一章 覚める目
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青白い時間帯に目が覚めた。カーテンの隙間で小さな鳥が母親を呼んでいる声が聞こえる。いつも起きる時間ではないので身体を起こすのさえ面倒だ。どうしてこんな気持ちになる。そりゃ本来目覚める時間ではないからなのは確かだ。でも他に理由があるとすれば...身体を横にしたまま、俺はふと枕元のスマートフォンを手に取った。通知は0件。着信もない。変わらない。変わってない。時刻表時を確認したときに、そういえば今日で21歳になることを思い出した。まあどうでもいいか、そう思ってまた目を閉じる。
いつからだろう、自分が見ている景色が黒色が多い灰色にしか見えなくなったのは。街の人たちが音もなく横を通りすぎていくようになったのは。自分自身が誰なのかわからなくなってきたのは。そう思えたときに込み上げてくるものがあった。でも涙は出ない。正直これが一番辛い。俺はとうとう観念して身体を起こし、パジャマの上からジャージを羽織って仕方なく家を出た。何の希望もないがそれでも誕生日くらいは、と腹を括った。実家から貰ってきた部屋にある古い柱時計が朝の5時を告げる。「ゴォォン」という鈍い音を背中で聞き、俺は家の鍵を閉めた。