01
梅雨の時期。
注意報が出るほどの雨が降りました。
そんな悪天候の中、私の元に天使が舞い降りました。
それと同時に死神もやってきて、私から大切な者を奪いました。
私はこの日から、雨の日が少し怖くなりました。
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「真奈さんお腹すいたよー!」
ブルータル西側飲食店内で働く女性に声をかけたのは懍だった。
「はいはい、懍ちゃんそこに座って待っててね。いつものでいい?」
「うん!」
「じゃあこれを飲んで待っててね。」
「俺あんまりミルクすきじゃなかったけど、真奈さんがいれてくれるホットミルクは落ち着くし美味しいし好きなんだよね。」
「ふふ、良かった。」
真奈は優しく微笑むと懍がいつも食べるオムライスの用意を始めた。
「お疲れさん。俺にも飯くれ。」
フーフーと冷ましながらホットミルクを飲む懍の隣に座ったレイが真奈に声を掛けた。
「お疲れ様。今起きたの?」
「そう。でもまだめっちゃ眠い。」
「もう少し寝てきたら?」
「いやこの後すぐ出なアカンねん。」
「そうなの?無理しすぎない程度に頑張ってね。」
「おー、有難う。」
レイは眠たげな表情のまま少し掠れた声で話すと、机に突っ伏し大きな欠伸をひとつ。
「レイさんおはようございます。」
懍が声をかけるとレイは顔を上げ懍の方へと視線を移した。
「おはよう。またミルク飲んでんのか?懍ちゃま。」
「もう!その呼び方ヤダって言ってるのに!」
「ははっ、分かった分かった。そう怒んなや。」
レイと懍がじゃれ合っていると次々とブルータル地区の住民が顔を出す。
この店”R”は、荒れた土地にある唯一の癒しの場なのである。
Rを経営するこの女性は元はレイの客である。
そもそもこのブルータル地区で店を持つ人間達は、全員レイの客かキョウの客しかいない。
その中でも女性というのは珍しく、最初の頃は興味本位で覗きに来る者が多かった。
レイやキョウの仲間達はもちろん、返済しにきた客や、他の頼み事で待ち時間を潰す客もこの店に顔を出すようになった。
最初は、女性という理由だけで無銭飲食をしても逃げ切れると考えた人が実践したが、それを見つけたレイが制裁を加える前に真奈が笑顔で「今回は見逃してあげて」と頼むと、レイが一回だけ目を瞑ったという噂が客の中で広まった。
自分達が恐れる存在のレイが一言だけで従ったという事は、それだけ大切に思っているのだろう。
ならば、この女性を敵に回すと良い事など1つも無い、そう考えた客は真奈に媚びを売るようになったが、それを察した上でも変わらず優しく接してくれる真奈に対して、客達も徐々にそんな理由を忘れ、真奈という存在を大切に思うようになっていった。
復讐の為にブルータルにやってきた客も
金銭に困りブルータルにやってきた客も
我を忘れるためにやってきた客も
皆、真奈の前では何故か素直になれたのだった。
いつしかこの店Rは客にとって心休まる場所となり、時には真奈に話を聞いてもらい涙を流しながら復讐依頼をせずに帰る者もいた。
「客を減らすな。」とレイに言われる事もあったが、真奈はそれでも客達に寄り添い、優しく接し続けた。
ブルータル東側の人間達からも好かれていた真奈とこの店には、たまにキョウと赤城や仲間達も顔を出していた。
ブルータルの東西の王に守られる女。と呼ばれる事に、真奈はなんとも言えない表情を見せる。
そんな真奈がこのブルータル地区にやって来たのは、つい最近の事なのだ。
あの日、あの時
ああしていれば、こうしていれば、と
何度後悔をしたのだろう。
目を閉じればまるで昨日の出来事の様に鮮明に映し出されるあの光景は、生涯私を苦しめるのでしょう。




