ひみつの遊園地『トラウマランド』
いらっしゃいませ
いらっしゃいませ
今日はとってもいいお天気の、暗黒の夜でございます
ヒヒヒ
ようこそいらっしゃいました、皆様
ここは現世で愛されなかった者たちが、夢いっぱいのアトラクションで遊び放題の夢の国、ひみつの遊園地『トラウマランド』でございます
皆様、いつものように悶々としながらご就寝のところ、目を覚ましてみればこんなところに呼び集められていて、さぞかし驚かれましたことでしょう?
いえいえ、これは夢ではありませんよ
夢の国と題してはおりますが、けっして夢などではない、れっきとした現実なのでございます、ヒッヒッヒ
おや、質問が出ましたね、そこのお兄さん、いい質問だ
『おまえは誰だ?』と来ましたか、これはこれは、ありきたりなご質問をどうもありがとうございます
ではご紹介いたしましょう
私は名もなきピエロでございます
当『トラウマランド』でお客様を楽しませる役を仰せつかっております
私などのことはどうでもいい
当ひみつの遊園地『トラウマランド』は、現世で愛されなかった方たちへの慈しみに溢れた、夢の国でございます
ここではなんでもお客様の願いが叶い放題だ
なんにでもなれる
なりたかったものに、なんにでもなれるのです
叶わなかった夢も、アトラクションの中へ入るだけ、それだけで、嘘のように簡単に叶ってしまいます
現世で憎たらしいヤツがいれば、そいつをアトラクションとして召喚し、自由に殺戮することもできる
自分をバカにし、相手にもしなかった、愛憎溢れる女性がいるなら、その女をアトラクションに設定し、好きなようにいたぶることもできます
おっ? 皆様乗り気になって来られましたね?
中には『そんなこと、自分はしない!』みたいに抵抗をもたれた方もいらっしゃるようだが……まぁ、いい
では、どうぞ! 楽しい暗黒の夜の遊園地へ! ご入場ください!
☆ ★ ☆ ★
とても楽しそうに奴隷が王様を大勢でなぶり殺しにしている絵の描かれた大きな扉がギギギイと開いた。
「ようこそ! ひみつの遊園地『トラウマランドへ!』」
「待ってたわよ〜! みんな、楽しんでね!」
そう言って出迎えたのは真っ黒な尖った耳を頭に生やした、人懐っこい目をした二匹の大きなネズミだった。甲高いへんな声だが一匹はオスで、紫色のリボンをつけたほうがメスらしかった。
「ボクの名前はチャッキー・マウスだよ!」
「あたしはチャーリー! 炎の少女チャーリー・マウスよ!」
「さあ! それじゃ、やりたいアトラクション別に分かれようか! 復讐したいひとー? 暴力組はこっち、こっちだよ!」
「自分の万能感を満たしたいひとー? 承認欲求組はこっち、こっちよ!」
チャッキーについて行った者たちは、真っ黒で巨大なテント型の建物の中へと導かれた。中に入ると各人は別の世界に入って行った。
「好きな武器を選んでね! ナイフ、ピストル、マシンガン、火炎放射器……もちろん素手でも殴り殺せるよ! ここはキミの願望がなんでも叶う、夢の国だからね!」
客たちはそれぞれに好きな武器を受け取ると、自分の世界の中に入って行った。
目の前に憎たらしい相手が現れる。それは各々違っていて、嫌いな上司やライバル、自分を見下したオンナや口先だけの偽物の愛をくれる浮気オトコなどだった。
「死ねやー!」
「殺してやるー!」
「こうだ! こうしてやる!」
「アハハハハ! 指、もげちゃったねー!」
客たちはすっかり心を開き、心の底から虐殺を楽しんだ。
チャーリーについて行った者たちは、派手な色のドーム型の建物の中へと導かれた。中に入り、各人が別々の世界に入って行く。
「万能感を楽しんでね! あなたはなんでもできる人になれるわ! チート級の能力で願いを叶えて! さあ! あなたがしたかったのは、どんなこと?」
客たちは目の前に広がる仮想現実空間の中で、自分の願いを叶えて行った。
「この糞パチスロ屋! 俺を借金まみれにしやがって! 燃やしてやんよ! ドカーン!」
「ウフフ! オトコども、あたしのこの世界一の美貌に夢中になりなさい! ウフフ! アハハ!」
「どうだ、世界中の美女ども! 俺のこの魅力がわかったか! ヤラセローーー!!!」
「いくらぁー……プリン〜……食べてもぉ〜……お腹いっぱいにならないのぉ〜っ! 食うぞーー!!!」
「愛して! 愛して! あああああ……愛されてるーーーッ!!!」
客たちはすっかり遊園地の空気に溶け込み、自分の欲求を正直に叶えて行った。
☆ ★ ☆ ★
皆様、閉園の時間でございます
存分に楽しまれましたでしょうか?
またのご来園を……と申したいところですが、残念ながらそれはございません
ええ、当ひみつの遊園地『トラウマランド』は、今宵限りの営業でごさいます、ヒヒ……
え? 『帰りたくない』? それは嬉しいお言葉をどうもありがとうございます! ヒヒヒ
でもこれは契約だ
ええ、私のマスターがあなた方に『願いを叶えたいか?』と囁いたのですよ、ええ、あなた方の眠りの中でね
そして契約したのですよ、願いを叶える代わりに、あなた方の魂をもらうとね、ヒヒヒヒヒ!
それではどうぞ、お帰りはこちらです
☆ ★ ☆ ★
出口の扉が開くとすぐに断崖絶壁だった。崖の下は真っ暗で何も見えなかったが、下から青白い触手が無数に伸びて来ると、客たちの足に巻きつき、引っ張った。
脱線したジェットコースターのような悲鳴が上がり、次々と客たちは崖の下へと引きずり込まれていった。
後にはピエロの愉快そうな声だけが響いていた。
「ヒーヒヒヒ! 気をつけてお帰りを!」