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僕らが紡ぐ物語  作者: 花音瀬笛人
始まりの物語
6/12

好きな人の家

再び澪依視点です。

「ここが、紫苑君の家……」

 澪依の視線の先にあるのは少し大きめの一軒家。

 二階建ての洋風、白い外壁。よく手入れのされた庭に、赤煉瓦で作られた花壇。そこには様々な種類の花が咲いていた。

 紫苑はガーデニングが趣味なのだろうか?

 更に近づくとドアがよく磨かれていることに気付いた。

 さっきまではなんともなかったのに段々と緊張が押し寄せてくる。

 澪依は、男の子の家にお邪魔するという経験が皆無だった。

 しかも今日は滅多にしないようなメイクを薄っすらとして、持っている服の中で一番可愛い物を着て来た。

 結構気合いを入れてオシャレしたつもりだ。

 だって今から会うのはずっと想い続けてきた人なのだから。

 下心見え見えな女って思われないかなという不安もあるけど今更言っても仕方がない。

 ドアの前まで歩いて行きインターホンを押して呼びかけた。

「花宮澪依です。紫苑君、いますか?」

 もしも紫苑君に相棒として認められたらこの関係はずっと続く可能性がある。

 だからこそ、絶対にばれないようにしないと。

 紫苑のことが、好きだってことを。






 約束の時間まで後五分か。

 スマホの電源を切り、焼き上がったクッキーを皿に盛る。

 もう少しで澪依が家に来るかもしれない。そのことを思うと緊張してきた。

 女の子を家に招いたことなんて一度もないから当然、なのだろうか? 勝手に上がりこんでくる奴が一人いるけれど、あいつを女と思ったことはない。

 澪依に対して特別な感情を抱いているというのも緊張の一因かもしれない。

 今後のことを考えれば最初の印象は大事だ。いつも以上に掃除も庭の手入れも念入りにした。服に関してもおそらく問題ないはだろう。あと、何か考慮すべきものはあるだろうか?

 そんなことを考えていると、インターホンから澪依の声が聞こえて来た。

「はーい。今行きます」

 来てくれた! 手のひらに薄っすらと少し汗が滲む。

 場合によっては、澪依との関係がずっと続く可能性もある。こちらとしては是非そうなってほしいが。

 だからこそ、絶対にばれないようにしなくては。

 澪依に向く、この想いを。


 


「いらっしゃい。来てくれてありがとう。さあ、入って入って」

「お邪魔します……」

 初めて見る私服姿の紫苑はとてももかっこよかった。学校の制服もいいけど、こっちもよく似合っている。

 出迎えてくれた紫苑に促されるままに中へと入った。

 初めて来たものだから、やはり色々と見てしまう。

 紫苑の家は想像通り整理整頓されていてとても綺麗だった。

 ふと、そこで紫苑のものと思われる靴の他にも幾つか玄関に靴が並んでいることに気付く。

「紫苑君のご両親も家にいるの?」

 いるのならご挨拶しないとと思って澪依は尋ねる。

「ああ、親はいないよ。澪依ちゃんに紹介したい人達がいてね。せっかくだからと呼んだんだ」

 澪依の質問の理由に気づいたらしく振り返って靴を一瞥した紫苑はそう答えた。

「ところで、飲み物は紅茶でいいかな?それとも何か希望はある?」

「紅茶でいいよ。ありがとう」

「いえいえ。すぐに持って行くから先に部屋で待っててくれる?階段を登って正面にあるのが僕の部屋だから」

「うん、わかった。先に待ってるね」

 台所へ向かう紫苑の背中を少し眺めた後、澪依も階段を登り始めた。






 階段を登って正面、ここが紫苑君のお部屋。

 なんだかちょっとドキドキしてきた。

 前からずっと気になってはいたのだ。紫苑はほとんど私生活について話すことがない。

 私たちの住む地域は学校ごとの生徒数が少ない。小学校から中学校へは大多数がエレベーター式で、中学受験を受ける人はごく僅か。ほとんどの人が幼い頃からの顔馴染みで、顔ぶれが変わらない。

 それ故に誰が、いつ、どんなことをした、という情報が頻繁に行き交う。紫苑ほどの人気者ならばもっと情報があるというのが普通なのだが——

 紫苑に関しての情報は全くと言っていいほど存在しない。

 誰と連絡先を交換している。

 どんな家に住んでいる。

 彼の家へ遊びに行った。

 そんな話題が、出てこない。

 不思議に思ったけれど、それもまた、ミステリアスでいいなと思った。

 それでもやっぱり、彼の私生活を知りたいという欲求もあって、今実際に紫苑の部屋の前に立つと胸が高鳴った。

 一度深呼吸をしてドアノブに手を掛け、ゆっくりと開く。

 どんな部屋なのだろう。彼は小説家だから、仕事の道具や資料があったりするのだろうか。期待に目を輝かせ——

まずその目に映ったのは二人の人物。床に押し倒された少年と、その少年に馬乗りになった少女。

 どちらにも見覚えがあった。

 一瞬、思考が止まる。

 長身の女子。はだけた服から覗く、雪のように白い肌。

 一時期、紫苑との恋仲を噂された少女。

 やがて、凍り付いた思考が動き出し始めた頃、澪依の存在に気づいた少年が顔を真っ赤に染めて声を上げた。

「れ、れ、澪依ちゃん?!あの、その、これは違──」

 バタン、と音を立ててドアが閉まる。

 やってしまってから気がついた。自分がとんでもないことしてしまったと。

 どうしよう。絶対に修羅場だ……。

 見てはいけないものを見てしまった気がしてついドアを閉めてしまった。

 ほんとにどうしよう……助けて、紫苑君。

 深く息を吐いて、澪依はその場にへたり込んだ。



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