06
「では、お気を付けて。」
「有難うなァ。」
キョウはパトカーが見えなくなると気怠そうに歩き始め、賑やかな繁華街を通り過ぎ少し進むと人通りの少ない道に出た。
風が吹き転がる空き缶は、キョウに引き返せと忠告しているようであった。
「ここか?」
寂れたビルのドアを開き中に入り階段を上る。
二階に辿り着くと、「誰だお前?」と声を掛けられた。
「客だよ、客。藤山はいるかい?」
ドアの前に立つ二人の男は鉄製のバットを握りキョウを睨み付けた。
「藤山さんになんの用だ?」
「話があってねェ。」
「……お前、どこの誰だ?」
「お前らに教える必要はあるのかい?」
男達は口元を引き攣らせバットを振り翳した。
キョウは面倒くさそうに腕で止めると男の腹を蹴り、もう一人の男をジッと見つめた。
「藤山に会わせろって言ってんだよ。」
「会わせるわけねぇだろ!」
キョウの目に脅えながら向かってくる男は、キョウの頭を目掛けバットを振り下ろしたがそれは交わされ背中に痛みが走る。
「もういいや、話にならねェ。」
手からこぼれ落ち転がるバットはキョウの手に渡ってしまった。
男が立ち上がろうとした時、頭がグランと大きく揺れた。
床に顔をつけ動けない。視界が揺らぐ。
後ろの方からは「や、やめろ」と聞こえた後、鈍い音が響きカランとまたバットの転がる音がした。
キィッと音を立て開く扉。
中に入っていく足音。
そこで男の意識は途切れた。
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「騒がしいと思ったら、ブルータルの二代目じゃないですかぁ!わざわざこんな所まで……どうしました?」
「白々しいねェ。お前が藤山かい?」
扉の先には複数の男が武器を持ち構えていた。
一番奥では椅子に座りふんぞり返る男が一人。
「はい。ブルータルの王に名を呼ばれるなんて、この上ない幸せ。」
「そういうのはいいから。目的はなんだい?」
「目的?なんの事でしょう?」
藤山は惚けながら馬鹿にしたように笑った。
「ガキを拐おうとしただろォ?」
「……あの子供と王は何か関係が?」
「関係とかどうでもいいだろォよ。なんの為に連れ去ろうとしたんだい?」
「ふふっ、ふははっ、目的を話せば……叶えてくれます?」
「言ってみなァ。」
藤山は立ち上がりキョウの前に立つと、ジィっと目を覗き込んだ。
「金か命、どちらなら今すぐ渡せます?」
「誰の?」
「聞かなくても分かるでしょう?王、貴方のですよ。」
藤山とキョウは睨み合ったままだ。
「俺の命なんてもらってどうするんだい?」
「ブルータルを頂こうかと。……勿論、もう一人の王にも消えてもらわなければなりませんけど。」
「ふゥん。で、ガキを使ったって?気持ち悪いねェ、お前。」
藤山は眉をピクリと動かし拳を握った。
周りにいる男達も武器を握る手に力が入る。
「……あんた一人に何が出来るんです?一年前だって仲間がいたからこそ出来た事。今こうしてふんぞり返っていられるのも親のおかげ。」
「そんな奴にやられるような部下を従えてんじゃねェよ。もう少し教育したらどうだい?」
余裕そうな顔をして鼻で笑うキョウを見た藤山の額に血管が浮き出す。
「無駄口叩かず死んでくれりゃそれでいいんだよ。」
「そりゃァ無理な話だ。俺が死んだ後お前達はレイのところに向かうだろォし、ガキの所にも行くだろォ?
それに、お前みたいなよく分からねェ奴に、ブルータルを渡す気なんて無ェんだよ。」
「……やれ。」
藤山が指で合図をすると、今か今かと構えていた男達が一斉にキョウに飛び掛った。
藤山はギリギリと歯を鳴らし椅子に座った時、ピリリと着信音が響いた。
「今忙しい。後でかける。」
電話に出た藤山の声は苛立っていた。
「あぁ、そうなん?ほんならまた後でかけるわ。」
電話相手の声を聞いた藤山は目を大きくした。
「……あんた、もしかして……ブルータルのレイ?」
「え、電話越しで分かるん?照れるわ。」
「美雪をどうした!?手ぇ出してたらタダじゃ済まさねぇぞ!!」
「……俺は詳しい話は知らんけど、先に手ぇ出したんお前ちゃうんか?」
藤山はキョウに襲いかかる男達を引き剥がし、口の端から血を流しニヤけるキョウの胸ぐらを掴み立ち上がらせた。
「これがブルータルの王のやり方か!?」
「はっはは、はははっ。そう怒るなよ。」
「ふざけるな!!」
藤山がキョウの頬を殴ると、キョウは楽しげに声を上げた。
「俺を殺すってんならよォ、それなりの覚悟はしねェとなァ?」
「あぁ!?」
「……最近産まれたばかりなんだっけ?娘。可愛いかい?」
藤山はキョウから手を放し電話を耳にあてると、女性の悲鳴と赤子の泣き声が鼓膜を揺らした。
「卑怯者め……」
「どっちがだよ。お前がくだらねェ事さえしなけりゃァこんな事にはなってなかった。恨むならテメェを恨めよ。」
「キョウ!!!!!」
藤山は電話を放り投げるとキョウを押し倒し殴り付けた。
困惑していた男達は藤山に声援を送るが、どれだけ殴られようと口元が緩んだままのキョウに対し、今まで感じたことの無い恐怖心を覚えた。
「はぁっ……はぁっ……あんた、なんなんだよ。」
口から血を流し目を腫らしながら笑い続けるキョウは、藤山に勝利を見せる気はない。
「ブルータルの人間。よく知ってんだろォ?」
「……おい、車を出せ。美雪の所に行く。」
藤山が声を掛けると男達が一斉に動き始める。
「その必要は無ェ。」
ゆらりと立ち上がったキョウは外を指さした。
「早く会いたいだろォと思って、連れて来ている。下に行きゃァ会えるよ。」
「なっ……」
藤山が窓から外を覗くと、確かに下には車が停まっている。
「どういうつもりだ?」
「あ?ただの優しさだろォ、優しさ。」
藤山はキョウを睨み付けると、「縛って見張っておけ!」と男たちに告げ外に飛び出した。
男達は恐る恐るキョウに近付くが、プッと血を吐き出し顔を上げたキョウと目が合うとその場から動けなくなった。




