10
「……儲かると思ったけど半分も持っていかれんのか…。」
三上達が部屋を出るとレイはソファに横になり泣き真似をした。
「……キョウさん相手ですからね。お疲れ様です。」
「まぁええわ。……はぁ。」
颯は奥の部屋を気にしながら大きなため息をつき項垂れているレイに話しかけた。
「そういえばあの女達って……?」
「ん?あぁ、裏から帰らせた。
もう変な男に捕まらんようになーって言っといた。」
「これからもパパ活は続けるんですかね?
三上が居なくなったなら続ける必要もなさそうですけど。」
「……咲笑は続けるやろな。」
レイは呆れたように苦笑いをする。
「え、どうしてですか?」
「あれはどっぷり浸かってると思うわ。」
「浸かってる?」
「飯食って金貰うって生活に。すぐには抜け出されへんやろ。
いくら貰っても自分に少々、三上に殆ど使って貯金もないやろうし、それにあの女はSNSでチヤホヤしてくれる人間だけ集めて気持ちよく過ごしてたっぽいし……そうすぐには手放されへんやろな。
これからは全額自分の為に使えるわけやし。
……ま、解放されたとはいえ限度考えんかったら、いつかウチの客として来るかもしれんな。」
レイはケラケラ笑いながら話した。
「客になったらいいカモですね。」
「まー、その前にパパに愛されすぎんかったらええけどな。」
レイが煙草を取り出し咥えると、颯はすかさずライターを差し出した。
「愛された方が巻き上げられるんじゃないんですか?」
レイの煙草に火がついたのを確認すると颯はスッと立ち上がり後ろ手を組み真っ直ぐにレイの顔を見つめる。
「そりゃぁ金持ってるオッサンは金出す事でしか繋ぎ止められへんから必死こいてでも払うやろ。ウチの客みたいに。
でもよく考えてみぃ。金で女買ってんねんで?風俗とか店を通すんやったらまだしも……バックに誰もついてない女を。」
煙越しにレイの冷たい目を見た颯は、レイが何を言いたいのかを察してしまった。
「何かあった時に守ってくれる人がいない立場なら……最悪のパターンも有り得ますね。」
「店に所属してる女でも店内接客じゃなくて外での接客やったら、ホテルまたは家で二人きりってなった時、助けを呼んでも来るまでは自分自身で守らなアカンねん。
ま、呼べたら幸い。呼べずにそのまま……なんて事もあるやろ。
でもパパ活の場合は近くに助けてくれる人、まぁ警察になるやろうな。
警察が近くにおって直ぐに駆け付けられるかなんて分からん。常に自分自身を守ってなアカンねん。」
「パパ活の方が危険性は高いって事ですね。」
颯が頷きながら話すと、レイは呆れたように笑ってみせた。
「でもな、それを分からんとやってる女が多い。
飯だけで済むなら人の目に付く場所やから危険性も下がるやろうけど、金に目がくらんでホテルなんか行ってみ。個室に二人になるわけや。
助けはさっき言った通り、近くで待機してるわけじゃない。
それに、女を買う男ってのは……言ったら悪いけどまともでは無いやろ。どこでプツンと切れるかわからん。」
「……冷静に考えると怖いですね。よく続けますよねそんな事。」
レイは灰皿に灰を落とし、目を細めた。
「そこまで考えてへんねん。
考えたとして、”自分は大丈夫”とか思ってんちゃうか。
ま、好きにしたらええけど。引き際は肝心やし、人を見る目がないと必ず痛い目に遭う。
三上に惚れてたような女が見る目あるとは俺は思わんけどな。」
「……そう考えるとやっぱりすぐにってのが無理でもなるべく早めに抜け出せたらいいですけどね。」
これから関わることは無いと分かっていても少し心配する気持ちが芽生えてしまった颯に対して、レイはヘラっと笑う。
「……こんな世界にどっぷりのお前には言われたないんちゃう?」
「そ……うですね。はは……。」
レイの言葉を聞いた颯は苦笑いをするしかなかった。
「で、三上達って何するんですか?」
「あぁ、キョウに任せてるけど大体ペットって感じやろな。」
「ペット?奴隷みたいなものですか?」
颯が尋ねるとレイは、うーんと少し考える素振りを見せた。
「まぁ……三上らからしたら奴隷と変わらんやろうけど。世の中には色んな人がおるからな。
おっさん飼いたいとか、子供飼いたいとか、あとはまぁ体格容姿諸々含めてどんな奴でも飼いたいと思うような人がいっぱいおるわ。」
「じゃあ三上達は死ぬまでペット……って事ですか?」
世界には理解し難い人間が存在する事。
それらを相手にしている自分のボスは、まるでこの世界では当たり前かのように話している姿に颯の顔が引き攣る。
「そう。しかも奴隷と違って大事に可愛がられるから長生きする。
健康的な食事にふっかふかの布団に毎日の風呂とか。
そこらの貧困層より贅沢な生活出来るんちゃうか。」
「全然罰って感じじゃないですね。」
「そこだけ見たらな。
でもまぁ人間飼いたいって言うような人らやから……なぁ?歪んでる部分はとことん歪んでんで。俺もキョウから聞いた話しか知らんけど。」
レイは煙草の火を消し大きく伸びをした。
「性的に……とかですか?」
「なんやえらい興味津々やな。そんな引いた顔しといて。
体験してくるか?いつでもキョウに頼んだんで。」
レイがケラケラとふざけて笑うと颯は慌てた様子で早口で話し始める。
「いやいやいや、遠慮します。
俺はレイさんに忠誠を誓っているので他の人とか大丈夫です、いらないです。」
レイは目を丸くしキョトンとした顔をする。
「……ふーん?俺のペットって事?」
「ペットって響きは少し嫌ですけどまぁ変わらないかもしれないですね。」
「アホか。一緒にすんなや。そこはちゃんと否定せぇよ。」
レイは「あんな変態共と一緒にされて不快」と不満気な顔をした。
「すみません。」
「ま、とりあえず今回の件はこれで終わりかな。
後は金が入ったら皆で美味いもんでも食おか。なぁ?」
レイがそう言うと仲間達がやったやったと喜び騒ぎ始める。
そんな様子を見て「うるさい」と言いながらも、優しく微笑むレイの事が颯は好きなのであった。




