6話 放課後
休み時間になるごとに、えみはぼくの席に来て、話しかけてきた。
そのせいで他クラスの人も廊下でごった返すほど来て、珍しいものを見るような目でぼくたちを見てくる。
後々知ったのだが、学園の美人不良が陰キャをしめているとか、仲良く話しているとか、特別な約束をしたとかで噂になって興味と好奇心などで見物に来たのだとか……
いい迷惑だな!
動物園にいる動物じゃないんだぞ、こっちを見てくるな、と思ったがビビッて言えずに放課後まで過ごした。
いや、てか、振り返ってみると不良女えみが悪くね?
絡みすぎなんだよ!
休み時間ごとに来るとかなんなの?
どんだけ喋りかけてくるの⁉
さとし、すんごく驚いています。
友達がいないのか?
いや、そんなことはないかー。この美少女えみの周りにはいつも人がいるしなー……
それに、ぼくに友達がいれば、えみも頻繁に話しかけなかっただろう……たぶんね?
「ねぇ、さとし。顔が騒がしいけどどうしたの?」
「やかましいわ! ぼくの貴重な青春の一ページを考えていただけだよ‼」
「え、なにそれー! めっちゃ興味あるんですけどー! なに考えてたの?」
「お願いだから話を広げないでください」
誰もいない放課後の教室、ぼくの席の前に座るキラキラのロングヘアー金髪を持つ彼女はあろうことか目もキラキラさせながら追撃をしてくる。
「えー、でも、聞きたーい!」
「興味を持つな!」
「それは無理」
「なんでだよ!」
「だってさとしの青春の一ページだよ。聞きたいじゃん!」
「どんだけさとしの話に興味津々なの⁉ いや、興味を持ってくれてありがとうございますなんだけど! でも、すんません! 青春の一ページって綺麗な表現を使ったけど、ただの一日の振り返りしてただけですー」
「一日を振り返ってたのね。大事よね! 一日振り返ってどうだった?」
あれ? この件には話を広げないでほしいという意味だったんだけど……まぁいいや。
陰キャのぼくにとって、初めてクラスメイトと喋って、それが学園の美人不良とずっと喋り続けるんだ。疲れたわ!
こいつとの一対一のお喋りは、まぁー、今のように緊張なく会話はできるよ?
でも、周りの視線がものすごいんだよ!
しかも、なんかぼくに対してコソコソ言う輩がたくさんいたし……
だから、一日を振り返ると——
「濃厚な一日だったかな……」
「そうよね! わたしも今日は楽しすぎて濃厚な一日が過ごせたわ!」
それ……ぼくが言う『濃厚』の意味とはかけ離れているけどね。
「そうか、それはよかったね……ところで、なんでぼくを放課後の教室に残らしたの?」
実は、午後の休み時間に『放課後、誰もいなくなるまで教室にいて』とえみに頼まれたのだ。
まぁ、公園で会話の練習も後でできるし、他に用事もないし、ということで頼みを聞くことにした。
んで、誰もいない教室になったところで、こいつが来たというわけだ。
放課後の教室に残らした理由を聞くと、数秒考え事をしたえみはパァーと顔を明るくして、
「そうだったわ! ちょっと待ってて!」
と言うとポケットに手を突っ込んで、
「一緒に確認するわよ」
と、スマホを『ジャン』とぼくの目の前に出してきて、ニコニコする彼女。
「ん? 何を確認するの?」
「えー、忘れたのー?」
「え、なんか約束した?」
「今日の朝、『わたしが怖いか、怖くないか』のSNSでアンケートとれって言ったじゃん」
「あー、そんなこと言ったねー。完全に忘れてた」
「もー、忘れるなんてひどいよー」
「あー、ごめんごめん」
「その調査結果を一緒に確認しよって思って放課後、残ってもらったの」
「なるほどねー」
残された理由は分かった。
正直、アンケート結果なんてどうでもいい、と思っている。あの時はー、感情的になったと言うかなんというかー。それで、アンケート取れって言ってしまったよね。
「アンケートのことを忘れてたってことは、『わたしが怖い』が調査結果の五十%未満だったら、さとしがご飯をおごるってことも忘れてる?」
「いや、覚えてるよ」
「よかったー」
心底よかったと顔をするえみに言ってやる。
「逆に五十%以上だったら、ぼくにご飯をおごることも覚えてるからな」
「そうね、そんなこと言ってたね。今、思い出したわ」
「おい、大切な約束を忘れるんじゃない」
人のことは言えないんだけどね。
「どうせ、わたしが勝つから覚える必要のない内容は忘れちゃうよね」
こいつ、煽ってきているぞ。
まぁ、自信満々で勝気のあるこいつはどうせ敗北するんだ。
それを考えると、一時だけでも勝てるという夢を見させてあげてもいいじゃないか。
あと、勝って当然と考えてる奴が敗北する瞬間はおもしろいからな。
「とにかく、アンケート結果を一緒に確認しようじゃないか」
「そうね!」