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『異世界チートで現代ダンジョンを攻略し、宇宙空母を建造します』~規格外のソロ探索者トールと、ギルドの氷の女王ルナの熱狂的な愛~  作者: トール
一章 聖女覚醒と禁断の誓約:氷の女王、愛の熱狂へ堕ちる

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ソロ探索者デビュー、地味すぎる初勝利

「さあ、いこうか……一階層だけど!」


 俺、佐藤 トールは、自分の心臓が胸のポケットで暴れているのを感じながら、独り言をつぶやいた 。


 場所は、渋谷の探索者ギルドの近隣にあるダンジョンの一つ、『渋谷代々木ダンジョン』 。ここは初心者探索者の俺が入れる唯一の場所だ 。もう一つの『渋谷上級ダンジョン』は、精神系、状態異常系の魔物が多く、装備がなければかなり厳しいらしい 。


 昨日の配信で見た、あの女性冒険者のスタイリッシュさには遠く及ばない 。彼女はツヤ消しの黒い戦闘服で、アサルトライフルを軽々と扱っていた 。


 だが、俺だって準備は万端だ。


 身にまとうのは、少しくたびれた……いや、これは「味がある」バトルスーツだ 。探索者ギルド払い下げの中古品を、先ほどなけなしの資金で購入したもの 。でも、この見た目が大事なんだ! スタイリッシュさの第一歩だ!


 そして、相棒 。右手に握りしめた、この黒いスタッフ!


「ふっふっふ……」


 誰も見てないけど、ちょっとニヤついてしまう 。これは、巷で噂のカーボンナノチューブ複合材で作られた、超軽量で高強度、そして導電性もバッチリの高性能スタッフ! 魔法使いでもない俺が「スタッフ」を持っているのは、異世界から引き継いだ能力を起動させるためだが、そこは気にしない! 見た目、大事!


「よし、トールよ。お前は今日からR-24458だ 。まずは、古井戸の休憩所の空気で、その五臓六腑を満たすのだ!」


 大仰に構えて、ダンジョンへの入口へと、一歩踏み出した 。


 ダンジョンへの入口は、意外にも自動改札機のようなゲートだった。IDプレートをかざすと、「佐藤 トール様。ようこそ、一階層へ。お気をつけて」という無機質な合成音声が響く。


「……なんというか、夢がないな」


 俺は思わずボソッと呟いた。もっとこう、神秘的な岩の扉とか、炎のトーチとか、そういうのを想像していたのだ。


 ゲートをくぐると、目の前に広がったのは、薄暗い地下通路。天井は低いが、ところどころに蛍光灯のような魔石灯が設置されていて、そこそこ明るい。壁はコンクリート打ちっぱなしで、まるで巨大な地下駐車場のようだ。


「よし、これが古井戸の休憩所か!」


 俺が言った「古井戸の休憩所」とは、ギルドで渡されたダンジョンガイドに書かれていた、一階層の通称だ 。要は、ただの広い通路なのだが、古井戸のように魔物も水も出ないことからそう呼ばれているらしい。


 俺は、さっき購入したばかりの中古バトルスーツのポケットを探り、異世界チート能力を起動するためのスイッチ(実際は、ただのデザイン性重視のピンバッジ)に触れた。


 能力発動!


「さあ、カモン! スライムでもコボルトでも! 異世界で鍛えた俺の力が、この現世でどれだけ通用するか、試させてもらうぜ!」


 俺は高性能スタッフをまるでアサルトライフルのように構え、戦闘配信で見たクールなポーズを真似る 。


 その瞬間、通路の角から魔物が出現した。


「お、おい、いきなりか!?」


 俺が緊張で声を裏返らせたその魔物は……。


 体長20センチほどの、フワフワしたホコリの塊だった。それが、ぴょんぴょんと跳ねながら、俺の足元に向かってくる。


「え……ホコリ?」


 ガイドブックを読み返すと、『一階層の主な生息魔物:【ダスト・バニー】。攻撃性:皆無。ただし、アレルギー症状を引き起こす可能性あり』と書いてあった。


 ダスト・バニーは、俺のくたびれたバトルスーツに付着したホコリに惹かれてやってきたようだ。


「くそっ、スタイリッシュじゃない!」


 俺は、慌ててスタッフを振り上げた。高性能カーボンナノチューブ複合材の先端が、ホコリの塊を優しく払い落とす。


 パサリ、とダスト・バニーは静かに地面に落ち、そのまま消滅した。残ったのは、微量の魔石の粉。


「な、なんというか……」


 俺は、自分の初めての討伐に、思わず膝がカクンと折れそうになる。


「地味すぎないか、俺の初陣!」


 俺の最強のソロ探索者への道のりは、予想以上に掃除とアレルギーとの戦いから始まるようだった。俺はスタッフを杖のように突きながら、広大な地下駐車場、もとい古井戸の休憩所の奥へと、一歩ずつ進んでいくのだった。


 ダンジョン内部の通路は、湿気を含んだ石壁と、天井から滴る水滴の音だけが響く静寂に包まれていた。俺は、右手に握った黒いスタッフの感触を確かめながら、慎重に進む。


「ホコリの次は、何だ? チリか? ノミか?」


 さっきのダスト・バニー討伐(別名:優しくホコリを払い落とす作業)の地味さに、俺は少し辟易していた。せめて、夢の職業に相応しい「敵」と戦わせてくれ!


 通路の曲がり角を抜けた瞬間、それは現れた。


 ゴブリン。


 身長は俺の腰ほどだが、腐った肉のような赤黒い皮膚と、黄色く濁った牙がむき出しになっている。奴は俺の存在を認識するや否や、獣じみた咆哮をあげ、手に持った粗末な棍棒を振り上げながら突進してきた。


「来たか……! ようやく、"敵"らしい敵が!」


 俺は一瞬で思考をクリアにした。見学だろうが、相手が殺意を持って突っ込んできている以上、迎撃は探索者として当然の義務だ。同時に、「うわ、このゴブリン、臭そう」というどうでもいい感想も脳裏をよぎる。


 俺は突進してくるゴブリンに対し、一歩も引かず、ただ静かに黒いスタッフを構える。


(イケる! 俺の異世界チート能力は、この程度のザコ相手にこそ輝くはず!)


 ゴブリンの棍棒が、間合いに入った瞬間――俺は動いた。


 無駄な動きは一切ない。昨日配信で見た、憧れの女性冒険者の「無駄を削ぎ落とした構え」が、無意識のうちに自分の体に再現されているのを感じた。


 右手に握られたスタッフが、まるで漆黒の軌跡を描くように、水平に一閃する。その動きは、ただの棒術ではなかった。それは、洗練されたフォームそのものだった。


 ドスッ!


 鈍い衝撃音と共に、棍棒が振り下ろされる直前のゴブリンの側頭部に、スタッフの先端が正確無比に叩き込まれた。高性能カーボンナノチューブ複合材が、ゴブリンの頭蓋に、その衝撃を全て伝達する。


 ゴブリンの動きが、一瞬で硬直した。


 瞳から光が失われ、その汚い体躯は勢いを失って、石畳の上に事務的に崩れ落ちる。一撃必殺。まるで、精密機械がエラーで停止したかのような、クールな決着だった。


 スタッフを静かに下ろした俺は、荒い息一つ吐かず、倒れたゴブリンを見下ろす。


「……所詮、一階層の雑魚ザコか」


 口から出たのは、冷ややかに、しかし確かな自信を帯びた声だった。俺の動きは、ただの棒を振り回すという単純作業でありながら、そこに迷いや恐怖は微塵もなかった。


(これだ! これが、俺の異世界チート能力の真骨頂!)


 俺は、一連の動きを冷静に分析する。ゴブリンは、俺が異世界で培った「身体操作と空間把握」の能力によって、完全に動きを読まれていた。


「……待てよ。今の、もしかして、昨日配信で見たあの女性冒険者の『水平一閃』のフォーム、そのまま再現できてないか?」


 俺はハッとした。あまりにも無意識だったが、あのスタイリッシュな討伐劇が、脳内で完全にトレースされていたのだ。


 俺はゴブリンの残骸がダンジョンに消え、そこに残ったドロップ品(今回は魔石のみ)を回収し、再び通路の奥へと歩を進める。見学の最中に邪魔が入った、ただそれだけのこと。


 この初陣は、誰に見られることもなく、俺の探索者としての歴史の、静かな一ページとなった。そして、俺は心の中でこっそり誓った。


(よし、このスタッフ捌きとスタイリッシュさを維持すれば、あの氷の女王みたいな受付のお姉さまにも、いつか「イ・ケ・メ・ン君」じゃなくて「トール様」って呼ばれるようになるはずだ!)


 トール、探索者番号R-24458は、一階層での「ゴブリン一閃」という地味ながらも完璧な初陣を終え、さらなる高み、つまり二階層へと足を踏み入れた。


 二階層:スライムとの粘着質な戦い

 二階層は、通路の壁が常に湿っており、その床をスライムがヌルヌルと這っていた。


「よっしゃ、二階層のヌルヌルへようこそ!」


 俺はスタッフを構える。スライムの情報は頭に入っている。攻撃力は低いが、その特殊な体組織ゆえに物理攻撃が効きにくいことがある、厄介な奴だ。


 俺は目の前の小さな青いスライムに対し、昨日見た配信の女性冒険者の「精密な射撃フォーム」を真似て、スタッフの先端を狙いを定める。


(ここは、力の勝負じゃない。導電性のスタッフと俺の能力を組み合わせて……!)


 俺はスタッフを素早く突き出す。普通の物理攻撃では効果が薄いスライムだが、俺の能力は「特定の物質に微弱な電気を流し込む」という、実に地味で使いどころを選ぶチートだった。


「スタイリッシュ・スパーク!」


 俺がスタッフの先端に電気を流し込むと、ヌルヌルしたスライムの表面が一瞬で凝固し、小爆発と共に蒸発した。


 ジュッ!という音と共に、周囲には焦げたゴムのような匂いが充満した。


「よし! 物理無効の特殊個体でも、俺の『放電棒』の前ではただの煮こごりだ!」


 しかし、俺の背後で、もう一体のスライムが俺のバトルスーツの膝にヌチャリと張り付いた。


「うわぁっ! ちょ、膝が! 膝が汚れる!」


 俺は慌ててスライムをスタッフで払い落とす。スタイリッシュな討伐は、不意打ちのヌルヌルによって、たちまち「スーツに付いたガムを取る人」のような滑稽な動きに変わった。


「くそ、膝の汚れはスタイリッシュじゃない!」


 三階層:コボルトの集団リンチと「イケメン・ステップ」

 三階層に下りると、通路の空気が一気に獣臭くなった。ここはコボルトの縄張りだ。犬のような姿の奴らは、ゴブリンと同様に集団で現れることが多い。


 俺が角を曲がった瞬間、五体のコボルトがワラワラと湧き出てきた。


「ガウ! ガウガウ!」


 彼らは粗末な短剣を構え、いっせいに襲いかかってきた。


「チッ、数か!」


 俺は、配信で見た女性冒険者の「乱戦での回避ステップ」を思い出す。それは、一歩で数メートル移動するような派手なものではなく、最小の動作で攻撃をかわす、ダンスのようなステップだった。


 俺はコボルトたちの突進を、わずか数センチの動きでかわし続ける。


 一匹が振り下ろした短剣は、俺の鼻先を掠め、別のコボルトの腕に当たった。


「ナイス、自爆!」


 俺は流れるような動きでスタッフを水平に振り抜き、二体のコボルトを同時に感電と打撃で沈めた。さらに、彼らの連携の隙を縫って、残りの三体を次々と一撃で無力化していく。


「どうだ!これが、イケメン・ステップからの、ソロ乱戦スタイルだ!」


 勝利に酔いしれた俺だったが、コボルトたちが残した体毛とよだれが、俺のバトルスーツに付着していることに気づいた。


「あぁ……! 毛だらけ! 誰も見てないけど、俺のスタイリッシュさが、犬小屋の臭いに侵されている!」


 俺は、持っていたタオルで必死にスーツを拭いながら、さらに下へと進んだ。


 四階層:ジャイアントラット(巨大ネズミ)との追いかけっこ

 四階層は、比較的単調な通路が続き、ここでのお相手はジャイアントラット(巨大ネズミ)。ダンジョンの序盤では、手軽な経験値稼ぎの対象だ。


「よし、ここでは優雅さを追求するぞ!」


 俺は、巨大ネズミの群れを前に、スタッフをまるでタクトのように持ち替えた。俺はネズミたちに近づくことなく、通路の壁や天井の魔石灯に微弱な電気を流し始めた。


「スタイリッシュ・トラップ!」


 電気は壁や天井を伝い、ネズミたちが触れた瞬間に感電させる。巨大ネズミたちは、「キーッ!」という悲鳴をあげながら、痙攣して倒れていった。


「完璧だ! 遠距離から、ほとんど接触せずに討伐完了!」


 俺は自信満々に胸を張ったが、ふと、通路の隅で、電気トラップを警戒して壁から離れて座り込む、一匹のジャイアントラットに気づいた。


 そのネズミは、俺を怯えた目で見つめている。


「お、お前……賢いのか?」


 俺がそっと近づくと、ジャイアントラットは「キーッ!」と鳴いて、俺の足元をすり抜け、猛スピードで通路の奥へ逃げていった。


「待て! 俺の経験値!」


 結局、俺は残りのネズミをすべて倒すために、スタッフで壁を叩きながら追いかけるという、まるで「深夜のネズミ駆除業者」のような、まったくスタイリッシュではない行動を取る羽目になった。



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