プロローグ
────最近、神社に人魂が出るらしい。
そう友人に誘われ、そいつと俺の二人で件の神社に行くことになってしまった。
そして俺は今、境内へと続いている石造りの階段前に堂々と聳え立つ鳥居の柱にたったひとりでもたれ掛かっている。天を見上げると皐月の空はとっくに暗くなっていた。その夜空の黒色を眺めていると俺は、つい感慨にふけってしまう。だからだろうか、自分の中で決めていた日課の約束事を断腸の思いで一時、反故にしたことを思い出した。その流れで連想ゲームのように近頃うまくいっていなかった幼馴染みの顔が脳裏に白みがかって浮かんできた。
染まる色は赤。背中に刺さるは西へと消える太陽の熱線。レールの繋ぎ目を通過する音。誰もいない電車内。横並びで座っている二人。足元のしなだれるかのような小柄な影とは対照的にそっぽを向いているアイツの顔。重苦しい空気。流れていく時間と景色。
…………まずい。
非常にまずい。
何か別のことを考えないと駄目だ。
そうしなければ元来ネガティブな自分がなおのこと落ち込み、暗く沈んでしまう。そう思い、俺は思考を切り替えようと薄ぼんやりとしていた視界の焦点を頭を軽く振り、重ね合わせて、ふと、
────あの野郎、トイレ長すぎだろ。
先ほど便所を目指して走り去った連れの後ろ姿を思い出した。そこで俺は今の時間を確認しようと、制服のポケットからスマホを取り出す。すると液晶画面には7:32と時刻が表示された。しょうがねぇなと呆れて、連れが戻るのを待ち始めてから、かれこれ三十分も経過していた。
「全然、戻って来ねぇ……」
俺は溜め息混じりの独り言を呟き、先に境内へと石段を上がるか、まだこの場所で待つか、いっそのこと帰ろうかと思い悩むが、ここまで来たらやっぱり噂になっている人魂のことがどうしても気になるということで先に境内に上がって、そこで連れを待つことにしようと決めた。
手すりがあるとはいえ石段はやけに長くて傾斜がきつく、帰りたい気持ちがたちまちに強まる。それでもなんとか段を踏み上がっていくと二基目の鳥居が姿を段階的に現し、それを見て俺はやっとこの苦しみが終わるのかと気が楽になった。最後の段を踏み、一呼吸置いてから信号機の高さぐらいはあろうかという鳥居をくぐると境内の全体が姿を現した。右から左へ目を動かすと明かりがないためか境内はかなり暗く、辛うじて木々のシルエットと拝殿の形がうっすらと認識できる程度だった。正直に言ってしまえば、かなり不気味な景観だ。そんな闇の森に潜む怪物が空を呑み込むかのようにゆらゆら揺れ動く空間に、
光。
何らかの青白い光が動いたかのように見えた。
まさか人魂じゃないだろうなと思い、暗い境内の奥、さざめく木々の下、光が消えたと思しき参道外れの左隅に細め凝らした目を向ければ、そこには、長髪の女性の姿をした人影らしきものが茫漠とあり、そして、
鮮烈な二度目の光。
今度こそ確実に光源をこの目に捉えたと思ったのも束の間、閃光によって人影の姿がくっきりと顕わになり、その光が当たる横面を見て驚愕してしまった。
俺はその綺麗な横顔を知っている。
それは、昨日、転入してきたはずの、
クラスメートのものだった───────────────────。




