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『異世界チートで現代ダンジョンを攻略し、宇宙空母を建造します』~規格外のソロ探索者トールと、ギルドの氷の女王ルナの熱狂的な愛~  作者: トール
一章 聖女覚醒と禁断の誓約:氷の女王、愛の熱狂へ堕ちる

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渋谷代々木ダンジョン:オーク師範とニセ銀の杖

 五階層:オーク(下級)との、最初の格闘

 いよいよ、Fランク探索者が許可されている最終地点、五階層。ここでのお相手はオーク(下級)だ。ゴブリンより強く、より大きな棍棒や斧を使うが、まだ単独でなら十分に倒せるレベル。


 俺は身構えた。オークは、今までの雑魚とは格が違う。


 通路の奥から、体高二メートル近い、緑色の巨体がノシノシと現れた。手に持った石斧は、俺の背丈ほどもある。


「グオオオッ!」


 オークは巨体に似合わず素早い動きで石斧を振り下ろしてきた。


(避けて、懐に潜り込む!)


 俺は、スタッフを頭上に掲げ、ギリギリのところで石斧を防御する。ガキィィン!という、耳をつんざくような金属音が響き渡った。


(くっ、重い! 中古のバトルスーツの肘関節が、悲鳴を上げている!)


 しかし、俺は負けない。力の衝撃を逃がし、「受け流し」に切り替えると同時に、オークの腹部に渾身の力でスタッフを突き刺した。もちろん、電流付きだ。


 バチバチッ!


 オークは電気と打撃の二重の衝撃に怯み、石斧を取り落とした。その瞬間、俺は配信で見た「トドメの近接戦闘術」を思い出す。


 俺はスタッフを放り投げ、オークの巨体に飛びついた。


「うおおお! スタイリッシュ・ヘッドロック!」


 俺は、オークの分厚い首に腕を巻きつけ、全体重をかけて締め上げる。異世界の能力で培った身体操作が、俺の体重以上の梃子の力を生み出した。


 オークは唸り声をあげ、次第にその動きが鈍くなる。俺は、「これ、俺が中学校で習った柔道の技じゃね?」と一瞬冷静になるが、構わず締め続けた。


 そして、バタッという鈍い音と共に、オークは崩れ落ちた。


 俺は、荒い息を吐きながら、オークの背中から飛び降りた。中古のバトルスーツは、汗とオークの体液でベトベトだった。


「ふぅ……スタイリッシュ・グラップリング……ってことで、いいよな?」


 俺は倒れたオークを見下ろし、達成感に満たされた顔で、静かにスタッフを拾い上げた。Fランク探索者の限界、五階層踏破。


 俺は、ドロップ品の魔石を回収しながら、心の中でガッツポーズをした。


(俺、やったぞ! 明日には、あの氷のお姉さまも俺を認めざるを得ない!)


 俺は、汚れたバトルスーツは気にせず、誇らしげな笑みを浮かべて、地上への帰還ゲートを目指すのだった。


 帰還ゲートをくぐり、佐藤 トールは、湿気を含んだダンジョンの冷たい空気が流れ込む、渋谷代々木ダンジョン入り口へと戻ってきた。IDプレートを改札機のようなゲートに再認証する直前、俺は静かに立ち止まる。


 汚れたバトルスーツは、二階層のスライムの粘液と、三階層のコボルトの体毛、そして五階層のオークの体液でまだらに濡れていた。先ほどまでの冒険は、憧れの「スタイリッシュな討伐」とは程遠い、泥臭い戦いの連続だった。しかし、俺の瞳には、疲労の影よりも、研ぎ澄まされた集中力が宿っていた。


 俺は、深く、ゆっくりと呼吸を繰り返す。


(一階層のゴブリンは、動きの基礎を確認するのに最適だった。二階層のスライムは、単なる打撃では通用しないという現実を突きつけた。三階層のコボルトは、集団戦における間合いの取り方を教えてくれた。四階層の巨大ネズミは、魔物を追い込む際の体力配分を試す対象だった。そして、五階層のオーク……)


 五階層のオーク戦。あれは、異世界で培った身体操作能力がなければ、確実に敗北していた。俺は、自分の能力の「真の限界」を、まだ引き出せていないことを理解していた。あの泥臭い格闘戦ではなく、配信で見た女性冒険者のように、無駄のない、芸術的な一撃で決める力を、俺は求めていた。


 右手に握る黒いカーボンナノチューブ複合材のスタッフが、手のひらに汗で張り付く。これはただの棒ではない。俺の能力を増幅し、俺の意志を体現する、唯一の相棒だ。


 俺は、初潜入での地味さや、コミカルな失敗の記憶を、意識の片隅へと押しやる。今、俺の思考を支配しているのは、ただ一つ。


「より速く。より正確に。より深く」


 Fランク探索者に許された五階層は、俺にとって、ただの通過点だ。この現世での生活基盤を築くため、そして、真の探索者としての「力」を手に入れるため、俺は躊躇なく一歩を踏み出す必要があった。


 俺は、胸の中に高まる熱い衝動を、冷たい意志で制御しながら、静かに独り言をつぶやいた。


「さぁて、二周目開始だ」


 それは、遊びではない。夢を叶えるための、孤独な修練の始まりを告げる宣言だった。


 俺は、IDプレートを帰還ゲートに、ではなく、ダンジョン潜入ゲートに認証させた。


「佐藤 トール様。ようこそ、一階層へ。お気をつけて」


 無機質な合成音声が響き渡る中、俺はわずかに傾倒した身体を正し、迷いなく通路の奥へと消えていった。俺の背中は、もはや昨日まで中学校の制服を着ていた少年のものではなかった。それは、静かな殺意を内に秘めた、一人の探索者のものだった。


 三周目の五階層のオーク戦を終えた時だったろうか、あるいは、五階層で採取した薬草の数量が一定数に達したのだろうか、


「佐藤 トール様。探索者ランクがEランクにあがりました。」


 無機質な合成音声が響き渡った。IDプレートに実績が記録され、一定の条件を満たすと探索者ギルドのカウンターで自動的にランクアップが認められる仕組みのようだ。


 俺は、誇らしげな笑みを浮かべて、自分の体力について振り返る。


「まだ大丈夫だな。よし行こう!」


 俺は、相棒のバトルスタッフを握り直し、六階層へと降りていく。


 六階層:オーク(上級)と、予想外のジェントルマンシップ

 六階層は、五階層よりも通路が広く、空気も重い。ここで待ち受けるのは、オーク(上級)だ。初級よりも強力で、集団を率いるリーダー格として登場することもある。


 俺が遭遇したのは、一人で通路を徘徊する巨大なオークだった。その体躯は、五階層の個体よりも一回り大きく、手に持ったメイスはまるで鉄骨のようだ。


 俺は、前回オークを「スタイリッシュ・ヘッドロック」で仕留めた経験から、今回も近接戦闘を仕掛けるつもりでいた。しかし、そのオークは違った。


「グガッ……! 挑戦者か。フム、貴様は……装備が、くたびれているな」


 オークは、まさかの流暢さ(ただし、声は野太い)で俺に話しかけてきた。


「え、喋った!?」


「フン。ここは六階層。下級の我らとは違う。さて、挑戦者。貴様が持つその細い棒で、このメイスを受け止められるか?」


 オークは、まるで格闘技の師範のようにメイスを静かに構えた。俺は、その予想外のジェントルマンシップに戸惑いながらも、スタッフを構え直す。


「ふ、ふざけるな! 俺のこのスタッフは、高性能カーボンナノチューブ複合材だ!」


 戦闘は、完全に一対一の棒術勝負となった。俺は、オークの重い攻撃を最小限の動きで受け流し、電気を流したスタッフで関節の隙間を正確に突いていく。スタイリッシュ・ツボ攻撃だ。


 数分後、オークは呻き声をあげ、メイスを手放して膝をついた。


「見事……しかし、貴様、防御をほとんど捨てているな。もっとガードを意識しないと、上層では通用せんぞ」


「あ、ありがとうございます……?」


 俺は、魔石を回収しながら、敵から説教を受けるという異色の体験に戸惑う。六階層は、強くなるための指導をしてくれる、意外と親切な階層だった。


 七階層:オーガとの「壁ドン」戦法

 七階層は、通路がさらに広がり、巨大な人型モンスター、オーガが登場する。単体でかなりの力を持つ、パワフルな強敵だ。


「デカい……!」


 俺が出会ったオーガは、身長が三メートルを超え、鈍器を振り回していた。その攻撃は一撃で通路の壁をひび割れさせるほどの破壊力だ。まともに受けるのは絶対に避けなければならない。


 俺は、オーガの鈍重さに目をつけた。


(スピードで圧倒するしかない! そして、スタイリッシュさを追求するなら……)


 俺は、オーガの振り下ろす鈍器を最小限のステップでかわし、その巨大な体に接近。そして、スタッフの先端を壁に固定すると、その反動を利用して、自分の体をオーガの側面に高速で叩きつけるように移動させた。


 オーガは、自分の体が突然、壁と俺という二つの硬い物体に挟まれたことに混乱する。


「うおおお! これがスタイリッシュ・壁ドン!」


 俺は、オークから学んだ「防御を意識した一撃」を、オーガの首筋にめり込ませた。電気と衝撃が、オーガの巨体を痙攣させる。オーガは、そのまま壁に頭を打ちつけ、静かに崩れ落ちた。


 俺は、息切れしながらも、「壁ドンで仕留める探索者」という新たな称号を内心で獲得し、満足げに次へと進んだ。


 八階層:不死者系との、戦術的ジレンマ

 八階層からは、スケルトンやゾンビといった不死者系のモンスターが出現した。物理攻撃や魔法が効きにくかったり、病気を付与したりする能力を持つ、厄介な連中だ。


「うわ、ゾンビ、臭い! コボルトどころじゃない!」


 俺は、悪臭と、ゆらゆらと近づいてくるゾンビに顔をしかめた。物理攻撃が効きにくいということは、俺の「放電棒」能力が主なダメージソースになるということだ。


 俺は、ゾンビの集団を前に、スタッフをまるで指揮棒のように振り回し始めた。


(ゾンビは電気を通しやすい。だが、倒してもすぐに立ち上がってくる!)


 俺は、一本のスタッフから複数のゾンビに連鎖放電を起こし、動きを止めさせた。だが、彼らが完全に沈黙するまでには、かなりのエネルギーを消費する。


「くそっ、不滅系は、スタイリッシュじゃない! 地味な消耗戦だ!」


 俺は、ひたすらゾンビとスケルトンに雷撃を浴びせ続け、なんとか階層を突破した。この階層の戦いは、俺にとって「チート能力にも限界がある」という、苦い教訓となった。


 九階層:ウェアウルフと、銀のアイデア

 九階層は、さらに薄暗く、獣の気配が濃密だった。ウェアウルフ、獣化する素早い人型モンスターが待ち受ける。ガイドブックによれば、銀の武器が弱点とされることが多い。


 俺は、自分のバトルスタッフの材質を思い出した。カーボンナノチューブ複合材だ。銀は使われていない。


「やべぇ、弱点属性がない!」


 素早いウェアウルフは、まるで忍者のように壁を蹴り、俺に襲いかかってきた。その爪は、一撃でバトルスーツを切り裂く威力がある。


 俺は、回避に専念しながら、ふと、自分のIDプレートが金属製であることに気づいた。


(IDプレートは、確か、ごく微量の銀合金が使われているはず……!)


 俺は、瞬時の判断で、IDプレートをスタッフの先端に強引に固定した。スタイリッシュさとは無縁の、緊急応急処置だ。


「見てろよ、スタイリッシュ・ニセ銀の杖!」


 俺は、ウェアウルフの突進に合わせてスタッフを突き出した。スタッフの先端、つまりIDプレートがウェアウルフの胸を掠める。


「ギャン!」


 ウェアウルフは、激しい苦痛に顔を歪ませ、動きが鈍った。銀の微弱な効果が、俺の攻撃を助けたのだ。その隙に俺はスタッフに最大出力の電流を流し込み、ウェアウルフを一気にノックアウトした。


 俺は、ぐにゃりと曲がったIDプレートをスタッフから外し、心の中で叫んだ。「IDプレートを武器にする探索者なんて、俺以外にいるかよ!」




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