ス○ール○ォーズ!?
おはようございます、またはこんにちわ……こんばんわかな?
ナビゲーターの朝岡まどか、二十歳独身です。彼氏は……別に要らないよね。
朝晩はまだ寒いけど、日中はポカポカしていて、春めいてきた今日この頃、皆さんはどうお過ごしでしょうか?
3月と言えば卒業シーズンですよね。卒業式に泣いちゃって「これは違うんだから、花粉症なんだからっ」って言い訳していたころが懐かしいです。
さて、卒業と言えば、私達にとって深くかかわりがるのが「卒業アルバム」です。
卒業式前に納品しちゃうから、手にした生徒の表情が見れないのが残念だけど、1年間頑張った結果なんだから、是非喜んでほしいというのは私の我儘かな?
ここでちょっとだけ卒業アルバムについて説明させてね。
校舎の全景や,イメージカットのページ、先生鋳型と生徒たちの個人肖像写真のページ、授業を受けている姿などの日常風景のページ、それから、遠足や修学旅行、研修旅行とか、運動会や文化祭に球技大会などの季節のイベント、それぞれのページ、そして、部活動などのページ……小学校だと、クラブ活動や委員会活動のページね。
請負業者によって、差異はあるけど、大まかに言ったら、卒業アルバムはこんな感じの構成になってるわ。
後は業者の意向に寄るけど、出来るだけ短い日数で撮影を終えたいから、行事以外で撮影できるものは出来るだけ日程を詰め込んじゃうのが普通。
例えば、個人写真を撮影する日に、部活動の撮影もするとか、日常風景を撮影している日に先生方の撮影を済ませちゃうとかね。学校側も、アルバム関係であまり煩わされたくないってところが多いから、日数が短いのは歓迎される場合が多いわ。
だから、年間の思い出が詰まった卒業アルバムだけど、撮影でお邪魔する日数は年間通して2週間程度だったり、学校の規模によっては2~3日だったりするのよ。
そんな、以外と関わる日数が少ない学校でも、忘れられないような、濃い体験は意外と転がってたりするのです。
今回はそんなお話……。
◇
案件1 中間管理職の悲哀
市内の北部、山の手の高台に、その高校はある……俺が3年前から担当している恵ヶ丘高校だ。
この高校は、50年ほど前に、近くの大規模な分譲住宅街が作られたため、その受け入れのために創立された学校だった。
創立初期は生徒数も多く、また優秀な生徒が集まっていたため、県下でも有数の進学校として名を馳せていた……時期もあった。
生徒数が多ければ部活動も盛んになり、全国へ行く部もいくつかあったりもした。
……全ては過去の栄光である。
県内の有名企業のお偉いさんの中にも、この高校卒の人は多数いるが、彼らは在籍していた大学名は言っても、高校名を決して語ろうとはしない。
つまりは、そう言う事だ。
一時は一学年あたり500人を超えていた生徒数も、年々激減傾向にあり、昨年は、一クラス30人にして辛うじて6クラスあったのが今年は4クラスまで減っている。
この学年も、1年生……入学式直後の生徒数は300人近くいたはずなのだが、年々転校・退学者が出て、3年進級時には半分以下になっているというのが、まぎれもない現実だったりする。
まぁ、つまり、そういう高校だという事だ。
引継ぎを兼ねて先輩と初めてこの高校の撮影に来た時、集合写真に並ぼうとしない生徒を、センパイが胸ぐらを掴み、引きずって並ばせていたのを見た時には、正直言って、担当を断ろうと思った。
まぁ、それでも、3年も担当していればそれなりに付き合い方を覚え、愛着もわくというものだ。
生徒一人一人と接する分には、それほど悪い子たちじゃない……と言うか、意外に素直で大人しい子が多いのが分かる。
これが集団になるとどうしようもなくなるのだから、集団真理というのは恐ろしいと思った。
そんな感じの高校なので、他所ではなかなか見かけない光景が見られたりするのも、この学校の特徴の一つだ。
この高校は高台の丘の上に立っている為、通学する生徒は長く急な坂を上ってこなければならない。大抵の生徒は坂の途中で自転車を降り引いて昇ってくるのが毎朝の風景。逆に帰りはその勢いのまま坂を下りていくので、坂の終わりでの事故が絶えず、下校時には担当の先生が立って見張っている。
この見張りを、先生たちの中では「校門当番」と呼んでいるが、この校門当番、朝帰りの通学時だけでなく、休み時間の度に駆り出されている。
何をやるのかと言えば、その名の通り、校門に手生徒が出て行かないように見張るのだ。
実は、坂の下の国道沿いにコンビニがあり、生徒たちは学校を抜け出してコンビニに足を運ぶことが多々あるのだ。
それだけであれば、学校側もそれほど躍起にはならなかっただろうが、そのコンビニで万引き被害が多発するとなれば、学校側としてもそれなりの対処に迫られるのが道理というものだ。
しかし、生徒だってバカではない。校門が封鎖されているのなら、それ以外の場所から脱出すればいい。
という事で、国道側の山肌を、昼休みになると集団で駆け下りてくる生徒の姿が目撃されることになる。
その様子は「猿山から、サルが集団で降りてきて、襲い掛かってくるようだ」と、コンビニ店員が呟いていたのを覚えている。
因みに、そのコンビニは1年ほどでつぶれた。
学生相手をアテにして、その学生によって潰されたコンビニには、御気の毒、という言葉以外駆ける言葉が見つからなかった。
その様な学校なので、学生や保護者はもとより、関係者である先生方の間でも評判は悪く、3月の移動発表後、別の学校で、恵ヶ丘に赴任が決まった先生を見かけた時、げっそりと激やせしていたのは実に印象的だった。
逆に、恵ヶ丘から異動が決まった先生と、別の学校でお会いした時、見違えるように生き生きとしていたのを覚えている。
まぁ、先生がそんなだから、生徒たちに対しての説得力があるわけもなく、余計に悪循環になっていくわけで、そんな中で板挟みに苦しんでいるのが教頭先生だったりする。
教頭先生は人柄もよく、誠実で、気遣いのできる先生で、俺も撮影でお邪魔した時に、よくコーヒーを御馳走になっている。
ただ、生徒があんな感じなので、やる気を投げ捨てた先生方、とにかく指導を徹底しろ、というだけの校長先生の間に挟まれて、かなり苦労しているようで、初めて会ってから3年も経っていないのに、白髪がかなり増えたように見える。
そんなある日、日常風景の撮影にお邪魔したある日の事。
一通り撮影を終えた俺は、次の授業までの間にトイレを済ませておこうと考えた。
来客用の御手洗いは下の階の職員室の横にあるので、少し面倒だと思いながら、生徒用のトイレの前を通り過ぎる用として、立ち止まる。
中に人影があるのに気付いたからだ。
授業を抜け出してサボる生徒はこの学校では少なくない。ただ、そういう生徒はさっさと帰ってしまうので授業中にトイレにいるというのは珍しい。俺はさりげなく御手洗いの前を通り過ぎながら様子を伺う。
その時ちらっと見えたのは、教頭先生が大用の個室の扉に張り紙をしている姿だった。
教頭先生は、張り紙を張り終えると、何かの入ったバケツを持って、そのまま出ていく。
俺は教頭先生の背中を見送った後、そっとトイレの中に入る……。あの張り紙がすごく気になったのだ。
そしてその張り紙には大きくこう書かれていた……。
『禁煙』……と。
俺は先ほど見た教頭先生の背中に哀愁が漂っているのを感じるのだった。
◇
案件2 文化的な文化祭??
季節は秋。
今日は、あの、恵ヶ丘高校の文化祭だ。
この学校の取材に、前来たのが6月で、それ以降何の用もなかったので、この学校に来るのは3か月半ぶりになる。
以前来た時、つぶれて売りに出されていたコンビニの跡地がネットカフェになっていたのを見て、今日の昼はあそこにしようと決めた。
他の学校であれば、文化祭の撮影は昼食をとる暇もなく、終わってから食べるしかないのだが、この学校は、かなり暇を持て余すことが分かっているから、昼時、しっかり昼休憩をしても何の問題もないだろう。
というか、昼休みを潰して迄撮影に取り組む気になれない……相手がいい加減なのにこっちが真面目に取り組んでも疲弊していくだけなのだ。
その要因の一つに、先日の校長先生からの電話があった。
昨年のアルバムの文化祭のページに不満があると、1時間にわたりクドクドと御叱りを受けたが、要は「文化祭なのだから、文化的な写真を撮影しろ」という事が言いたかったようだ。
因みに昨年のページは、ヨーヨー釣りや輪投げを楽しむ生徒の笑顔が満載のページだった。まぁ、3年の出し物が「縁日」だったのだから、何の問題もないはずだけど、今年赴任してきた校長先生にとっては「こんな遊んでいる写真を載せては、わが校の品位に関わる」というのだ。
その言葉を一字一句間違いなく全担当の先輩に告げたら、大笑いされてしまった。
そして教えてもらった情報。
あの校長先生は、それなりにエリートコースを歩んで来たらしく、校長職を数年経験した後、教育委員会のそれなりのポストに進むらしい。
つまりキャリア形成のための踏み台としての校長職なのに、与えられた移動先が悪名高い恵ヶ丘高校ということで、かなり荒れたとのことだった。
しかし、いつも思うのだが、先輩はそんな情報をどこから仕入れてくるのだろうか?
というか、そういうコミニケーション能力が必要だというのだろうか?
俺はまだまだだと思いながら、素直に先輩に教えを請う事にした。
で、教頭先生やアルバム担当の先生とも色々と話をして得られたのが、以下の要綱。
今年の文化祭、3年生は伝統文化に関わることを必須とする。
ただ、学校全体の風潮なども鑑みて、堅苦しいものではなく、楽しみながら伝統文化を学べる場、というものをテーマとして取り組む。
電話越しでは行き違いがあるといけないので、当日、少し早めに伺って、打ち合わせをする、という事に決まったまではよかったのだが、あそこの生徒が真面目に伝統文化に取り組むとは思えないんだけどなぁ。
学校について、さっそくアルバム担当の先生と打ち合わせ。
プログラムで、三年生の関わっているものの説明を受ける。
餅つき、地域伝統和太鼓、伝統芸能体験などなど……。
校長先生の要望を受け入れつつ、何とか生徒に興味を持って取り組んでもらおうとしている先生方の努力が見えて、思わず涙ぐんでしまう。
それから、担当の先生と詳細を詰めていく。とにかく伝統文化に関わっている写真以外は載せない事。
その辺りで休んでいる写真や、ただ歩いている写真は必要ない、などなど、かなり撮影内容が制限されてしまった。
これでは、あまりいいページが作れないな、と思いながら、俺はすべてを受け入れる。
自信が納得していなくてもクライアントの意向を無視するわけにはいかない。
自分が納得する仕事だけをしたいなら、フリーになって、仕事の選り好みが出来るだけの力をつけなければいけないのだ。
そう、ここの校長先生が好き放題言えるのと同じように。そして今の俺の立場は、ムリだ、間違っている、と言えずに従うしかない、教頭先生やアルバム担当の先生と同じ立場なのだ。
そうこうしているうちに、生徒が登校してきて文化祭が始まる。
全校生徒を集めオープニングが終わると、後は生徒が勝手気ままに動き回る。
本来であれば、3年生を探し、追いかけながら撮影していくのだが、今回は色々な縛りがあるので、3年の出し物のスペースに向かう。
餅つき会場。
餅つきであれば、確かに伝統文化であり、また生徒たちも楽しめるだろう。これなら校長先生も文句は言えないはず……表立っては。
そして、予想通り、その場は凄く盛り上がっていた……先生たちが。
というか先生しかいない。搗いているのは先生だけ。
俺は生徒の姿を探す。先生の陰に隠れるように、当番の生徒が二人、受付と書かれた机の前に座っているだけだった。
俺は暫く待ってみたが生徒が来る様子は全くなかった。
偶に来た生徒も、1年生か2年生のみ。俺は仕方がないので、先生に声をかけ、受付に座っている生徒に、無理やり餅をつかせて写真を撮る。
……まぁ、季節的に少し早いからな。
俺はそう自分の中での言い訳をしながら次の場所へ向かう。
地域伝統和太鼓。
設置場所までまだ距離があるが、威勢のいい太鼓の音が鳴り響いている。
プログラムでは、地域の有志の方に教わりながら太鼓を叩くというもの。
これも地域に脈々と受け継がれている伝統芸能を学ぶ、という事で、校長先生のお眼鏡にかなうものだろう…………ちゃんと生徒がいれば。
太鼓を叩いているのは近所の有志の方と先生のみ。
生徒が全然来ず、そのまま放置するわけにもいかないので、代わりに先生が教えてもらっているという事だった。
教えてる有志の方も苦笑いが隠せない。
丁度トイレから出てきた見知った顔の3年生がいたので、追いかけて捕まえ、無理やり太鼓を叩かせて写真を撮る。
写真を撮り終わると、その生徒は逃げるように走って何処かへ行ってしまった。
それから1時間、俺は校内を彷徨い続けるが、何故か3年生と出会う事がない。太鼓の後撮影できたのは、茶道部のみ。文化部の出し物はいくつかあるが、校長先生からアルバム掲載の許可が下りているのは茶道部のみだった。
そこにはやっぱり生徒の姿はなく、閑古鳥が鳴いていたが、他の部活の当番でいた生徒を引っ張ってきて、それなりに体裁を整えて写真に納めることは出来た。
さらに1時間が過ぎた。すでに、お昼という時間は通り過ぎている時間だ。文化祭も、あと1時間で終わる予定。
俺はこれ以上の撮影を諦め、全生徒が集まる閉会式迄、昼休憩を取ることにした。
お昼は、朝決めておいたネットカフェ。
昼を過ぎているのに結構混雑しているが、一人であれば大抵何とかなるモノだ。
そして、ネットカフェに入って、俺はすべてを理解する。
こんな時間でも混雑している訳、そして、文化祭なのに3年生がほとんどいなかった訳……。
「……ここに居たんじゃ学校で見かけるわけないよなぁ。」
俺は、こっそりと、ネトゲに夢中になっている三年生、無心に漫画を読んでいる三年生を何カットか写しておく。
「これも一つの文化だけど……アルバムには載せられないよなぁ。」
◇
……今回のお話は高校生の実態?でしたね。
でも、高校のトイレに、禁煙って張り紙する必要あるのかしら?
それから、ネカフェは私も大好きですよ。お金がかかるのが難点ですけどね。ってか、高校生の分際で出入りしてるなんて生意気だと思うわ。
あ、分かってると思うけど、一応……。
『このお話はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。登場する団体名・人物名はすべて架空の物です。』よ。
フィクションを気にしちゃダメですからね~。
ネタは色々ありますが、並行している作を優先に投稿していきますので、こちらの作品は不定期更新です。
何か面白い事があった時、書きたくなったときに更新しますので、気長にお待ちください。
忘れた頃に投稿する場合もありますのでブックマークしておくことをお勧めします。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。