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ぼくたちの思い出  作者: シドウ
5/6

5話 約束

「頬を赤くしてる、かわいい」

「……」

 なんなんだ、こいつは?

 ぼくになんの用があってここに来ているんだ。

 冷やかしに来ているのか?

「ちょっとー、わたしが話しかけているんだから、なにか喋りなさいよー。約束したでしょ? 会った時は喋ってくれるって」

 約束?

 この不良女と?

 関わらないように生きているのに喋るなんてぼくが約束するはずがないじゃん。

「えっとー、そのー……約束はしてないと思うんだけど……」

 なるったけ怒らせないように控えめな声で言った。

「昨日、公園でしたじゃない。わたしと会ったら喋るって」

「え……?」

「あ、もしかして、わたしのこと、気づいてないの?」

「……」

 え、もしかして、こいつ……

「エミーローズって言えば分かるわよね?」

「おまえー!」

 驚いたぼくは席を立ち、不敵な笑みを見せる彼女に指を差す。

 そういえば、声も身長もルックスもすべてにおいて、同じ。

 まさか、同じクラスの人とは思いもしないだろ……

 急にぼくが『おまえー』なんかいうもんだから、クラスメイトはぼくの方に注目する。

 やばい、クラス中の注目の的になった。

『え、あいつ、えみに指差して、おまえって言ってるぞ?』

『大丈夫か、あいつ……しめられるんじゃ』

『しめられるな、あいつ……あいつって名前何だっけ? えーっと……さとる?』

 さとしだよ‼

 もしかして、野次馬たちってぼくのことを心配している?

『陰キャがしめられるところ、見られるー‼ わくわく‼』

『どんなふうにしめられるんだろ?』

 んー、全然心配なんてしていなかった……

 おい、少しはぼくのことを心配しろ‼

 ぼくがしめられるのに期待と胸を躍らせるなー‼

 周りに対して色々な感想を抱いていると、

「さとし、約束したこと、やろう?」

 えみは言った。

 約束したことって、さっき言った喋ることだよね。

『約束したこと……どんなだ?』

『なんの約束をしていたんだ?』

 と、クラス中のひそひそ話が聞こえてくる。

 いや、さっき、会った時に喋ることって言ってたからね?

 あと、この状況で話すのは……かなりのハードルが……

 周りのみんながすんごく見ている。

 だから、一言言った。

「いや、この状況で喋るのはめっちゃ喋りづらい」

「え、どこが?」

「周りを見ろ‼ クラス中から注目の的じゃん‼」

「え?」

 キョロキョロとこの女は見回す。

 目が合いそうになった外野たちはそっぽを向く。

「全然見てないわよ?」

「そりゃー、誰もが恐れる女と目を合わせたくないからな‼ 目を逸らすわ‼」

「はぁ? 誰もが恐れる女ってなによー?」

「言葉の通りですが?」

「わたし、怖いなんて言われたの人生で数回しかないんですけどー?」

「んなわけあるか! 千回以上あるだろ! 見た目からしてめっちゃ怖いじゃん‼ おまえとすれ違う時、ぼくはいつも怖くてちびりそうになったからなー」

「きったなーい」

「嘘だよ! それくらいに怖いって伝えたかっただけだよ‼」

「わたし怖くないもん」

「へぇ~、それじゃー、クラスメイトの人に聞いてみ」

「分かったわ」

 席を立とうとする彼女を止める。

「ちょっと待った。おまえが直接聞いたら、報復を恐れて怖いなんて言えないだろうから匿名で怖いか怖くないか聞かないとだめ」

「はぁー、そんなのどうするのよ?」

「そんなの簡単。今はインターネット時代、SNSを利用してアンケートをとるんだ」

「ふーん、分かったわ」

 ポチポチと素早く画面をタッチするえみの手が止まると、こちらを向いて、問いかけてきた。

「もしも、アンケートでわたしが怖いが調査結果の五〇%未満だったらどうする?」

「そんなのはあり得ないけど、まぁ、そうだなー、もしも五〇%未満だったら、全力で謝る」

「それはいやー。だって、わたしは傷ついたんだから怖くないことが証明されたらもっと要求してもいいと思うのよ」

「う~ん、いいけど、その代わり、怖いが勝ってたら何かご飯をおごってもらうからね」

「いいよ、じゃー、わたしも何かおごって」

「いいだろう」

「ふっふ~ん、さとしに何をおごってもらおうかな~」

「それはぼくのセリフ」

「え、自分自身になにをおごってもらおうか考えるの……ドン引きだわ……」

「違うよ‼ 自分自身でなにを奢ってもらうやつがいるかー‼ どんだけぼっちを拗らせてるんだよ、そいつ」

「……」

「憐れんだ目で見てくるなー! 違うから! ぼっちを拗らせていないから‼」

「まぁ、男の子は強がる生き物だって言うからね」

「強がりでもなんでもないから!」

「ハハハハハ」

「笑うなー! その上唇と下唇を思いっきり摘まんで、平らにさせるよ? 鴨みたいなくちばしにさせるよ? クワァ、クワァしか言えない口にしてやるぞ‼」

「怖いんですけどー、ハハハハハ」 

 まったくもって怖そうに思ってない態度だな……

「と・に・か・く! おまえに何を奢ってもらおうか考えるのはぼくの役目だから」

「そんな時間の無駄をしなくても……」

「時間の無駄じゃない。九九.九%でぼくの勝利が確実だから。今に見とれい!」

「はいはい、考えるのは自由だからね」

 くっそー、なんなんだこいつ。

 生意気な女だな。

「あ、ところで、アンケートの結果っていつでるの?」

「今日の放課後よ」

「放課後、おまえはぼくの前で吠えずらをかくだろう。その時が楽しみだ。ㇴハハハハハ」

「笑い方がダサいんですけどー」

「ぼくの個性を馬鹿にするんじゃない!」

『キーンコーンカーンコーン』

 HRが始まるチャイムが鳴った。

「もうこんな時間だわ。ふふ、楽しかったわ。またね、さとし」

「いや、楽しくなかったから。ただ、バカにされただけにしか感じなかったから」

「ハハハハ、おもしろー」

 そう言って、彼女は隣の席の人にイスを返して、廊下側の自身の席に戻っていった。


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