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僕らが紡ぐ物語  作者: 花音瀬笛人
始まりの物語
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イメージ

「おかえり、澪依」

 家に入ると一番上の姉、朝日が真っ先に出迎えてくれた。

「ただいま朝日お姉ちゃん。今日は楽しめた?」

 今年社会人になった朝日は市立図書館に勤め、忙しい毎日を送っていた。休日の今日は友達とショッピングに行ってきたらしい。

「久々に羽を伸ばせて楽しかったよ〜。澪依は? 今日どこ行ってたの?」

「椿のとこ。一緒にイラスト描いてたの」

 もし、正直に紫苑の家に行ってきたなんて言えば変な推測をされかねない。ただでさえ朝日は澪依が紫苑を好きだということを知っているのだ。きっと満面の笑みで問い詰められる。堂々と嘘をつくことに決めた。

「言ってくれたら送って行ったのに〜」

 澪依の家族は少々過保護過ぎる。これにはとある理由があるので別に嫌というわけでもないが。

「今から部屋に篭って読書するから邪魔しないでね」

「あれ? 影園先生の新作ってまだだよね? 何読むの?」

 唇の前で人差し指を立て、一言。

「秘密」

「ふ〜ん。まぁ、楽しんで来な」

「ありがと。ご飯は後で食べるから」

 そう言い残して階段を駆け上がる。部屋に飛び込むと急いで鍵を掛けた。

 澪依の家族は全員もれなく影園詩月のファンなのだ。紫苑の新作が見つかれば色々とまずい。

 バッグを置いてベッドに寝転がる。

 はぁ、と溜息が零れる。

 紫苑君、絢ちゃんに押し倒されたことあるんだ……。

 認めてもらえたらことや連絡先を交換できた喜びも、その事実一つで影を潜める。

 絢は紫苑のことが好きなのだろうか? 紫苑にかまって欲しいから、あんなことをしていたのだろうか?

 彼は絢のことをどう思っているのだろう。少なくとも投げ飛ばしたというは嘘ではないと思う。嘘の色は見えなかった。

 でも、どうだろう。紫苑は自分の色を隠すのが上手い。

 本当はお互いのことが好き──

 浮かんだ考えを頭を振って振り払う。

 あれこれ考えても仕方がない。ひとまず本を読もう。

 バッグから『魔女狩り』を取り出してそっと開く。

 彼の新作を読み耽るこの時間は澪依にとって至福のものだ。

 『魔女狩り』は影園詩月の作品で二作目となるファンタジー小説だった。

 物語はこう幕を開ける。


 建国の物語を語ろう

 それは、偉大なる王と、忌むべき魔女狩りの歴史

 それは、祝福を受けた者達の長い長い夜

 それは、復讐と希求の旅路

 さあ、建国の物語を語ろう

 二人の少年の、誓いと追憶の物語を


 それは魔法が存在する世界世界の英雄譚。

 すぐ物語の世界に没入し、先程までの思考は掻き消えていた。

 主人公はリヒトという名の少年。どこかの言語で光や希望を意味する言葉の筈だ。

 領主であり、英雄でもある両親の子であるリヒトは騎士を目指し鍛錬を重ねていた。

 そんなある日、彼の暮らす領は一人の『魔女』によって滅ぼされた。 

 彼は誓う。必ずかの魔女を殺し、家族の仇を討つと。

 それから何年かが経ち、リヒトは流浪の旅人となって各地を巡る。

 時に魔物を狩り、時に人々と関わり、そして──

 大魔女を手にかけた。

 各地で目覚めた五人の大魔女を殺し、彼は辿り着く。

 隠された花園で因縁の魔女と相対したリヒトは知ることになる。

 秘匿され続けてきた、真実を。


 全て読み終わって本を閉じると、澪依は一人涙を流す。

 影園先生の作品はいつもそうだ。読み終わると泣きたくなる。

 目元を拭ってベッドから降りると、椅子に腰掛け机と向き合う。

 ペンを片手にノートを開いて思案する。

 まず、前提として影園詩月の小説の表紙において人物を描くのはタブーだ。

 これについては一年前、読者から寄せられた『なぜ影園先生は自分の作品をメディアミックスしないのですか?』という質問への回答の際に言及されている。

『私は小説を読む際、この人物はこんな顔をしているのかな? ここの情景はこんな感じだろうか? と想像を膨らませながら読み進めているのですが、後にメディアミックスされた時に解釈が一致せずもどかしい思いをしたことがあります。人物の顔は一度見てしまうとそれで固定されてしまいますから。それに私は、自分が思い描く世界の形を他人に決められたくないのです』 

 イラストレーターの日山水希さんが彼の世界の『景色』を描くことを許されているのは、それに最も近いものを彼女が描いたからだという。

 景色を描いてもいいというのは彼の最大限の譲歩で、水希さんでさえ人物を描かせてもらえたことはない。

 つまり、澪依に与えられた選択肢は風景かもしくは抽象的なものの二つ。

 澪依は抽象画を描いたことはないが幸いにも昔に描いた『夜明け』の風景画を認められていたのでなんとかなりそうだ。

 となると、次に考えるべきは──

 どこを描くか。

『魔女狩り』の主人公は大陸の各地を巡る。描ける風景は沢山あった。

 花に絡め取られた城。

 凍り付いた町。

 焼け焦げた街。

 亡者の揺蕩う墓場。

 降り止まぬ雨に沈んだ村。

 死の大地。

 数ある中で澪依が選んだのは秘密の花園だ。

 薄紫の花片が舞うそこはかつてある人物達が愛した場所であり、墓場であり、決戦の地であり、聖地である。

 きっとこの物語で一番大切な場所。

 描くのならここしかないと澪依は思った。

 問題は、この花園に咲く花々がどんなものなのかわからないという点だ。作中では薄紫の花片があるとしか──

 いや、一度だけ花言葉について触れていた。

 確か、『追憶』だった筈だ。

 現実にある花なのだろうか? 花に詳しくない澪依には思い浮かばない。

 連絡先を交換したのだから後でモチーフがあるのか聞いてみよう。

 ノートを閉じてタブレットを起動。専用のアプリを開いて集中する。

 足りない知識は想像力で補うしかない。

 イメージを具体的にしろ。思い描くままにペンを走らせろ。

 絶対に、最高の出来に仕上げてやる。

 

 

 

 

 影園詩月の名義で『魔女狩り』の連載が始まりました。こちらもどうかよろしくお願いします。 

 あくまでも澪依の設定であって、決して私が自分で『私の作品を読み終わると泣きたくなる』と言っているわけではないのでそこはご理解いただけると幸いです。


 

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