01
「ここでやめときましょうよ。」
「なんでだよ。ここまで来たんだからもう少し奥まで行こうぜ。」
ルンルンとした様子で進んでいく右京と、怯え周りを警戒しながら右京の後を追う山野目は、ブルータル地区の中にいた。
不気味なほど静かで空気が重苦しい道を進んだ二人は、まるで別世界のように騒がしい場所に出た。
右京は、「おー!」と目を輝かせ、山野目は眉を顰め右京の背にピタリとくっついた。
「見ろよ、馬鹿みてぇに騒いで踊ってやがる。」
「ちょっと、指ささないでくださいよ!絡まれますって!」
はしゃぐ右京と焦る山野目を見ていた数人の男は、ニタリと口角を上げ二人の背後に忍び寄った。
「にしても、こんなに騒がしいのにどうして向こうまで聞こえねぇ?なんか細工でもしてんのかぁ?」
「そんなの知りませんよ!さ、もう帰りましょう右京さん。」
「えー、でもまだ先に建物が並んでるしなぁ。」
「ここは遊園地じゃないんすよ!興味示さないでください!」
「遊園地みたいなものだと思うよ。」
背後から聞こえた声に右京はゆっくりと振り返り、山野目は右京に抱きついた。
「あぁ、そう?楽しい?ここ。」
先程まで無邪気な子供のようにはしゃいでいたとは考え難い冷たい声。
ニタリと口角を上げていた男達は目を大きくして背筋を伸ばした。
「なんで急に喋らねぇ?勝手に話しかけてきたくせに……なぁ?」
右京が山野目に問い掛けると、「そんなのどうでもいいから早く帰りましょう!」と泣きついた。
「なぁにがそんな怖いんだよ。」
「怖いでしょ!ブルータルっすよ!?ブルータル!!」
「はいはい。じゃあまた今度でいいや。帰ろっか。……で、まだなんか用があるわけ?ずっと突っ立ってるけど。」
男達は黙ったまま首を横に振り、塞いでいた道を開けた。
「右京さん!早く!早く帰りましょう!」
「分かった分かった。うるせぇなぁ。」
山野目が右京の服を引っ張り、早く早くと急かすと、右京は山野目の手を叩き元来た道を歩き始めた。
「にしても、あいつらなんだったんだぁ?」
賑やかな音は徐々に小さくなっていき、外の光が微かに見えた。
「カモれると思われたんすかね?」
「そう思われたなら絶対山野目のせいだろ。」
「それは否定出来ないっす。すみません。」
しょぼんと落ち込む山野目の背中に、パチンと大きな音と共に痛みが走った。
「っってぇ!何するんすか!」
「そんなしょぼくれた顔すんなよ。うぜぇから。」
「う!?……でも、はい、すみません。」
右京はふざけた口調で話してはいるが、どこか不服そうな顔をしている。
山野目はその顔の理由が分かっていたので謝ることしか出来ずにいた。
「はぁ、でもまぁ折角ここまで来たんだし、何か美味いもんでも食って帰ろぉぜ。」
「はい!ヴァイス地区でいいっすか?」
「どこでもいいよ。肉がいい。」
「了解っす!」
山野目はスマートフォンを取り出し肉料理の店を検索しながら歩く。
何軒かピックアップし右京に確認を取ろうとした時、ドンッと右京の背にぶつかった。
「いてて、すみません。」
謝り顔を上げると、右京はその場で立ち止まったまま返事をしなかった。
「右京さん?どうしたんすか?」
山野目は不思議に思いながら前を覗き込むと、ヒッと小さな声を出しまた右京の後ろに隠れた。
「なんだ?お前。」
右京の声はまた冷たく感じた。
「……右京壱縷か?」
「だったら何?」
「何をしに来た?」
「遊びに来たんだよ。でも、もう帰るし通してくんない?」
「……。」
山野目が恐る恐る右京の後ろから顔を出すと、出入口前に立つ赤城が電話をかけているところだった。
「おい、人の事無視して電話なんかしてんじゃねぇよ。」
「……もしもし。お疲れ様です。お伝えしたいことがあります。」
赤城はまるでこの場に自分以外は誰もいないかのような落ち着いた声で話し始めた。
「なんだこいつ。」
「う、右京さん、この人ってもしかして東の王の右腕って言われてる赤城さんじゃないっすか?」
「あ?知らねぇよ。……なんかやけに詳しいな。」
「自分ブルータルに興味を持った時期があって。まぁそのせいで色々知って怖くなっちゃったんすけど。」
「なるほどねぇ。まぁそもそも裏社会に関わる人間ならブルータルの事は知ってなきゃいけないって言うし、俺が世間知らず過ぎるのかもなぁ?」
冷たい声は明るさを取り戻したが、それでも警戒は解いていない。
赤城は電話を切ると、「ついてこい。」とだけ言い残しスタスタと歩き出す。
「は?なんの説明も無しについてこいだぁ?何様だテメェ!」
「ちょっと右京さん!!」
苛立ちを隠せない右京が怒鳴ると赤城が立ち止まり、山野目は顔を真っ青にさせ右京を宥めた。
「……いいから来い。ブルータルに入った以上、王の言うことは聞いてもらう。」
「お、王って……ブルータルの王……?やばいっすよ右京さん!殺されますって!」
「殺しはしない。ただ、話したいと言っている。」
赤城はまたスタスタと歩き始めた。
「話してぇ?……ちなみに、それを言ってきた王ってのはどっちだい?」
赤城は耳をピクっと動かし振り返る。
「……東だ。」
「あぁ、そう。分かったよ。行けばいいんだろ、行けば。俺も話してぇと思ってたから丁度いいや。」
右京が歩き始めると赤城は背を向け進んでいく。
「東の王……キョウさんの方か。……って、ちょっと!右京さん!待ってくださいよ!!」
右京の背中が小さくなっていることに気付いた山野目は慌てて走って追いかけた。




