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僕らが紡ぐ物語  作者: 花音瀬笛人
始まりの物語
7/12

顔合わせ会

「れ、れ、澪依ちゃん?!あの、その、これは違──」 

 クッキーと紅茶を乗せたトレーを持って自室へ行こうとしたとき、二階から親友の叫び声が聞こえてきた。

 続いてバタン、とドアの閉まる大きな音も。

 その音に、紫苑は己の失敗を悟る。気にするべきは環境や外見ではなく人選で、自分はそれを誤ってしまったのだ。

 誰が原因かは大方察しがつく。初回で奴を呼ぶべきではなかった。

 はぁ、と紫苑の口から溜め息が溢れる。

 重い足取りで階段を上り切るとドアの前にへたり込む澪依の姿が目に入った。こうなった原因であろう、奴への怒りを押し隠し、平静を装って彼女に尋ねる。

「どうしたの?澪依ちゃん」

「し、紫苑君、わ、私……」

 その声から物凄く動揺していることが伺えた。

「ひとまず落ち着いて。僕が見てくるから」

 ノブを捻り、部屋の中へと踏み入ると、そこにはいつも通りの光景が広がっていた。

 床に押し倒された親友とその親友に馬乗りになって服を脱ぎ始めた幼馴染み(腐れ縁)変態(阿呆)

 普通の人間がこの光景を見たらまずドアを閉めるだろう。澪依の反応は正しい。これに慣れてしまった自分の方がおかしいのだと紫苑は心に刻む。

 本当に申し訳ないと澪依に心の中で謝りながらトレーをテーブルに置くと変態(阿呆)の目の前まで行き、その脳天に手刀を振り下ろした。額に青筋を浮かべながら。

「痛っ! 何すんのよ紫苑!」

 細くしなやかな指で頭を抑え、絢は叫ぶ。

「何すんのよ、じゃないだろこの阿呆!」

 もう一度手刀を振り下ろす。

「痛いって! こんなに可愛いレディになにするのよ!」

「お前を女と思ったことはない」

「ひっどぉい!」

 そう言って美しい顔を歪めこちらを睨む。腰まで伸びた艶やかな黒髪。白雪の様な肌。ほっそりとした指。清楚な令嬢といった容姿だが、中身はそこらの男子共と大差ない。イベント事があれば先陣に立って声を上げ、普段は下ネタを連呼する。外見詐欺もいいところだ。

「どうでもいいからさっさと服を着ろ。お客さんが来てるんだ」

 その言葉を聞いた絢は、んー、と頬を膨らませて不貞腐れながらも身だしなみを整える。

 まったく、何故こいつは毎回毎回こんな真似をするのだろうか。

「大丈夫か?臨」

 続けて床に倒れた親友に手を差し伸べる。

「うん。大丈夫、いつもありがと」

 臨は紫苑の手をとって立ち上がると礼を言った。

「気にするな、こんな奴殴り倒していいんだぞ」

 紫苑のベッドに腰掛けて足をブラブラさせている幼馴染みを指差して言うと、親友は「いやー、それはちょっと抵抗が……」と苦笑いを浮かべる。 

 部屋の中をぐるっと見回したが特に荒らされた形跡はない。これなら問題ないだろう。

「澪依ちゃん。もう中に入っても大丈夫だよ」




 ドアの前でオロオロしていると部屋の中から紫苑の声が聞こえてきた。どうやら入っても問題ないらしい。

 それにしても、さっきのあれはなんだったのだろう。

 なんであの二人が紫苑の家に?一体どんな関係が?

 そんな思考を巡らせながら中に踏み入る。

 部屋の中央に置かれた小さな白いテーブルを囲む様に三人は座っていた。

「澪依もほら、座って座って」

 つい先程まで男の子を押し倒していた少女に言われるまま、空いていた紫苑の正面に腰をおろす。

「これで全員揃ったね。自己紹介は必要ないかな?」

 紫苑の良く通る声が響く。

「うん。みんなのことは、よく知ってるよ」

 ここにいるのは、全員同じ幼稚園、同じ学校に通っていた人達なのだ。

 澪依から見て右に座る少女は神楽絢。その美しい令嬢然とした容姿とは裏腹にいつも明るくて元気な印象。学年の中心的な人物で生徒会の副会長でもある。少しおちゃらけてるけど信頼は厚い。

 左に座る少年は三上臨。絢とは対照的であんまり喋らないし中心的人物というわけではないけど、勉強も運動もよくできる優等生。彼が怒られている場面は一度も見たことがなかった。上手く喋れないことでちょっと有名な人。

「それで、なんで二人がここに?」

「そうだね。まずはそこからか。臨は僕の親友でね。小説に関しても読者としての視点から色々と話を聞いているんだ。かれこれ二年ぐらいの付き合いかな」

「う、うん。ぼ、僕は元々、影園先生のファンでね、紫苑の正体を知った時は驚いたよ。そ、それからはか、書き終えた原稿を読んで感想を伝えたりしてる……」

「へぇー」

 滅茶苦茶羨ましい。書き終えたばかりの作品を読むことが出来るだなんて。ファンとしてこれ程羨ましいことはない。

 ふと、臨がこちらをじっと見つめていることに気が付いた。

「臨君どうしたの?私の顔に何かついてる?」

 澪依の言葉に臨は慌てて首を横に振る。

「そ、そ、そうじゃなくて……。ぼ、僕の言葉、き、聞き取りづらいんじゃないかって、だとしたら、も、申し訳なくて……」

「そんなことないよ。私は、全然気にしてないから」

 今度は澪依が慌てて首を振る番だった。

「臨は気にしすぎなんだよ。もっと堂々としていればいいのに」

「そうだそうだー」

「だ、だって……」

 紫苑と絢の言葉にも臨は消極的だ。彼からは昏い色が滲んでいる。

 彼は、ずっとそんな思いを抱えて生活して来たのだろうか。

 だったら、と澪依は思う。私だけは何も言わないでいよう。彼が傷つかないように。

 密かに決意していると、いつの間にか臨は私の方を向いていた。真剣な声音で彼は言う。

「あ、あとさっきのアレは絢にイタズラされてただけで、僕達はそ、そういう関係じゃないから、勘違い、しないでね?」

「そうだったんだ……。うん。わかった」

 若干、怪しいけれど。

「さて、臨の話はこれでお仕舞い」

 微妙な空気になってしまったのを感じてか紫苑が無理矢理話題を変えた。

「次は絢に関してなんだけど……正直、こいつは居ても居なくてもあんまり変わらない」

「へ?」

 思わず変な声が出てしまった。恥ずかしい。

「家が隣だからちょくちょく来るけど、基本邪魔しかしない。依頼については関係ないけど何も聞いてなかったらびっくりするでしょ?」

「なんか、絢だけ扱い酷くない?」

「なんのことだか」

 絢の言葉に紫苑は知らん振りを決め込んだ。

「じゃあ、二人の説明も終わったし、仕事の話を、と思ったけどまずはお茶にしない?そんなに急ぐような話じゃないし、紅茶が冷めちゃう」

「そうだね。確かに勿体無い」

 それぞれがカップを持ち上げ紅茶を啜る。さっぱりとしたフルーツの甘みが口いっぱいに広がってとても美味しい。

「クッキーも是非食べて。味は保証するよ」

 促されるままにクッキーを手に取り少し齧る。

 仄かな甘みとバターの風味がマッチしていてこちらも美味しい。

 思わず顔が綻ぶ。

 紫苑はどうやら料理も得意なようだ。

「とっても美味しいよ」

「そう。口に合ったならよかった」

 紫苑は笑顔を浮かべて言う。そしてカップをテーブルに置くと真剣な顔で告げた。

「じゃあそろそろ、仕事の話をしようか」


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