09
「待っとったでぇ。」
サキと男達は椅子に座り煙草を吸うレイの前に正座をさせられた。
「単刀直入に聞くけど、お前がこの女使ってここにおっさんら送り込んでたんか?」
「俺はそんなことしてねぇよ。」
「ほーん?じゃあコレはなんや?」
レイは男に一枚の紙を見せる。
「多重債務で首が回らんお前が定期的に大金を用意して返済と豪遊を繰り返し過ごしている。
この大金はそこの女と他の女複数から貰った金やろ?」
「……他の女って何……?」
「お前は黙ってろ!」
男がサキに向かって怒鳴るとサキは体を震わせ下を向く。
「まぁ落ち着けや。
……で、お前は自分の女達にパパ活相手を探させてその相手に用意をさせる。
元から金があまりない奴には最初からウチを、元々金があった奴らの首が回らんくなり始めたらそこでウチの名前をチラつかせてた。……ちゃうか?」
「確かに俺はコイツらに金が足りないから用意してくれとは言った。
でも、コイツらがパパ活で集めた金だと思っていた。
ここを紹介なんてしてねぇ。」
「へぇ?そうなん?
じゃあ俺の勘違いかぁ、すまんすまん。
ほなもう帰ろか。」
あまりにも簡単に帰る事が許された男はニヤリと笑う。
だが、男は突き刺さるかのような冷たい視線に気付き口角がゆっくりと下がっていく。
「ごめんなぁ、勘違いでこんな所に呼び出して。
……女だけ置いてお前らは帰ってええで。」
レイはそう言うと煙草を灰皿に押し付けゆっくりと立ち上がる。
「サキちゃん……いや、咲笑ちゃんは俺と向こうに行こっか。」
レイは咲笑の前に立つと髪を掴み上に引っぱり上げ立たせる。
「痛い!痛い!!」と叫ぶ咲笑の口を手で押さえ付け、レイは顔を寄せると「静かにせぇ」と真っ直ぐ目を見て言った。
咲笑は涙を零しながら男の方を見るが、男は咲笑から目を逸らした。
レイに引っ張られ部屋の奥へと連れて行かれる咲笑は、叫ぶことをやめ男をジッと見つめたまま姿を消した。
「……よ、よし。じゃあ送ってくれよ。」
男は立ち上がり颯に声を掛けるが、颯は黙ったままレイが向かった部屋の方を見つめていた。
他の男達も立ち上がり「早く帰せ!」と怒鳴るものの、誰一人として男達に返事をしなかった。
そんな颯達の態度に腹を立てた男は、颯の胸ぐらを掴み睨み付けた。
「あんたん所のボスが帰っていいって言ったんだ。早く送れよ。あと俺達にちゃんと謝罪しろよ。」
男が声を荒らげ颯の頬に男の唾が飛んだ。
颯はそれを服の裾で拭い、黙ったままでいた。
「なんだぁ?お前らもしかしてびびっちゃってんのか?」
男がそう言い笑うと、他の男達も一緒に笑い始める。
それでも颯達は男達に応じず黙ったままでいるので、男は痺れを切らし、颯に向けて拳を振り上げた。
「レイはいるかい?」
突然聞こえた他とはまた違った圧を放つ声に反応した男は、拳を振り上げたままピタリと止まり、声がする方へ視線を向ける。
「あ?何をしてるんだい?」
声の主が部屋の中に入ると、颯は自分の胸ぐらを掴んでいる男の手を簡単に振り解き、声の主に対して深く頭を下げた。
「お疲れ様です、キョウさん。」
「お疲れ様です!」
その場にいた颯と仲間達が一斉に頭を下げ挨拶をすると、突っ立っている男達だけが目立ちキョウと目が合った。
「……あァ、コイツらが例のやつかい?」
「はい。」
颯が頭を上げるとキョウは「そうかいそうかい」と先程レイが座っていた椅子に腰をかけ煙草を取り出す。
「失礼。」
後から体格の良い男が部屋に入ってくるとすぐにキョウの隣に向かい、煙草に火をつける。
「ありがとねェ、赤城ィ。……で、レイはどこにいるんだい?」
「奥の部屋に。」
「あァ。女かァ?」
「はい。」
「へェ。レイも大変だねェ。」
煙を吐き出しながら上を向き、首を捻り音を鳴らすキョウ。
「で、コイツらは予定通りにやるのかい?」
「お願いします。」
「……五人かァ。」
キョウは男達の顔を見ながら面倒くさそうな表情を見せる。
「ちょ、俺達はさっきの奴に帰っていいって言われてんだよ!
相手するって意味が分からねぇよ!早く帰らせろよ!!」
男が騒ぎ始めると他の男達も騒ぎ出す。
「少し静かに出来ねェか?」
キョウがそう言うと男達は口を閉じ、拳を握る。
「……お前らがレイに素直に話してりゃァ俺の所に来る事は無かった……かもしれねェのになァ。」
キョウが立ち上がり男の前に立つと、キョウの斜め後ろに赤城が立つ。
「三上 圭吾、お前は本当に何もしていないのかい?」
三上は真っ直ぐ目を見て問い掛けるキョウから目を逸らせ無かった。
「お、結局ここで落ち合ったんか。外の方が都合ええかと思ってんけど。」
奥の部屋から顔を出したレイはキョウを見つけるとニコニコと笑う。
「女の相手は終わったのかい?」
「あー、ちょっと泣かしてもーたけどなんとか。」
「へェ。で、どうする?」
「……いくら?」
「そうだねェ、五人ともなると捌くのが面倒だからねェ。」
レイとキョウの会話を聞いていた三上とその仲間達の顔が青ざめていく。
「言い値で払うわ。ほんまコイツらしょーもないわ。」
「結局言ってた通りだったって事かい?」
「そうそう。きっちり回収させてもらわんとたまらんで。」
「はっは、じゃァ回収額の半分でいいよ。」
「半分?ほんまに言ってる?」
「俺がレイに嘘を言ったことがあるかい?」
「……あ──」
「無いねェ?」
レイは、”ある”と嘘を言おうとしたがそれはキョウに遮られ通用しなかった。
「取りすぎちゃう?」
「じゃァ辞めるかい?」
「……もー、ほんならそれでええわ。」
「まいどあり。赤城ィ、連絡入れなァ。」
赤城がスマートフォンを取り出しどこかに電話をかけ始める。
「あ、あの俺達どうなっちゃうんですか?」
先程とはまるで別人かのような口調で話す三上の質問にレイが笑顔で答える。
「お前さっき俺に嘘ついたやろ?
奥の部屋にお前の女全員おったんやけど、全員が口揃えてお前の指示って言ってるわ。」
「そ、そんなの女達が勝手に言ってるだけで……。」
「ちゃーんとお前からの指示内容が書かれたメッセージ文も見せてもらったし?
それにお前が金借りてる所全社から俺が債権を買取った。お前は俺に返済せなアカンねん。」
「返済は必ずします。だからその、捌くとかって言うのは…。」
三上はおどおどした様子でレイの顔色を伺いながら話していた。
「あ?女の力でしか金稼ぎ出来ひんねやろ?
だからちゃんとお前自身で稼げるように俺らがサポートしたるって話やんけ。悪い意味で捉えんなや、なぁ?」
「でも五人って…。」
「そりゃぁお前ここに飛ばしてた仲間も連帯責任やろ。
それにソイツらのせいで俺の大事な大事なお客様が怪我して返済出来んかったし、その分もキッチリお前らから返してもらわんとな。」
レイの言葉を聞いた三上の仲間達はまた騒ぎ立てるが、レイとキョウに睨みつけられ下を向く。
「大丈夫、ちゃーんと主人の言う事さえ聞いてりゃすぐに終わるから。」
「あの、俺らって一体何をされるんですか?
もしかして臓器売買とか…?」
「はっはは、アホか。
……誰がそんな一瞬で済ませると思ってんねん。」
レイの顔から笑顔が消える。
「ブルータルで借金させても追われるのは借りたオッサンだけ?
自分と女が関わってるなんてバレないから大丈夫?
……何が大丈夫やったん?」
「………。」
「お前らのせいで返済が滞る、その結果人間関係洗われて女達の正体がバレる。その流れで辿り着くのはお前。
ほんまに俺らから逃げ切れると思ってたんか?」
「……すみません。」
三上は謝ることしか出来なかった。
他に言いたいことがあったとしても、それを発言した時点でその後何も言えなくなるほどに攻撃されることが分かっているからだ。
「調子乗るんやったら向こう側だけにしとけや。こっち側で調子乗るんやったら殺される覚悟でせぇよ。」
「ほ、本当にすみませんでした。」
三上は慌ててレイに土下座をし許しを乞う。
「キョウさん、全員分用意出来ました。」
赤城の言葉を耳にした三上が目に涙を浮かべ始めると、キョウが三上の肩を叩く。
「謝っても金が作れるわけじゃねェ。
お前はレイに借金があってそれを返さなくちゃならねェ。
お前がどれだけ足掻こうがすぐには用意できない額をお前達が奉仕する条件で全額一括で払ってくれる人がいる。
もうお前らはその人達、自分の主人になる人に人生を捧げるしか道は残ってねェんだよ。」
キョウが立ち上がりそのまま部屋を後にすると、三上達は赤城に部屋を出てキョウについて行くように言われる。
三上と仲間達は諦めの表情を見せ大人しくそれに従い部屋を出た。




