰ってきているかもしれない、と。

涼が行きそうな場所は一通り探した後だったので、私は林さんの車に乗せてもらい一度家に帰るとことにした。

林さんは風邪をひくから、と暖房を入れてくれた。

暖かくて、冷たかった。


林さんに付き添われ家に帰ってみたが、涼が帰ってきた形跡はなかった。

「お邪魔するわね。」と林さんは私と一緒に家に上がり、脱衣所からタオルを持ってきてくれた。

「シャワーを浴びてきた方がいいんじゃない?」

林さんは私に警察に連絡はしたか?と聞く。

私が首を横に振ると「じゃあ私から警察に連絡するわね。」と電話をかけ始めた。

私はその場に座り込む。

そんな私を見て林さんは警察に事情を説明しながら、私を優しく抱きしめてくれた。

人の温もりを感じた私は、涙が止まらなくなった。


暫くすると警察が家に来て事情聴取をされた。

普段も鍵を使い家に帰り、時々帰ったと報告をし忘れることがあったので、今日もそうだと思った、と話す。

遠足の日だったので、疲れて寝てしまったのだと思った、と。

涼が行きそうな場所は一通り見たが見つからなかった、と。

小学一年生にしてはしっかりしている子だと思うが、体力的にも行動範囲は広くなく、無断で校区外に行くような子では無い、と。

警察は「ひとまず家で待機していてください。」と告げる。

今すぐにでも探しに行きたい。

でも、帰ってきた時の事を考えると家にいてもらわないと困る。と言われ、林さんにも「私が一緒にいるから」と説得され、私は渋々家に残り、捜索は警察に任せる事にした。

窓に打付ける雨粒が、涼の涙のような気がした私はまた溢れ出す涙を止めることが出来なかった。


19時30分を過ぎた頃。

林さんが連絡を入れてくれたのか、私の両親と夫の両親が家へやってきた。

両親達は林さんに礼を言い頭を下げた。

林さんは目を赤くしながら私を再び抱きしめ「大丈夫だからね。涼くんは必ず帰ってくるからね。」と言ってくれた。

その言葉を聞き、また涙が溢れ出す。

母親が風呂を沸かしてくれた。

一度体を温めるようにと言われた。

「涼が寒い思いをしているかもしれないのに?」

私の言葉を聞いた母親は、堪え切れずに涙を流す。

私は涼が作ったてるてる坊主を見つめ、祈った。


それからどれだけの時が経ったのだろう。

雨音は静まり、シンとした部屋に水が垂れる音が響く。

深夜2時過ぎ。

私はてるてる坊主をそっとテーブルの上に置き、私が起きているからと寝てもらった両親達を起こさぬよう静かに外に出る。

きっと四人は横になっているだけで、起きていたのだろう。

眠れるわけが無いのだから。

寝たフリをして、私を送り出してくれたのだ。

もし今涼が家に帰ってきても迎えてくれる人がいるから大丈夫だろう。

私は両親達に感謝をし、涼を探す事にした。

警察から叱られるかもしれない。

それでも私は、行かなければならない。

涼が迷子になっていて何処かで私を待っているかもしれないのに、家で待ち続けるなんて事は出来ない。

夜中なので大きな声は出せない。

静かに目を凝らしながら、小さな涼を見逃さないように隅々まで探し続けた。


いつも行く公園。


近くのスーパー。


学校の周り。


通っていた保育園。


涼が好きな玩具屋さん。


駐車場を覗いて見ても、建物と建物の間を覗き込んでみても、涼の姿はどこにも無かった。


徐々に明るくなる空。

「今日は晴れるの?」

空に向けて問い掛けてみた。


「ねぇ、涼はどこにいるの?」


「ねぇ、涼はどこ?」


「ねぇ……」


「どうして…?」


「涼はどこなの…?」

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