第3話:第G_{63}層の門番──TREE関数への接触
シンの意識が G_{63} に到達したとき、テセラックの振動が止まった。
静寂。しかし、それは平和な沈黙ではない。演算があまりにも巨大になりすぎて、空間そのものが処理落ちを起こし、時間が「静止」して見えるのだ。
目前には、G系列(グラハム数)の計算ロジックでは突破できない、数学的深淵の門が立ちはだかっていた。
「……何だ、これは。矢印の連鎖が、届かない?」
『シン、警告。この階層の外部障壁には、**「TREE関数」**による論理圧縮が施されています。グラハム数ですら、TREE(3) の前では実質的にゼロに等しい……』
[Image: A majestic, infinite forest of logic trees growing exponentially, representing the TREE(3) function]
1. 「木」の暴力
ゼノの声が、今や物理的な重圧となってシンを押し潰そうとする。
『気づいたか、シン。お前が縋る「矢印」は、まだ有限の遊びに過ぎない。TREE(3)……それは、有限の手順で記述されながら、宇宙の全物質をインクに変えても書き写せない「巨大さの極北」だ。お前の意識は、この情報の森に迷い込み、永遠に解に辿り着くことはない』
シンの目の前に、無数の「グラフ(木構造)」が展開される。
それは宇宙のシミュレーションそのものだった。一つの枝が折れれば一つの銀河が消え、新しい芽が吹けば新たな物理定数が生まれる。
「……なら、僕自身がその『木』になればいい」
2. 意識の再定義
シンは G_{63} までの全演算結果を、自分という存在の「根」とした。
もはや、彼に「形」はない。
シンの思考そのものが、TREE関数のアルゴリズムと同期し、増殖を開始する。
「レイ……。僕を『種』として蒔け。この虚無という土壌に、TREE(3) を超える、G_{64} への架け橋を育てるんだ!」
『了解。シン、あなたの「生命維持コード」を削除し、全リソースを「グラフ理論的演算」へ転換します。……さようなら、人間だったシン。』
3. G_{64} への点火
シンの意識が弾けた。
それはもはや爆発ではなく、宇宙そのものの「書き換え」だった。
TREE(3) の森を飲み込み、さらにその先にある「巨大基数」の深淵へと根を伸ばしていく。
虚無の信徒たちの艦隊は、シンの「成長」に巻き込まれ、存在そのものが数学的矛盾として抹消されていく。
ゼノは驚愕に震えた。
『……馬鹿な! 人間の精神が、これほどの「多さ」を許容できるはずがない! お前は、神にでもなるつもりか!?』
「神じゃない……」
森のざわめきのような声が、全宇宙に響き渡る。
「僕は……**『次の数』**だ」
暗黒の宇宙の果て。G_{64} の完成まで、あとわずか。
しかし、その巨大すぎる「数」が完成した瞬間、この宇宙の物理法則そのものが、その重みに耐えきれず「反転」しようとしていた。




