ウェディングドレスは憧れ……ですか?
こんばんわ~、あれ?ひょっとしたらおはようかな?
ナビゲータの浅岡まどか二十歳です。
結婚式と言えば、女の子の永遠の憧れですよねぇ。でもその昔は苦痛な一日だったとか。
知ってますか?その昔、私のママよりもう少し上の世代までは、結婚式と言えば、神前式で白無垢と呼ばれる和服で挙げてたんですよ。
しかも、その後の披露宴では、色打掛という赤い煌びやかな和服で、コレがまたすごく重いらしいのよ。お値段が良ければそれだけ豪華で重くなるという、悪循環。
そのころはねぇ、「お仲人さん」って役目の人がいてね、披露宴が始まるとその人のスピーチがあって、その後、新郎側、新婦側、新郎側って来賓のスピーチが続いて、そのあとようやく乾杯に入るんだけどこの乾杯の人もスピーチがあって……。
式場の目安では乾杯までが30分、そのあとすぐお色直しで花嫁は退場っていうのが定番らしいんだけど、あぁいう、来賓のスピーチは長いほど格式が高いみたいな間違った認識がある時代で、30分で終わらず、45分夜1時間かかることもざらにあったんだって。
で、その間、新郎新婦は立ちっぱなし。中には「長くなるからお座りください」って気を使ってくれる人もいるらしいんだけど、気を使うならスピーチを短くしろっ!ってママが怒ってたわ。気の使いどころが間違っている一例よね。
そんな話を聞けば、「花嫁衣装は根性で着る物よ」ってママが言ってたのは、あながち間違ってないかも?と思うのよ。
まぁ、それも、某有名な結婚情報誌が創刊されて、「仲人はいらない」って書きたてたから全国仲人協会が怒ったとか何とか言われてるけど、結婚式のスタイルの変革などの時代の流れなんでしょうねぇ。
その結婚式のスタイルに合わせて変わってきたのが、結婚写真。
今では、前撮りの様子、挙式披露宴の様子が1冊のアルバムになってるっていうのが普通だけど、当時は集合写真と二人の写真……いわゆる「型モノ」と呼ばれる写真だけだったんだって。少し想像つかないよね?
今回は、そんな結婚式にまつわるお話ですよ。
◇
案件1 夢を叶えて、マイダーリン
えっと、私の今日のお仕事は、このウェディングハウス・ビフロストでの前撮りのお写真を撮影することです。
ビフロストは、今流行りのレストランウェディングから一歩進めたハウスウェディングの会場。コンセプトは「お二人の夢、叶えます。お二人らしい結婚式を。」「二人が貸切ったお家で、アットホームなウェディングパーティを」って感じかな?
まぁ、要は「二人の我儘叶えちゃうので言いたいこと言ってね……お金はかかるけど。」という結婚式場なのよ。
で、結婚式の思い出と言えば、当然お写真も含まれるわけで、この挙式より1か月も前にお写真を撮るの。
一応、ドレスのサイズ合わせやメイクの確認をする、っていう理由があって、そのついでに写真も撮っちゃぉって感じなのね。
で、今日のお客様なんだけど……、私はまだお会いしてないんだけど、お二人が持ち込んできたアイテムが、賞状とトロフィーと柔道着。
何でもね、新郎が学生柔道全国2位になったことのある猛者で、新婦が女子柔道全国優勝の経験者なんだって。柔道がきっかけで始まる恋愛……ちょっと想像つかないんだけどね。
ちなみに現在の二人の職業は、新郎が全国シェア1位の警備会社、新婦がシェア2位の警備会社なんだって。ここまで来ると恋人っていうより、ライバルかっ!って言いたくなりません?
っと、お二人がきたからお仕事お仕事……。
……。
……。
……うん、私頑張った。
新郎がガタイがいいのは、まぁいいんだけど、新婦もねぇ、さすがに格闘技全国優勝経験者のアスリートだけあって、なんていうか、その……厳つい……じゃなくて、険しい……でもなくて……そう、立派な、武道家らしい方だったのですよ。
そんな花嫁さんが、バービー人形をモチーフにした可愛らしいドレスを着て登場……。
「わぁ、可愛い。ねっ、まどかちゃんもそう思うでしょ?」
プランナーと美容スタッフがひたすら可愛いを連呼。それはいいんだけど、私を巻き込まないでっ。私は裏表のない素直な性格をしてるってみんなから言われるんだから。
「あ、うん、とっても可愛い~……(ドレスが……)」
お嫁さんも気さくで豪快な方で、ガハハと大口を開けて笑うタイプで、細かいことを気にしなくて、何とか撮影をこなしていったけど……、うん、私カメラマン向いてないかも。
そしていよいよ最終カット。
この前撮りって、一見お二人に合わせてその都度考えながら撮影してるように見せてるけど、実はある程度パターンが決まっていて、その時の口上もある程度決まったものをその場の雰囲気でアドリブしてるのね。
で、今回、お二人が規格外だったから私の精神擦り切れ寸前で、ちょっとしたミスをやらかしちゃったのよ。
つまり、テンプレに沿ったまま話しちゃったわけ……「最後に、新郎が新婦をお姫様抱っこしたのを撮りましょう」って。
普通であれば問題ないこの発言だったんだけどねぇ。あろうことが当の新郎が一言。
「ヤダ、重いから。」
「「「「「…………。」」」」」
……まぁ、その後はお察しの通り、大ゲンカで……。私はその場で撮影を切り上げて、逃げだしたんだけど、あとからプランナーにネチネチ言われ続けたわ。
でもね、悪いのは、あそこできっぱりと言い切った新郎であって、私じゃないと思うのよ。
◇
案件2 ウェディングベル
「美並せんぱーい。大丈夫ですかぁ。」
「らいひょうふ、らいひょうふ。」
私は結婚式の2次会でかなり酔った先輩から呼び出しを受けて、迎えに来てるんだけど……。
「まどかちゃんだっけ?美並の後輩の。」
「はい、そうです。すみません、先輩がご迷惑を。」
「いいのいいの。飲まなきゃやってられないって日もあるのよ。」
「どぉーよぉ。これがワタヒの嫁どぞぉ。可愛かろぉ。」
ろれつの回ってない美並先輩が、とんでもないことを口にしてるが、いつものことなのか、先輩の友人は、「はいはい、可愛い可愛い。」と適当にあしらっている。
「じゃぁ、悪いけど後よろしくね。」
その友人さんは、そう言い残すと、迎えに来たタクシーに乗って行ってしまった。
「はーい、先輩。歩けますかぁ?」
私は美並先輩に肩を貸すけど、背が低いので、先輩にしっかりと立ってもらわないと引きずってしまう。
「まどかひゃぁん、ごめんねぇ。こんな先輩でごめんねぇ。」
「はいはい、大丈夫ですよ。先輩は素敵です。」
「ほんとぉ?でも、私なんかぁ……。」
「ほんとですよぉ。いつも助けてもらって感謝してるんですからぁ。それより駐車場まで歩けますか?」
「歩きたくなぁい。まどかちゃんおんぶぅ。」
「無理ですって。私じゃぁ引きずっちゃいますよ。」
「じゃぁ、抱っこぉ。お姫様抱っこしてぇ。」
そういって首に腕を回してくる先輩……ここまで酔った先輩を見るのは初めてだなぁ。
「抱っこぉ、……ダメェ?」
上目遣いで、甘えた声を出す美並先輩……なんだ、この可愛い生き物は。
私が男だったらオオカミさんに変身間違いなしですよ。
「もう、しょうがないですね。」
私は先輩を引きずって、すぐ横に合ったカラオケボックスへ入る。
先輩が歩けないんじゃしょうがない。ここで少し酔いを醒ましてもらおう。
この辺りは飲み屋さんが多いから、あそこで時間をかけていたら、変なのに絡まれないとも限らないからね。
かといって先輩一人にして車を取りに行くには危険が大きすぎる。
……私が男の人だったら、ここじゃなく隣のホテルに連れ込んだかもしれない。……というか、絶対先輩一人で合コンとか参加させちゃダメだ。
「はい、先輩。ウーロン茶ですよぉ。」
「ん~、カラオケぇ。」
私が渡したグラスに口をつけながら、先輩は機械を操作し始める。
そして流れ出す曲……。先輩が、酔っ払っいながらも、ウェディングベルと歌いだす。
聞いたことがないけど、一応ウェディングソング?……にしては歌詞がかなり、その、なんていうか……。
恨み辛みの塊……、この詩を書いた人は、絶対結婚に嫌な思い出があったに違いない。
「うぅ~、どうせ私はおひとり様よぉ。来年にはクリスマスケーキの半額セールよぉ。」
美並先輩がぐちぐちと言い出す。
「何が「美並もきっといい人が見つかるわよ」だよぉ。勝者の余裕ってかぁ!やっぱりこの歌うたってやるんだった。」
美並先輩の話では、今日の花嫁が美並先輩の学生時代の友人で、昔からモテることを自慢していた、ちょっと嫌味な娘さんらしい。
「悪い子じゃないんだけどねぇ。」と美並先輩はフォローしてるけど、友人何人かでお祝いの歌を歌ってと言われた時には、なんで私がっって思ったんだとか。
それで選曲の段階になって、先輩がこの歌を選んだ時、周りの友人一同が必死になって止めたんだって。
「でも、この歌はちょっと。歌わなくてよかったですよ。」
だって「くたばっちまえ!」だもんねぇ。さすがに、空気読めてないよね。あ、でも……。
「美並先輩、まさかと思いますが、ひょっとしてあの新郎さん、元カレとか?」
「いくらまどかちゃんでも怒るわよ。」
えらい剣幕で睨まれた……ゴメンナサイ。
でも、先輩の口調も動きも大分しっかりしてきたみたいだし、延長しなくていいかな?
そんなことを考えていたら、先輩がさっきの曲をもう一回入れて、今度はしっかりと歌いだす。
40年ぐらい前の曲なんだって……。あ、でも、この歌詞……。
先輩の歌を聞いていると、なんか変なデジャヴを感じる。
歌を聴きながら、スマホで検索して歌詞をよく見る。
……デジャヴ……だね。
「あー、すっきりしたぁ。……どうしたのまどかちゃん、変な顔して。」
「あー、うん。えとね、先輩が歌った歌でなんかデジャヴを感じて。」
「デジャヴ?」
「今日の結婚式ですけど……先輩は新婦側にいたからご存じなかったと思うんですけど……。」
私はそう前置きして、今日の挙式の様子を話し出す。
私は、今日の挙式、先輩の紹介ということで撮影を担当することになったんだけど、挙式が始まる寸前にそっと入ってきたお客さんがいたの。
きれいな女の人だったから、てっきり新婦の友人かと思ったんだけど、その人は新郎側の一番後ろの席に座ったのよ。
一応間違いじゃないかと確認しようとしたけど、すぐ挙式が始まる時間だったから、そのままだったのよ。
私は、挙式の撮影をしながらずっとその人のことを気にかけていたの。
だってねぇ、青白い顔をして、顔をずっと伏せてたかと思うと、時々、新郎を見るんだけど、その目つきがね、睨んでいるといった感じなのよ。気になるでしょ?
後、手をずっとバックにおいて、何かを押さえている感じがどうしても気になってね。
そのまま挙式は終わったんだけど、そのあとのフラワーシャワーの準備中に新郎の友人の会話が聞こえてきたのよ。
『おい、京子さん来てるぜ。』
『マジか?あいつもよく呼ぶよなぁ。元カノだろ?』
『あぁ、でも、京子さんもよく来るよな。なんか変なこと起きなきゃいいけど。』
……えっと、彼女は新郎の元カノさん?で、新郎は元カノを挙式に呼んだ?……ないわ~。
「結局、元カノさんは、しばらく何か考えていたかと思うと、新郎新婦が出てくる前に帰って行っちゃったんですよ。ね、なんかこの歌詞と似てると思いませんか?」
「あー、うん。ちょっとびっくりだわ。」
「あと、私ずっと気になってたんですけど、その元カノさん、片手をバックに入れて、もう片手でバックの上から押さえていたんですよ。挙式の間ずっと……。あのバックに何が入ってたんですかねぇ?」
「……まどかちゃん、世の中には知らない方がいいってこと、たくさんあるのよ?」
「……そうですね。なぞは謎のままにしておきましょう。きっとその方が平和ですよね。」
私と先輩は、そのあと3時間にわたり、明るい曲多めのカラオケ大会を開いたのでした。
◇
……どうでしたか?
今回は私の経験談でしたが、一言でいえば、男はゲスってことですかね?
この業界にいると婚期が遅れるっていうけど、それも無理のない話かも?
っと、最後に、お約束の……。
『このお話はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。登場する団体名・人物名はすべて架空の物です。』よ。
何度も言いますよ、フィクションですからね~。
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